(1) 母親の愛を素直に受け止めれない・・・
母親の愛を素直に受け止めれない・・・
「優・・・優奈ッ」
自分の母親、香織の声で目が覚めた。
「ん・・・?」
「ああ、良かった・・・」
突然、香織が優奈を強く抱きしめた。
「痛ッ、痛いよ・・・」
優奈は、毛布に何重にも包まれ、自室のベッドに横たわっていた。
「優奈・・・あなた、森に倒れてたの・・・体、とても冷たくて・・・、病院は閉まってたし・・・あぁ、どうしようかと思った・・・」
香織は涙を頬に伝わせている。
「お母さん・・・心配かけて、ごめん。私なら大丈夫だから」
どうやら、優奈の精神は別世界で遊んでいたようだが、向こうへ連れて行くことの出来なかった優奈の本来の肉体は、こちらの世界で冷え切ってしまっていたらしい。当然ながら、優奈がその事を香織に話す事は無かった。
「ああ優奈・・・お母さんに何かしてほしい事はある?」
「別に、ないよ・・・それよりお母さん、仕事は?」
香織は静かに首を振る。
「そんなのいいから・・・今日は休むわ」
しかしそれを聞いた優奈は、怒りを覚えた。自分が倒れた時にだけ心配して、それで気持ちが救われるのは自分だけだ、と思ったのだ。しかしそれはあまりにも理不尽なものであった。
「私のためにそんな事しないでッ!!うちお金無いんだから、お母さんが働かないと生活出来ないんだよ?」
「優奈・・・」
香織は優奈を悲しげに見つめると、それ以上は何も言わずに部屋を出て行ってしまった。
「私・・・何てことを・・・」
怒りに任せ、あのような暴言を吐いてしまった優奈の後悔は、母親に届く事は無かった。
時刻は朝の8時。思えば、優奈が森で倒れてから香織は優奈を見つけ出し、部屋まで運んだ上に、ずっと付き添ってくれていたのだ。何故優奈が森で倒れていたかという理由も、優奈の事を思ってか聞かなかった。
「お母さん・・・」
香織がそれから優奈の部屋に戻って来ることは無かった。恐らく、無理をして仕事に出たのだろう。
「・・・・・・」
どうして私はこうなんだろう。この世界は歪んでいる。私には合わない・・・。そんな事を考えていると、いつしか優奈は再び深い眠りに落ちていた。