(7) 楽しい時間はあっと言う間に過ぎてしまって。
楽しい時間はあっと言う間に過ぎてしまって。
「まぁ、そんな事はどうだっていい。さぁ、早速遊ぼうじゃないか」
「うん!!」
ユウは優奈をひょいと持ち上げると、壁に設置されてあるレバーを下ろした。すると、ゴゴゴ・・・という低い音と共に、床に大きな穴が開いた。急な階段が中へ続いてあるが、真っ暗でその先は見えない。
ユウは隅に置いてある小さな机の上にある、少し埃を被ったランプに手を翳した。
すると、小さな灯りがランプに出現し、やがてそれは威力を増し、部屋全体を淡く照らし出すものになったのだ。
「!!どうやったの?」
驚く優奈を得意げに見下ろし、ユウは言った。
「これが私の力・・・魔術っていうんだ」
「へぇ、凄いねっ」
ユウは微笑むと、優奈を抱いている腕とは反対の手でランプを持ち上げ、階段を下って行った。
その場所は、とても広いようで、ランプの灯りが届く範囲に向かいの壁は見えなかった。
「んー、さすがに暗いか・・・」
ユウはランプ下に置くと、すぐ側の壁に付いているスイッチを押した。すると室内は突然、眩しい太陽の光が当てられたかの様な白い空間になった。
「眩しすぎ・・・」
ユウはスイッチを様々にいじり、明かりを落とした。室内は、遊ぶには丁度良い明るさになる。
優奈は、その部屋の景色を目の当たりにすると、感嘆の声を漏らした。
そこはまるで外の雄大な自然と変わらない景色なのであった。床である筈の場所は草で覆われていて、様々な花が咲き乱れ、蝶がひらひらと舞う。天井である筈の場所は、本物の様な空が広がっている。これもユウの魔術なのだろうか。いや、そうに違いないだろう。
「ここでなら、楽しく遊べるなろう?」
ユウはそこで、手を二回パンパンと叩いた。すると、どこからともなく二頭の小さな馬が駆けつけて来たのだ。
「乗ってみて。とても気持ちが良いんだ」
それから二人は、広すぎるその部屋で様々な事をして遊んだ。草原を駆ける馬の乗り心地は最高だし、湖には信じ切れない程大きな魚が泳いでいる。また、様々な種類の動物がそこでは生活していた。
「ここって・・・最高だね」
「でしょう?もし良かったら、いつまでもずっと、ここに居てもいいのだよ」
しかし、優奈はユウのその誘いには乗らなかった。
「残念だけど・・・もう家に帰らないと。お母さん、きっと心配してるだろうな」
優奈のその言葉に、ユウは顔を下に向ける。
「そう・・・。また、来てくれる?」
「うん!いつでも呼んでよ」
ユウは突然顔を上げ、嬉しそうに笑った。
「本当?嬉しい!・・・じゃあ、またね」
「うん、またね」
優奈の意識は除々に薄れていき、やがて目の前が真っ暗になった―