(5) 不思議な少女に出会った。
不思議な少女に出会った。
(ん・・・あ、いけない、寝ちゃってた!!)
優奈が目を覚ますと、辺りは既に薄暗く、全身に受ける風も冷たかった。
風邪を引いてしまったのか、声を出そうにも出なかった。
(お母さん、心配してるかな)
立ち上がろうとした優奈は、妙な違和感に襲われた。
腕を立てようとしたのに、まるでその感覚がないのだ。それどころか、身体が勝手に浮上し・・・自分の姿が、何だかもやもやしている霧のような物体に視える。
(え、え・・・!?)
優奈の身体は優奈の意思に関係なく、まるで何かに吸い寄せられているかの様に風に乗って森を駆ける。
森を抜けて優奈の目に飛び込んできたのは、信じられない光景であった。あんなにびっしりと生えていた筈の草はその半分も無くなり、そこは荒地と化していたのだ。
「・・・!!」
さらに、上を見上げると遠くの方には黒煙が立ち昇っている。
状況が呑み込めぬまま、それでも優奈の身体は街の方向へと向かう。
しかし、不意に優奈の動きを止めるものがあった。
「おや、ここに居たのだね」
謎の声が優奈の前に立ちはだかり、そして優奈の視界は真っ暗になった。
「大丈夫、私の側に居れば」
その声は、何だか誰かの声にそっくりで、優奈は少しだけ安心感を覚えた。
それから、どのくらいの時間が経ったろう。相変わらず視界は真っ暗で、箱の中にでも入れられているのであろう優奈は、謎の人物に運ばれてと在る場所へと移動している様であった。
扉の開く音、閉まる音。階段を降りる音。そして、揺れが収まると、
「これでいい」
優奈は久々にその声を聞いた。よく考えると、それは自分の声にそっくりだということに優奈は気づく。
不意に視界に光が射し込み、優奈は驚く。箱の中に入った自分を見下ろしているのは、漆黒の、腰まで届いている髪を携えた少女であった。彼女は不気味なピエロのお面で顔を覆い、全身にほどけかけの包帯を巻き付けている。とてつもなく動き難そうな格好である。
「ちょっと待ってて」
彼女はそう言うと、すぐに優奈の目の前に可愛らしいくまのぬいぐるみを置いた。全長1mはあるだろうか。かなり大きめのサイズである。
「このぬいぐるみは、私が丹精込めて作ったものなんだ。その身体じゃ色々と不便だろう?新しい肉体をプレゼントしよう」
ピエロのお面から、そんな言葉が漏れる。
「・・・?」
意味も解らずただそのぬいぐるみを見つめていた優奈の身体は、再び勝手に浮上し始め、そのぬいぐるみ目がけて漂って行く。やがて、辺りが一瞬光ったかと思えば、優奈の精神はぬいぐるみの中に入っていた。