(3) 退屈な現実から逃げた。
退屈な現実から逃げた。
香織が出て行った後の家で、優奈は一人、リビングのテーブルに置かれた皿を見つめる。
香織の手作りのサンドウィッチ。優奈は皿に張ってあるラップを一度剥がすと、取り出したサンドウィッチにそれを巻き、リュックに入れた。
「私も行きますかっ」
優奈は自分にそう言うと、家を出てしっかりと鍵を掛け、西の方向にあるとある草原を目指して歩き始めた。
「~♪」
鼻歌交じりに歩くこと数十分。辺りは建物の気配も無くなり、どこまでも続く緑の絨毯が広がっている。優奈はその中の、小高い丘に登ると気持ち良さそうに一息吐いて下を見下ろした。近くには小川も流れ、とても爽快な景色である。
「ふ~ん・・・涼しい・・・」
優奈は両手を広げてそのまま草の上に寝転がる。この時間が優奈にとっては至福の一時なのである。
ただ何もせず、澄み切った青い空を眺める。他人にとっては、こちらの方が退屈で無駄な時間かもしれない。しかし、優奈にとっては色々と騒々しく面倒な世界にいるのよりも、誰も居なくてのどかな夢の中にいることの方が刺激的なのであった。
「ふふっ」
片手を上に伸ばしていると、一羽の小鳥がその先に止まった。
「お前はいつも来るね。餌が欲しいの?」
優奈はリュックの中からサンドウィッチを取り出すと、少しだけちぎってその小鳥へと差し出した。小鳥は嬉しそうにその欠片をつつく。
「私も食べようか」
自分も少し早い昼食を摂ると、優奈は次に丘を降りて小川の方へ向かう。小鳥も優奈の後を追う。
再び、リュックの中から次はマグカップを取り出すと、優奈は小川の水を汲んで美味しそうに飲み干した。
「そう言えば・・・この川、どこから続いてるんだろ?」
水の流れに注目すると、それは今まで気にもとめなかった森の方から続いていた。
「よし、暇潰しに行ってみるか」
すると例の小鳥は優奈の周りを一周して羽ばたくと、森の方へ飛び立った。
「案内してくれてるのかな?」
優奈は優しく微笑むと、ゆっくりとのそ歩を進めた。