(1) 意味不明の再会。
意味不明の再会。
精神だけの身体である優奈の目の前に広がるのは、真っ白で殺風景な空間であった。部屋の中心には大きな機械が吊るしてあるが、どうやら今は起動されていないらしい。辺りに、人は居ない。
(・・・・・・?)
先程までは、黒フードの集団や神山というこの国のトップ、そしてユウが居たはずだ。というか自分はあの時、偽造した秘密書類のコピーを持って魔術研究室へ忍び込んだのだ。ある男に見つかって、怪しげな術をかけられて・・・・・・そこからの記憶は無い。気付くとこの部屋に居たのだから。
(そうだ、時間!)
生憎この部屋には時計という気の利いた物は無く、優奈は扉の鍵穴から外へ出る。初めての場所で何処に何が在るのかも分からなかったが、複雑な通路を適当に進んで行くと、いつしか見覚えのある場所へ辿り着いていた。
先程と同様に鍵穴を通って在る部屋の中に入ると、中では疲れ切った様子の壮一がコーヒー片手にコンピューターをいじっていた。
(壮一!!)
声にならない声を上げ、優奈は壮一の前に出る。
「・・・・・・?」
どうやら精神だけの身体では普通の人間に視る事は出来ないらしく、それでも壮一が目を擦って霞んだ視界を晴らそうとしたのは、壮一に少しでも魔術を扱える力があるからであろう。
それから数度目を擦ってはみたものの、しかし違和感を覚えた壮一は、やっとそれが目の霞みではないという事に気付いた。
「誰だ・・・?」
言いながら、机の引き出しの中からある物を取り出した。――何か金属の紐をぐるぐると巻いて作られた、可愛げの欠片ものない人形。壮一はそれを優奈の前に置き、何かを唱え始めた。すると、まるで優奈とその人形が磁石になったみたいに、優奈の身体はその人形の中へ引き付けられ、辺りが一瞬光ると優奈は人形の中へ入り込んでいた。この経験は、何度目だろう。
「壮一、優奈だよ!!」
「お前・・・何故ここに?蝶の肉体はどうした?」
先程使った、精神と肉体を融合させる魔術・・・壮一の身にはかなりの負担がかかったらしく、頭を抑えながら壮一は問うた。
「よく分からないの・・・」
それから優奈は、極秘書類を入れ替える瞬間に黒フードの男に見つかり怪しげな呪文を唱えられてそこからの記憶が無い事、そして気付いたら黒フード達や神山司に取り囲まれて真っ白な部屋の大きな機械の下に自分とユウが居た事、再び意識が無くなって気付いたら誰も居ない真っ白なその部屋に自分が居た事などを長々と話した。
それを聞き終えた壮一は、珍しく驚きの表情を顔に出していた。
「・・・恐らくお前は、あの世界が滅びてしまう瞬間に・・・この世界に飛ばされたらしい」
「え?」
壮一の発言の意味を優奈は理解する事が出来なかった。
「飛ばされた・・・?全く同じ世界じゃない」
コンピューターをスリープモードに設定し、壮一は金属の肉体の優奈に向き直る。
「ちょっと長い話をしようか――」
ゆっくりと、語り出した。
「まず・・・、お前は既に一度死んでしまった身だ」
「ふぅーん、・・・・・・え!!?」
あまりにも平然と言う壮一に、驚く優奈。突然そんな事言われたって、そりゃ驚くだろう。
「お前は書類を入れ替える時に、黒フードに見つかって、呪文によってその身を破壊されたんだろう。・・・つまり、殺された。だからすりかえる予定だった極秘書類もそのままで、例の作戦は実行された・・・。本当はB73の包帯を解くとすぐにコンピューターは起動され、B73に一切の自由は与えられなかったろう。しかし俺のこれまでの作業により、コンピューターの起動が遅れたようだ。B73は包帯が完全に解かれるまでの、自分の力がまだ自由に扱える瞬間を狙ってお前をあの世、つまり天国から召喚した・・・・・・」
「・・・!!そんな、死人を生き返らせる事なんて出来るの?」