(5) 作戦失敗、そして・・・。
作戦失敗、そして・・・。
「・・・さて、どうやってこれを運ぼうか・・・」
紙の重みは感じないが、このままでは動き難い。器用に足を使って、数度折り畳んだ。ここからは決して人に見つかるわけにはいかない。紙を持っている蝶なんて、それだけで皆の注目の的となってしまうだろう。
部屋の扉は優奈がギリギリ通り抜けれる程度に開いており、そこを抜けて天井付近へ移動する。
「ここからは誰も頼れないんだ・・・・・・」
自分にそう言い聞かせ、魔術研究室のある二階へ向かった。
すると、何とタイミングの良い事に黒フードの人物が部屋へ向かっていた。背丈などから判断し、先程の人物ではないようだ。優奈は急いでその肩に止まる。先程ここへ来た時よりも、容易に部屋へ入る事が出来、優奈は安堵する。
(後は、この二枚の書類を入れ替えるだけ・・・)
例の極秘ファイルが広げてある机の上に舞い降りると、優奈は自分の持っている偽者の書類を丁寧に広げようとした。が、その矢先、ガチャッという扉の開く音と共に、もう一人の黒フードの人物が部屋へ入って来た。優奈は驚き、思わずその反動で偽造した書類を地面に落としてしまった。下手に動いて見つかってしまう事を恐れ、優奈は机の隅に身を隠す。しかし運の悪い事に、その黒フードは優奈が隠れる机の前までやって来たのだ。
「ん・・・?」
優奈と男の、目が合った。
「これは・・・・・・」
しわがれた声である黒フードの男は、優奈の羽を摘み上げる。
「ふむ、我らの作戦を邪魔する者、か」
特に驚いた様子もなく、そう呟いた。
「破滅せよ」
男の声が優奈の耳に届いたかと思えば、優奈はもう――何を視ることも聴くことも、感じることですら出来なくなっていた。粉々になった黒い蝶の羽が、宙を舞う。