(2) 親子の絆はゆっくりと育まれてゆく。
親子の絆はゆっくりと育まれてゆく。
香織は優奈の向かいに座ると、テレビを消して優奈の目を見つめた。
見ていたテレビを消された優奈は少し不満気な表情を香織に向けた。
「・・・何?」
「優奈・・・学校で、何か嫌な事でもあったの?」
優奈は香織に思ってもいなかったことを訊かれ、戸惑う。
「え、ないけど・・・?!何、私悩んでる??」
香織は優奈のその反応に一安心したが、何もないとすれば何故優奈が学校へ行かないのかが余計気になった。
「優奈・・・どうして、学校へ行かないの?何かあったんじゃないの?」
すると優奈はふぅっと短いため息を吐き、
「別にお母さんには関係ないでしょ。一々そんなの訊いてこないでよ」
冷たく言い放つと食器を下げ、自室へ戻った。
後に残された香織は悲しげな目で優奈の上って行った階段を見つめる。
「今日は何しよ・・・」
優奈はしばらく何かを考える様子を見せると、ピンクの可愛らしいリュックを背負い、再び下へ下りた。
香織が荒れた手で二人分の食器を洗っている。
優奈はその姿を見て何を思ったのか、唐突に香織の背に向けて言葉をぶつけた。
「お母さん・・・私、この世界が退屈なの。だから退屈な学校にも行かない。もちろん、友達は優しいし大事だと思ってるよ?・・・でも、やっぱりこの世界は私には合わないみたい。私、いつも特別なモノを求めてるみたい」
「優奈・・・」
食器を洗う手を止め、香織は優奈を真剣な眼差しで見つめる。
「私が普段何もしてやれないから・・・ごめんなさい」
下を向き、小さく呟く。
「そんな、お母さんのせいじゃないよ。お母さんは女手一つで私を養っているんだから、何も頑張る必要はないんだよ」
実は、優奈には父親がいない。優奈がまだ幼い頃に、事故で亡くなってしまったのだという。
そのためか優奈は親との付き合い方がいまいち分からないらしい。いつも忙しい香織は、優奈と遊んだり出かけたりした事があまり無いのだ。
「優奈・・・お昼ご飯、そこに置いておくからね」
香織の表情は、心なしか嬉しそうであった。普段心の内を明かさない優奈が、こんなにも自分に話してくれたのだ。まだ間に合う。これから少しずつ娘との心の距離を縮めてゆこう。そう思っていた。
「じゃあ、行って来ます」
するべきことを全て終え、香織は仕事へ出かける。
「行ってらっしゃい」
こんな些細な言葉のやり取りでさえ、今の香織にはとても新鮮なものに感じられた。