(5) 少女は正しい言い訳を語る。
少女は正しい言い訳を語る。
「嫌ッ!」
「待ちなさい!!」
二人の少女の声が重なった。
奥の部屋から燐が飛び出し、一階からは幼い少女、瑠華が駆け上って来た。
楓はどうして出てきたのと言わんばかりに燐を強く睨み付け、楓に銃口を向けた壮一は、そのままの体制で横目で瑠華を見つめる。
「その子たちを殺さないで・・・」
瑠華が、かすれた声で壮一に懇願する。
「何故です?彼女たちは私たちの敵なんですよ」
壮一はいつもより厳しめの口調でそう言った。
「元々は・・・一緒に戦う立場の子たちよ。でも、世界一になりたいお父様は同じ国の者でも、要らない人間は容赦なく潰していった・・・天皇は国を逃げたし、今じゃお父様がこの国のトップと言っても過言じゃないでしょうね。でも、私思うの。トップは下の人の助けがあってこそ成り立つんだって。・・・だから、その・・・なるべく下の人達も大切にしようよ。どうせここ、もうすぐ私の地域になるんだし・・・」
瑠華は一つ一つ慎重に言葉を選び、言い訳にもなっていない言い訳で必死に壮一に訴えかけた。
壮一はしばらく不思議そうな表情で瑠華を見つめていたが、やがて何かを諦めたかのように首を振り、
「お嬢様がそこまで言われるのなら、仕方ないですね。正し、あなたのお父様に知られてはなりませんよ」
悪戯っぽく笑って銃を下ろした。
「ありがとう・・・」
瑠華の、優奈を抱き締める腕に力が入る。
死を免れた楓と燐は共に安堵し、その場にへたり込んだ。
「お姉ちゃん・・・良かった・・・」
「ええ・・・」
胸を撫で下ろし、生きていることを実感する。
「・・・そこの二人、名は何と言う?」
瑠華の口調は先程とは打って変わり、目の前の少女二人に対しそう尋ねた。
「水谷・・・楓。こっちは燐で、私の妹です」
「そう。私の事は分かるわね?他にあなたたちの仲間は居るのかしら?」
楓は、まだ帰って来ていない父親の身を案じる。
「奥に、母親が居ます。・・・父は、外へ帰ったきり・・・」
それを聞いて、瑠華は何故が一瞬暗い表情になった。父親に会えていない楓と燐の事を哀れむというよりも、自分の中の傷と戦っている様な、そんな感じであった。
「あなたたちの父親は後程捜しておくように言っておくわ。取り合えず、母親も連れてあなたたち三人を基地へ通してあげる。・・・私のお父様が知ってしまうといけないから、第二基地になるけど」
それから瑠華はさほど離れた場所でない第二基地へ三人を案内すると、どこかいつもより楽しげな表情をして『B地域特殊部隊基地本部』へ戻った。
「今日は色々あって疲れちゃったなぁ。早めに寝ようかしら」
「・・・では私はこれで。あとはメイド達に任せておきましょう」
壮一は瑠華を部屋まで送り届けると、姿を消した。
すぐに近くに居たメイドがやって来て、瑠華を風呂場まで連れて行く。
「こちらのぬいぐるみはお預かりしますね。今日の入浴剤は何に致しましょうか?」
事件は、これから二日後に起きる・・・