(4) もう一つの物語が幕開けて。
もう一つの物語が幕開けて。
「外は攻撃後なので、悪い物質が漂っている可能性があります。それに、もし生存している住人が居でもしたら銃で撃たれてしまうかもしれませんから。多少動き難いかもしれませんが、これを着用しないと外へ出すわけにはなりません」
言いならが壮一は、自分にぴったりのサイズのものを手に取り、手慣れた手つきでそれを着用する。
「は~い」
瑠華も、少し小さめのそれを着用した。
「ご準備はよろしいですか?では、外へ」
「うん♪」
二人共、着用している特殊スーツにより声がくぐもっている。
「どちらへ行きましょうか?」
「ん~・・・、その辺を見て回りたいの。これからここをどう開拓するかとかを考えながらね」
瑠華は、ユウが住んでいた方向へと進む。流石にユウの家は遠いので、そこまで行く気は無いようだが。
「燐、こっち。まだいっぱいあるよ」
暗いコンビニの店内に、二人の少女が居た。店内に他の人間はおらず、二人はどうやら割れている窓の隙間から侵入したようだ。また、棚にはほぼ商品は並んでおらず、今、燐という少女に声をかけたもう一人の少女の前には、僅かながらもいくつかお弁当が並んでいた。
「楓お姉ちゃん、流石!!これなら二日は不自由しないね」
二人は残っているお弁当を全て腕に抱えると、当然の様に無人のレジへ向かう事無く、入って来た時と同様に窓の隙間からコンビニを後にした。
「お母さん、これ食べて元気つけて」
例のコンビから少し離れた場所にある、崩壊した一軒の家へ潜り込んだ楓と燐、二人の姉妹は家の中で横になっていた彼女らの母親と合流する。
その母親はとても疲れ切った表情をしており、荒い息を吐いている。
「ありがとう・・・」
そうは言ったが、娘たちが差し出すお弁当を手に取る事は無かった。
「お父さん、無地かな・・・」
自分たちだけでもとお弁当を食べながら、燐がふとそんな言葉を漏らした。
「大丈夫だよ。・・・きと今頃、バケツいっぱいに綺麗な水を汲んで、鼻歌交じりに帰ってるんだから」
楓は自分にも言い聞かせるようにそう答えた。
季節は秋。崩れた壁の隙間から入って来る風が冷たい。
「痛ッ」
お弁当を食べ終えて、立ち上がった燐は落ちている屋根に頭をぶつけた。
「大丈夫?」
「うぅ・・・」
頭を抑え、しゃがみ込む燐。その耳に、小さな声が届いた。
"あら、今何か物音がしたような・・・"
燐より少し年上で、楓よりは少し年下の様な、可愛らしい少女の声だ。
"お嬢様、気を付けて。私が見て来ますので"
別の声。今度は、もっと年上の男の声の様だ。
「燐、お母さんと奥に隠れて」
「え、お姉ちゃんは?」
楓が緊張感のある面持ちで静かに言う。
「私の事は気にしないで・・・早くッ!」
「う、うん・・・」
燐は楓の迫力に押され、母親を半分引きずるようにして奥の部屋へ連れ込む。
すぐに、先程の声の主であろう男が階段を上ってやって来た。
「・・・」
「・・・」
目が合ってしまった二人は、しばらく沈黙する。
「まだここに生き残りが居たのか・・・残念だが、この地域の住人はもう必要ないんだ。命は無い」
まだ若いその男が、取り出した銃を楓に向けると、彼女は覚悟を決めたかのように目を閉じた。