(3) 魔王の娘の初めての友達は。
魔王の娘の初めての友達は。
扉を二回、ノックする音。
「だぁれ?」
静かに読書をしていた瑠華は、興味無さそうに視線を上げる。
「戦車整備員の者です」
予想外の客に、瑠華は眉を顰める。
「・・・何の用?」
言いながら、扉を開ける。
「瑠華お嬢様のぬいぐるみが落ちているのを発見しまして。どうぞ」
戦車整備員の男はぬいぐるみを瑠華に渡すと、「失礼します」と一言言い、その場を立ち去った。
「何これ、こんなの私知らない・・・」
瑠華は訝しげに、自分の腕に抱かれたくまのぬいぐるみを見つめる。
「でも、気に入ったわ。私のお友達にしたげる」
頬を自分の頭に擦り付けられた優奈は、ぽんぽんと進んでゆく話の展開に戸惑っていた。
(こりゃしばらく自由に動けなさそうだな・・・)
案の定、瑠華が優奈を手放すのは、これからちょっと先の事となる。
「私、ずっとお友達が欲しかったのよ」
瑠華は優奈にそんな言葉をかけながら、読んでいた本に可愛らしい栞を挟むと、立ち上がって部屋を出た。もちろん優奈も一緒に、だ。
「瑠華お嬢様、どちらへ?」
すかさずそう声をかけたのは、若々しい執事の男であった。見た目は10代後半程だろうか。白く、端整な整った顔立ちは、それだけで周りの女が寄り付きそうである。瑠華と並ぶと、まるで兄弟の様に見えた。
「今日は気分が良いの。ちょっと出かけたいんだけど。壮一、一緒に来てくれる?」
壮一と呼ばれたその執事は、何とこの若さでありながら、優奈を担当する一人前の執事である。優奈からもよく頼られている存在だ。
「ええ、もちろん。外は荒れていますから、少しだけですよ」
「いくら荒れてても構わないわ。もうすぐこの地域は私のモノになるんですもの」
壮一はにこりと微笑むと、
「それは楽しみですね。さぁ、参りましょう」
丁寧に瑠華の手を引いて歩き出した。
「それにしても、そちらのぬいぐるみはどうされたのですか?」
壮一は、今まで見た事のないそのぬいぐるみに興味を示す。
「あぁ、お父様がプレゼントしてくれたの。可愛いでしょう?」
瑠華は何故かそんな嘘を吐き、まるでそれを隠すかの様に瑠華を強く抱きしめた。
「・・・そうですか」
一瞬、優奈は壮一の視線に身を震わせた。壮一が、まるで全てを見通しているかのような冷たい目で優奈を睨み付けたのだ。
「さぁ、これを着用して下さい」
しかし、次の瞬間には壮一の視線は目の前のごつい宇宙服の様な物に向けられていた。