(2) 私はただ無力だった。
私はただ無力だった。
「ねぇ、この辺誰も居なくなっちゃったよ。まだ戦争を続ける気?」
まだ10代前半であろう幼き少女は、金の髪を肩まで巻いて、頭には特大の真っ赤なリボンを付けている。彼女が話しかけているのは、立派な椅子に腰掛けた白髪混じりの男だ。
「あぁ、その通りだ。この辺の土地はお前にあげようか」
男の言葉に、その少女は目を輝かせる。
「本当?瑠華、嬉しいッ。お父さんなら世界を手に入れれる・・・そうでしょ?」
「そうだよ。お父さんに任せなさい。瑠華の遊び場くらい、いくらでも増やす事が出来るんだ」
男は満足げに、瑠華という、その少女の頭を撫でる。
「うん。・・・でも、瑠華、本当は・・・」
瑠華は俯き加減にそう言いかけ、
「ううん、やっぱり何でもない」
明るい笑顔を繕ってその場を後にした。
「旦那様・・・」
先程までの一部始終を静かに見つめていた、ある男がふと声をかけた。
「む、何だね?」
「こちらのぬいぐるみが落ちてあったのですが・・・もしや、瑠華お嬢様の物では?」
そう言い、持っていたくまのぬいぐるみを差し出した。
「うーむ、見た事はないな。だが、瑠華の物に間違いは無いだろう。戦車整備員よ、瑠華の部屋まで届けてくれ」
「はっ、了解しました」
大きなくまのぬいぐるみを抱えたその戦車整備員の男は、一度瑠華の父親であるその人物に敬礼をすると、速やかに部屋を後にした。
(う~ん、困ったな。本当にここにユウは居るのかな?)
優奈は男の腕の中、一人考えを巡らしていた。
「ええと、お嬢様の部屋は・・・」
館内が広すぎるのか、この男の物覚えが悪いのか、不意に男は館内案内板の前で立ち止まった。優奈も何気なく目を向けたその案内板には、地下にそこだけ場所名が記されてない場所を見つけた。
(牢屋に違いないッ!!)
優奈はそう直感し、そこにユウが居る可能性を信じた。
(ユウ、もうすぐ助けに行くから・・・)
「ここを曲がって直ぐか」
男は再び歩み始めた。