(4) 戦争を終わらせるたった一つの方法。
戦争を終わらせるたった一つの方法。
首に、ちょっとした違和感を覚えた。
冷たいネックレスの感覚がある。
「ん・・・あ・・・」
一瞬で事態を理解した優奈は、時計を確認する。朝の9時30分であった。優奈は素早く制服に着替えると、自転車に跨って学校へと向かった。
「お早う、優奈」「ずいぶん遅いじゃん」「あはっ、久しぶり~」
仲間達のそんな声を聞きながら、優奈は自分の教室へ入る事は無く、そのまま職員室へ向かった。優奈が声をかけたのは、地理の男性教師である。かなり老けており、白髪が目立つ。
「どうしたんだい?」
「先生・・・戦争について、なんですが。・・・戦争で破滅しそうな世界を救う方法って、あるんですか?」
優奈の真面目な表情にその教師は少し驚いた様で、
「何故そんな事を・・・?」
訝しげに優奈を見つめる。優奈は普段そんな事を聞く様な真面目な性格ではないからだ。
「え、や、あの・・・そう、レポートを書かないといけなくて・・・」
上手く誤魔化した優奈は、白々しい笑顔を作った。
「そうかい。・・・う~ん、きっと戦争が一度起こってしまった後では、どうしようもないんじゃないかな。唯一方法があるとしたら、戦争を起こした全員が心を入れ替え、もう戦争はしないと誓うこと、くらいじゃないのか。戦争で新しい国を手に入れたとしても、次は内戦が始まるんだ。人間はその頭脳のおかげで、知らなくていい事を知ってしまい、作らなくていい核兵器などを作ってしまったんだ」
教師は難しそうにそう答えた。
「そうですか・・・では、人はどうしたら心を入れ替える事が出来るのでしょうか?」
「それは簡単だよ。悪い事をしている人に、その事をした事で起きる、『嫌』な思い出を脳内に刻みこませればいいのさ。例えば、万引きをして警察に捕まった。もうその人が二度万引きをする事は無いだろうね。まぁ、たまにしてしまう人もいるが・・・」
優奈も一緒に難しそうな表情をし、
「ありがとうございました」
そう頭を下げた。
「まぁ、まだこの世界はそこまで危険な状態に陥ってはいない。今の内にならどうにでもなるんじゃないかな、戦争なんて」
いまいち良い情報を手に入れる事は出来なかったが、結局戦争を終わらせる方法なんて、彼の言う通り皆の心が変わらないといけないのだ。
あの時ユウを連行して行った連中はきっと、ユウの強大な魔術を利用して敵対国を脅かせるつもりなのだろう。しかし、彼女は言っていた。『もうじき私は自らの手で世界を破滅に追い込んでしまうのだろうね』と。あれは、一体どのような意味だったのか・・・
「私が行って、奴らの心を変えなければならないんだ・・・。あの世界を、救わないと」
いつしか優奈は、強い使命感を胸に抱いていた。授業を一つも受けないままに、再び自転車を飛ばして家へ戻る。
母親にメッセージを書いた。『私は今から旅に出ます。しばらく目を覚まさないと思うけど、心配はしないで。色々迷惑をかけてごめんなさい。私を信じて・・・』
全ての準備が整うと、優奈は布団に潜ってネックレスを握り締めた。
「私を・・・ユウの世界へ・・・」
目を瞑ると、自然に精神は世界を移動した。