(1) そしてまた、退屈な毎日が始まった。
そしてまた、退屈な毎日が始まった。
―運命を変える力を、人は奇跡と云うのだろう。
しかし奇跡は一つとして特別なモノでなく―今この瞬間にだって、誰にでも起こっているのである。
何故なら、奇跡は偶然と偶然が結びついて起こった、ただの偶然なのだから。
閉め切ったカーテンの隙間から、太陽の光が漏れている。
黒い髪を肩まで垂らし、その少女は安らかな眠りに落ちていた。
「優奈、ご飯よ」
ふいに、部屋のドアがノックされる音と共に気弱そうな女性の声が、彼女、優奈の耳に届いた。
「ん・・・置いといて・・・」
寝起きでやる気の無さそうな声で優奈は母親を追い返そうとする。
「早く食べないと学校遅刻しちゃうわよ?」
「今日はいい。行かない」
「・・・そう」
優奈は、時々何もないのに学校を休むことがあった。明るい性格である優奈は友達関係も良好で、どちらかと言うと皆のリーダー的存在である。いじめなどで登校拒否をしているわけではなさそうだ。高校生だから義務教育でもないし、優奈は成績も問題ない。故に母親は無理に優奈を学校へ行かせはしなかったが、どうも優奈が学校へ行かない理由が気になった。
そして今日、優奈の母親、香織はある事を決心した。
「優奈、ちょっと話があるの。後で下に来なさい」
有無を言わさぬ口調でそれだけ伝えると、彼女はその場から去って行った。
「・・・・・・」
優奈はしばらく、まだ覚めきっていない目を擦っては欠伸をし、ぼ~っと壁を見つめていた。
「うしっ」
変な気合を入れてふいにベッドから飛び降りると、バッとカーテンを全開にし、両手を組んで上に上げ、長い伸びをしてから服を着替えた。
「お母さん、話って何~?」
階段を降りてリビングへ向かい、テレビをつけて朝食を食べ始める。母親の焼いてくれたトーストとベーコンエッグ。
しばらくすると外に出ていたらしい香織が新聞を持って戻って来た。