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第38節 ドラム缶風呂が全ての元凶!?

日が暮れてきた頃に、野営地を作ってそこで休むことにした僕たち。

本来なら晩御飯を食べてそのまま寝るところではあるが、今回はちょっと試したいことができたのでそれを試すことにする。


「ええと・・・この辺かな。・・・あった。」

バックパックをあさって出したのは鉄のインゴットである。

インゴットと言うのは製錬した金属(合金)を鋳型に流し込んで固めた地金のこと。持ち運びや扱いやすいようにと扱われている。

純度によりランクがあるらしいが、この世界のインゴットは70パーセントもあれば良いほうじゃないだろうか?分からないけど。


このインゴットを取り出して何をするかと言うと、ドラム缶を作りたいのだ。

言わずもがな風呂を作りたいから。

毎日お風呂に入る文化を持つ日本人としては毎日お風呂に入りたいのだ。

ドラム缶自体を持ち歩ければ言いのだけれど、バックパックがいくら異空間的な技術を使っていて見た目以上に入るとはいえそもそもの入り口が大きいわけではないので、ドラム缶が入らないのだ。

もともとは旅の道具をコンパクトに持ち運ぶために開発された収納カバンなので、かなり小さい。

そうじて、口も小さいためにとてもじゃないけどドラム缶なんて物は入らない。

適当な場所に穴を掘って水を入れると言う方法もありそうだけれど、そうそう鉱物が埋まっているわけもなく普通に地面に水が吸収されるだけだろうし。


となればインゴットをいくつか買って、ソレを加工し、ドラム缶を手に入れるしかない。

と、いうわけで。

インゴットを取り出した後、それに魔法で熱を加える。

魔物アスタナシアと戦ったさいに使った炎の魔術。ブラストファイアを発動させ、魔法陣が手元に展開。

手の平の上で炎球を作り出す。

そこそこの魔力を込めて、なおかつ熱が逃げないように圧縮をしてるため、熱波がかなり酷い。

暑さ、寒さと言った外的環境に適応するための魔術を扱おうと思ったのだが、ブラストファイアを発動させつつもう一つの魔術を使うなんてことが初心者の僕に出来るはずも無く。そもそも手の平の上で停滞、圧縮するのに精一杯なので、魔力を扱う魔術ではなく霊力を扱う奇跡で凌ぐことにした。

魔術と奇跡の同時発動は魔術、奇跡どちらかの複数発動よりも簡単(あくまでも比較的。それなりに難しい。)なためだ。


「身に纏え、アクアオーラ。」

足元から魔法陣が展開して体の周りに薄い膜のような物が出来る。

魔術と奇跡の同時発動なので、言葉による詠唱で少しでも発動を楽にさせた。

この魔法式は今即興で作ってみた。

ちなみに、オリジナル魔術というのはそうそう簡単に作れる物ではないらしい。

すでに作った僕のオリジナル第一号。結界魔法であるセイグリットをさきほど張ったらゴルバさんとクルトがちょっと驚いていた。

前回のフェローによる魔法講座は簡単に終わってしまったので、今回は少し掘り下げて説明しておくと、魔法式というのは魔術を扱う魔術師、奇跡を扱う聖職者が魔法を使ったときに足元や手元に展開される魔法陣のことを指す。

この魔法式(魔法陣)の紋様を覚え、その魔法式が起こす効果を正確にイメージして、その魔法による事象を起こすに足りえる魔力、霊力を込めて初めて魔法は発動する。


例えるなら”強”という漢字があったとして、この漢字を書けてもこの漢字の意味を知らなければ意味が無いということである。

その辺の素人の人が魔法を覚えようと思って、魔法式の紋様を覚え、頭で描いたとしても意味が分からないから発動しないと言うわけだ。

魔法式の紋様は一種の象形文字のようなものであり、紋様一つ一つに炎、弾、燃え広がるといった意味があるのだ。

しかし、今ではそうした紋様を理解するしっかりとした知識を持つ物は1人としていないとされ、現在使われている魔法は単に”この魔法式はこういう効果がある”というただの暗記と化していた。

2×2が4になるという形だけ教えられ、2の塊が2個あるという意味が教えられてないのだ。

”この紋様はこうした意味を持ってるためにこうした効果を持ち、そのためにこの魔法陣にはこうした効果がでる”といった理論めいたものを少しでも理解してる人は極端に少ないという。


ここで話を戻すが、なぜオリジナル魔術なり奇跡で驚かれたかと言うと・・・。

察しが付くだろうけど紋様の一つ一つを理解しないとオリジナル魔術なんてのは作り得ない、魔法式を描けるはずがない、ということである。


どうも僕の持つ魔眼は”魔力と霊力を視認する”という地味に役立つ力のみならず、魔法式の紋様の一つ一つを理解できるという効果もあるようで。


とりあえず今度からはある程度自重しよう。

目立つし。



「とりあえず・・・えいっ!!」


手の平にあった炎の塊をインゴット10個分に投げつけた。

爆散する熱風に肌を焦がされないか?と一瞬怖くなったけど、アクアオーラのおかげで問題なし。

インゴットが熱で溶け始め、柔らかくなったのを確認してから今度はアクアオーラを手にのみ10枚重ねにしてインゴットをドラム缶型に形成していく。

これがまた骨の折れる作業で困った。

なんせ、水のベールといっても良いこの奇跡がすぐさまインゴットを冷やしちゃう物だから再度熱して、冷えて、熱してなんてのを繰り返すのがかなり億劫だった。

そのうちに金属疲労を起こしたのか、ボロボロになって途中で真っ二つに割れたり、木々に飛び火したり、鉄の臭いに釣られたのかアイアンドックという表皮から金属を分泌する魔獣が出てきたりとか。

(鉱物すら食べる雑食で、性格は温厚。適当に威嚇したら逃げて行った。)

そんなこんなで苦心しつつ、小学校の成績表にて図工3(5点中)という中途半端なセンスの一端を存分に垣間見せたドラム缶もどきが仕上がった。

大まかな部分はソレっぽく見えるけれど、良く見れば明らかに雑な作りで安っぽいと感じる仕上がりだ。

さすが図工3。

それなりの成果である。うん。



度重なる急加熱と急冷凍により大分脆い感じになってしまったので、品質的には図工1くらいかもしれない。これに強化的な奇跡をかけることにした。

「何がいいかな・・・外側からベール的な外装強化・・・でいいかな?」


イメージは強化コーティング。

物体自体の結び付きを強化するのではなく、外側から外骨格を付ける様なイメージでもって強化の奇跡をかける。

イメージはカニとか昆虫みたいな節足動物。


「中身がどんなに柔らかくても問題なし、インセクトアーマー。」

詠唱らしくない、詠唱をして名前を唱える。別名自己暗示とも言う。

軽く発光してすぐに光が消えるドラム缶。


「大丈夫かな?」

少し小突いてみるといい具合のようだ。

よし!!

これでようやくお風呂に入れるっ!!


さっそくドラム缶を適当に固定して、そこに水の魔法でもってドラム缶一杯に水を詰める。

「ブラストファイアっ!!」


炎でもって暖めるつもりだったのだが・・・爆発した。


「ぼあはぁっ!?」


ちゅどーんっ!とあたり一面に爆音が鳴り響く。

え?なんで?


アクアベールが発動中でよかった。

なおかつ、皆からちょっと離れてる場所でよかった。

下手したら死ぬレベルですよ?これ。

ついでにドラム缶風呂をサプライズ的に披露したいというちょっとした悪戯心から、防音結界を張っておいてよかった。

無駄に心配をかけるところだったよ。


周りの木々が吹っ飛んでおり、地面も結構な深さでえぐれている。

魔力の込め方を間違ったのかな?

と思ったけど、少し思い当たることがあった。



水蒸気爆発である。

確か、水が急激に温められると発生する現象だったかな。

水は凍らされることでも、水蒸気になることでも体積が膨張する。

ペットボトルを凍らせないでくださいと言う注意書きを飲料水のパッケージで見たことないだろうか?

体積が増えることによって、ペットボトルが破裂する危険性があるから基本的にやってはいけないことだったりする。これちょっとした豆知識。

水蒸気の場合は氷にするときよりも膨張比率が顕著で、一気に熱することによって起こる急激な体積膨張が爆発となるわけだ。

学校の理科で習ったと思う。


ならば!

火を炊いて暖めるのは時間がかかるので、焼き石を投入するまでだ。

幸い、インセクトアーマーのおかげでドラム缶は無傷。

もう一度チャレンジしてみたところ、今度こそは上手く言った。

ちょうど良い湯加減である。


入った後は皆を呼んでサプライズだ。

ふふふ。最近の僕は情けなかったからね!!

女性は清潔にすることに関してはうるさそうだし、ここでお風呂を提供したならば僕の評価はうなぎのぼりに違いない!!



「基本、響は情けないと思うぞ。」

わたくしもそう思います。」

「そ、そんなことないと思うけどね。わ、私は!にぶちんなだけで。」という声が聞こえたような聞こえないような気がしたが、ここは爆音すら防ぐ防音結界の中なので聞こえるはずがない。

さぁ待っていろっ!!

皆っ!!

そして感謝と感激でむせび泣くがいいっ!!・・・というフレーズをどこかで聞いたことがある気がするが・・・具体的には身近にいる誰かさんからーーーーこれまた気のせいだろう。


「呼びに行かんで良いというのに。」

「私達はここにいるのですよ?ボケたのですか?マスター。」

「せっかくの私の手作りなのに・・・呼びにきたらこんなのもの作ってるし。」

「ひぃあっ!?

なんで結界の中にいんの!?いつの間にっ!?」

「遮音結界に篭ってるおぬしをわざわざ呼びに来てやったのじゃろうが。飯の支度が出来たというのにいくら呼んでも返事をせんから・・・来てみれば。」

「ご飯が冷めてしまいますよ?私としては構わないのですが・・・エンデさんがまぁうるさくて。むしろ、後で”呼びに来てくれたって良いじゃないか!”とむせび泣きながら1人冷めた晩御飯を食べるマスターという光景を楽しみにしていました。」

「べ、別に私は何も言って無いもんっ!?」

<私を忘れちゃやーよ!>


あれ?なんか、リアクションが想像と違うよ?

フェローに関しては”夢中になるのは良いけれど、晩御飯を食べてからにしなさい”みたいなダメ息子を持つ親のような表情をしているし、ベリーは論外。エンデも心なしか不機嫌である。

ちなみにセルシーは、ゴルバさんやクルトの目の前で話すのは止めといた方が良かったために殆ど話せていない。


喋る魔剣は珍しく、下手したら盗まれるそうな。

別に信用していないわけではないが彼らから話を聞いたほかの人がなにやらよからぬことを考えるのでは?とのことで念のため黙っている。

人の口に戸は立てられぬとも言うしね。


「シロもお預けして待っておるのじゃから、はよう来い。」

「ご、ごめんなさい。」


なんか納得いかない。


「今日はわ、私の食事当番だからね!せっかく作ったんだから冷めないうちに食べてくれないと・・・も、もったいないじゃないっ!!」

「わ、分かってるって。せっかく作った料理だもんね。」


料理を作る人間からしたら、一番おいしく感じる時すなわち暖かいうちに食べてもらいたいと思うはずだ。


「・・・分かってない。」

「え?」

なおのこと不機嫌になるエンデ。

最近不機嫌になりすぎてない?


「分かってませんね。マスターは。好きな男性のためにと張り切って作った手料理だからこそ冷めないうちに食べて欲しい・・・という女心を。」


ベリーはニヤニヤしてそんなことを言った。


「ちょ、ちょちょちょっとっ!?

な、何を言ってるのかなっ!?この子はっ!?

本当に何を言ってるのかなっ!?」


慌てて、ベリーの口を塞ごうとするエンデだがひらりのらりとかわされる。

なんだ、そういうことだったのか。


「確かに・・・分かってなかったね。ごめんなさい。」

「ふ、ふぅえっ!?」


顔を真っ赤にしているエンデ。そんなに照れくさいのかな。

気持ちは分かるような気がするけどね。


「僕だって好きな人のために・・・フェローやベリーやエンデのために腕を振るった料理が冷めるまでほっとかれるってのは嬉しくないしね。」

「ばかぁっ!!」

「ぐぶふるっ!?」


ええええええええええっ!?

なんで殴られたのっ!?

全て分かってるかのように笑ってるベリーの顔がヤケに印象的だし、フェローはものすごく呆れた表情をしている。

エンデに至っては恥ずかしさなのか、怒りなのか?

肩をブルブル震わせている。

いや、これは怒りだ。

一体なぜにっ!?


「わかっておったな?」

「もちろんですよ。マスターの鈍さは育ってきた長年の環境から来るものですから、なかなか治らないでしょうね。空気を読む・・・程度は出来ても他者の機微を感じ取るなんてことはとてもとても。第一、私がその辺の女にやすやすとマスターを渡すわけがありません。」

「・・・性悪め。」

「褒め言葉として受け取っておきましょうか。」

という会話が聞こえていたが、僕には理解できない。

バカにされてるのが分かるくらいだ。

そもそも、そちらに耳を傾けていられる余裕がまるで無い。


現在、殺気を全身で受けているからだ。


「甘んじて受けなさい。ヒビキ。」

「り、理不尽では・・・」

「ないわね。」

「さ、さいですか・・・」


僕はただ、ドラム缶を作っていただけだったのに。

僕が満足するついでに皆にも喜んでもらえればという親切心も半分くらいあったのに。

ドラム缶を作ろうとしたことが全ての元凶なのだろうか?

ドラム缶を作ろうとしてお風呂に入ろうとしたことは罪なのだろうか?

わ、わけが・・・わからないよ。


僕はその日。

初めて強制的に意識がシャットダウンされるという生涯において出来れば経験したくない経験を味わったのである。



その後、目覚めるとそこは野宿用の寝袋の中だった。


「あいたた・・・すごいな・・・あざが一個や二個じゃない。」


多分気絶してた時間は10分ほど。

怪我を負っても、負ったそばから治癒していく物だからエンデは手加減を忘れ・・・とはいえ痛みはあるものだから、痛みに耐え切れずに先に精神的なダメージで気絶したと言うところかな。

こうして考えてる間にもあざが徐々に消えていく。治っていくあざを見ながら一体、僕の何がいけなかったのだろうか?

と考えても僕の頭で解決できるわけも無し。


ぐぎゅるるるるとおなかが生理的なものを主張し始めたので、何か食べる物は無いかなと様子を見るがてら寝袋から出てみると。ベリーが立っていた。


「どうしたの?」

「いえ、さすがに酷いと思いましたので。」


なんかベリーが優しいっ!?

なんかいやな予感がするけれども。


「とりあえず、お風呂がまだでしょう?お湯を沸かしておきましたのでどうぞお入りください。マイマスター。」


なんか凄い優しい瞳を見せてくれているベリー。

いざとなったらこんなに優しい気遣いが出来るなんて。

やばいっ!!

惚れてしまいそうだ!!惚れないけれど。多分。


彼女はタオルを渡してきた。

準備も良いっ!!

嗚呼・・・いつもこれならなぁ。


「ありがとう。」

「いいえ、これが私の存在意義ですから。」

「大げさじゃない?」

「いえ、ちっとも。」

「そ、そう?」


彼女があまりの満面の笑みでそう告げるものだからまぁそうなのか。と流してしまったのが致命的であった。


風呂場、と言っても先ほどの遮音結界の中だが入った瞬間に、ちゃぷりという音が聞こえた。

虫か魔獣が入り込んだのかなと思ったのだけれども。


いや、そう願ったのだけれども。

最悪、クルトでも良かったのだけれども。

そこには裸体の・・・生まれたままの姿であるエンデがいらっしゃった。


「ち、ちょうど・・・上がるとこでした?」


そんな間の抜けた僕の声が不自然なくらいに反響した、気がする。

ちょうどあがるところだったらしく、そこそこ豊かな胸や女性の体の中で一番重要な部位が・・・である。

木々で影になる場所にドラム缶が設置されてるため、しっかりと全容は見えないけれど一部はしっかりと見ることができる。

都合よく湯気が秘部を隠しているなんて事は無い。残念ながら。実に残念ながら。

見てない、見えてないなんて良いわけは100パーセント通じない。

通じる可能性が微塵もない。


え?これなんてギャルゲー?

こういう状況ではこんなきめ台詞があるらしい。

基本やるのはRPGとアクション、格ゲーの僕としてはあまりよくは分からないけどね。

そんなことを冷静に考えてる間。

エンデはただただ目を点にして、ようやく自体を飲み込めたのか徐々に顔を赤く染め上げていく。


さて。僕はどうしようか。

不思議とエンデの目から視線がずらせない。

ずらしたら、なんか負ける。

そんな気がする。


彼女の悲鳴と僕が引っぱたかれる音がほぼ同時に上がり、その後ボコボコにされたのは言うまでも無い。




追伸。

ベリーが優しかった段階でこの可能性に気づくべきだったのだ。

ベリーの存在意義は僕をいじめること。

それを痛感した夜である。



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