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第34節 ベリーとお買い物

外に出てきたものの。

後ろにはイチゴ柄パジャマだった少女が付いていた。


先ほど彼女と寝ていたときに感じていた安心感は彼女がイチゴ柄パジャマだったんだろうなと思うと納得できる。僕のオリジナル奇跡であるセイグリットが効果を成さなかったのも、もともとフェローが所持していたイチゴ柄パジャマが夜のうちにこの姿となり、僕のベッドに潜り込んできたからと言うことだろう。


「そういえば君の名前はなんていうの?」

「すでに名づけていただいております。」

「誰に?」

「ふぅ・・・察しが悪いと言うか・・・鈍いと言うべきか。

マスターからに決まっているでしょう?」


呆れ顔でこちらを見上げる少女。

すでに名づけてもらっている?

普通に考えて僕は彼女と喋ったのは今朝が初めてなのだが?


「マスター。私はあくまでもマスターの着ていたイチゴ柄パジャマですよ?

ここまで言って分からないなら、わたくしがじきじきに”にぶちん”の勲章を差し上げます。」

「・・・ああ、なるほど。

君の名前はベリーか。」

「そういうことになりますね。

マスターの”お気に入りのパジャマに名をつけるという変態的かつ変人的なオゾマシイ習性”の結果、私にはベリーという可愛い名前がすでに付いています。」

「そこまで言うことっ!?」


おぞましいとまで言われるほど変態的な行為だろうか?

僕は基本的に打たれ弱いのだからもう少し柔らかく表現して欲しいな。うん。


彼女ーーー改めベリーが言う、お気に入りのパジャマに名をつける習性というのはペットに名前をつける行為や一部の人が愛刀なり愛機なりに名をつけるのと同じことであり、決して特別変態的ではないということを言っておきたい。


「それでマスターは食料の買出しに行かれるのですね?」

「うん。まぁ。ついでに軽くギルドミッションも受けようかなと思ってる。

多分、今日一日一杯はフェローが”ああ”だろうし。できるだけ外で時間を潰したい。」

「ふふふ。大変ですね。マスターも。」

「元凶だったベリーが言うことじゃないよね!?というか仲良くしてよ!!」

「命令ですか?」

「こんなことでいちいち命令しないよ・・・ていうか、命令したとしても聞くつもりないよね?」

「もちろん。私はマスター命ですから。マスターの面白い姿を見るためならば火の中水の中。身を粉にして頑張る所存ですよ?」

「頑張り方がおかしいっ!?」

「マスター、私も手伝うので武器屋で武器を買ってください。」

「いきなり話の腰折るねっ!?構わないけどさ・・・っと、食材屋についたから食料を買い込んでからね。」

「ええ。ああ見てくださいマスター。

店主が『・・・姉妹か?可愛らしいじゃねぇか!!こんなに可愛いならせいぜいオマケしてやらねぇとなグフフフフ』という表情をしてますよ?」

「グフフフフの部分がなんかいやらしいよっ!?てか、そんなわけないだろっ!?

そして”姉”妹ではなく”兄”妹だっ!!」

「へい、いらっしゃい。

お客さん。姉妹ですかい?

可愛らしいですね・・・男装してても分かる人には分かりますぜ?

まぁそれだけ可愛いなら男装して身を守るのも分かりますけどね。」


あれえ?

ちょっと空耳が・・・耳がおかしくなっているのかな?

店主から何事かと言われた気がしますよぉ?


ははは、ダンソウ?

断層?

弾奏?

ふへへへへ。わけが分からないですね。

僕を見て言ってるのかなそのセリフは?

ほほほほほほ。

いっそのことマジで女の格好をしてやろうかこらぁっ!?


・・・もうすでにしたことあるんだけども。


「マスター・・・おいたわしや・・・ぷっ。」

「言うな・・・ベリー。そして笑うなベリー。・・・早く買って帰ろう。」

「お、おまけしまっせ?」

「あ、ありがとうございます・・・ぐず。」

「ああ・・・マスターの泣き顔・・・可愛い。」



軽く泣きべそをかいていた僕に気を遣うような視線を送られた食料屋での買い込みを終えて、次は武器やへと向かった。

どうも古ぼけた今にもつぶれそうな場所である。


「何?ここは?」

「ふむ・・・呪いの装備店といったところでしょうか?」

「・・・帰ろ?」

「ダメです。」


即効で拒否りやがった!?

理由はなんとなく理解できるけれど。


「べ、別に普通の装備で良いでしょ?

どうしてまたそこまでここにこだわるのかなぁ・・・と。」

「マスターが面白いからです。」

「分かってたよっ!!どちくしょうっ!!」


ばっちり予想通りの理由で泣けてくるっ!!

なにその『嗚呼・・・もっといじめたい・・・』という恍惚とした表情は。

どうして僕のイチゴ柄パジャマはこんな性格なのっ!?

もう逃げるのが一番だよね!?

よし、逃げーーーーー


「逃がしませんよ?」

「うっ!?

見かけによらず凄いパワーっ!?」


左手を掴まれた僕。

びくともしないんですけどコレいかにっ!?

「肉体強化の魔術です。

肉体強化は上級の魔法ですからね。未だ下級のものしか扱っていないマスターには振りほどけないでしょう?」

「くやしいことにまるで適わない・・・というかここまでの力はちょっと異常?

僕は素のままでも常人の10倍くらいはあるんだけどっ!?」


なにこのメスゴリラッ!?

もとい幼女ゴリラッ!?


「あだだだだだだだっ!?」

「失礼なことを考えますね。」

「なぜ分かったのっ!?」

「口がぶつぶつ動いてたので唇を読みました。」

「無駄に高技能習得済みっ!?」

「もちろん、この力は私がゴリラというわけではないです。あんな畜生臭い下等生物と同等に扱われるなど心外も甚だしい。マスター。脳漿と延髄をぶちまけますよ?」

「おはぅ・・・ご、ごめんなさい。」


なにこの子?

普通に殺気はなってくるんですけどっ!?

怖いよぉっ!?変な声が出ちゃった。


「私のこの力は肉体強化の奇跡と魔術を同時使用してるからです。」

「なんというか、僕よりもフェローよりも強くない?それって。」

「そうなりますね。」


たのも恐ろしいという言葉を実感した僕である。

ベリーは満面の笑みを浮かべてこう言った。


「というわけで、付いてきてください。マスター。

女の子をこんな不気味な場所においていくのは男としてよろしくありませんよ?

身も心も女・・・だと言うならば・・・致し方ありませんね。

無理強いは止めます。」

「むっ!?

何を言ってるのかなっ!?

僕は男の中の男っ!!ベストオブダンディだぞっ!!

そこまで言われて逃げ帰るなんてのは男のやることじゃないっ!!

受けてたと・・・しまったぁっ!?」

「はい。言質はとりました。

付いてきてくださいマスター。」



まんまと挑発に乗せられた僕である。



「おわ・・・薄暗い・・・」


店内は牢屋のように堅牢だった。

壁には色々な武器が立てかけられている。

例外なく禍々しい気配を出しているのは言うまでも無い。


「雰囲気が出ていますね。

呪いの気配がします。良い具合の武器が手に入りそうです。」

「呪いの武器を装備する気満々っ!?

もう少しまっとうな装備をつけないっ!?」

「私はマスターとあのペチャパイ幼女から生まれた存在ですので、お2人の力をこの身に秘めています。

しかも生まれ方が特殊でしたので・・・たとえばマスターの力を受け継いでるにも関わらず、マスターのような魔法の扱いが下手という弱点を持っていないですし、ペチャパイ幼女のように魔力霊力が莫大過ぎるゆえに下級魔術を扱っても大魔術なみになってしまう・・・という弱点はないのです。

のくせして、お2人の技能、魔力霊力の量と言った長所の部分の7割がたを引き継いでいると言う人生の勝ち組。それが私です。」

「・・・泣いて良い?」

「ダメです。

そして、ここからが本題です。

一言で言うならそうした良いとこどりの強い私が扱う武器は、やはり良いとこの物でないと気が済まない・・・というよりその辺の貧弱な武器では私の力を発揮できないということで、普通の武器より優れてる場合の多い呪い武器をチョイスすることにしたのです。」

「なるほど・・・僕をからかっていただけじゃなかったんだね。」

「ええ。もちろん動機の8割はマスターの慌てふためく姿が見たかったと言うのが一番ですから安心してください。

舗装された街道で干上がるミミズのごとく。」

「大半僕がらみっ!?

そしてミミズ可哀想っ!!助けてやってっ!?」


ベリーにからかわれていると、店の奥から1人の男が出てきた。

フードを被っていて容姿はわからない。

声で男だとわかるくらいだった。

「なんだ?

小娘と・・・男・・・か?」

「男です。」

「マスター、嘘はいけませんよ?」

「嘘付いてないよっ!?」

「珍しいな。

この店を見つけることの出来る客は。」



あとから聞いた話だが、呪いの武器を売るのは犯罪に抵触することで大抵の呪い武器店は人が寄り付けない魔術なり奇跡を店にかけているそうだ。

ただし、”呪いの武器が欲しい”という本心からの意思を持って歩く人間には通じないとのこと。

すなわち本気で呪いの装備が欲しかったようだ。

ベリーは。


「それで?

どちらが望んでいる?」

「私です。」

「ふむ。」


男の質問に答えたベリーを見定めるように凝視する男。

ちょっと怖い。というか目が赤く光ってるんですけども。

この世界には目につけられる蛍光塗料があるのだろうか?



「いいだろう。

大した人間だ。」


人間じゃなくてパジャマなんですけどね。



「どんな武器が欲しい?」

「・・・そのリボンはなんですか?」


ベリーは少し考え首をめぐらせた後、ふと目に留まったリボンのような黒い布切れを指差した。

フタが透明な箱に入れられて、カウンター(?)の机に無造作に置かれていた。


「これは・・・」

「それが良いです。」

「・・・いいのか?」

「良いです。」


少し戸惑いを見せた男。

それに対してベリーは魅入られたように、これしかないと表情で言っていた。

僕は怖い。

普段からこういった武器郡に囲まれて過ごしているであろう店主に戸惑いの色を出させるほどの武器。

いや、武器?

武器なのか?

武器ではないと思うけれど、ベリーは武器と見たらしい。

その黒いリボンを手にとってうっとりするベリー。

勝手に触って良いのかな?


「あの・・・」

「なんだ?」

心配なので、とりあえずあれがどんなものなのかだけでも聞いておこう。


「あれってどういった・・・武器?武器なんですか?」

「あれはダーインスレイブと呼ばれる特殊な”鎧剣がいけん”だ。」

「がいけん?」

「身を守る手段と剣として・・・武器としての機能を持つ武器の総称のことだ。

あのリボンは鋭い剣にもなれば、体の一部に撒きつけて身を守ることも出来る。」

「へぇ・・・どうして呪い武器だと?」

「・・・あれが持ち主を選ぶからさ。

持ち主でないものが持てば即切り刻まれる。」

「・・・見たところ大丈夫そうですね?」

「あれは基本的に自分より格上の相手は認める。だが、斬った相手の血を吸って成長する。あれを使って敵を殺せば殺すほど、ダーインスレイブは成長し力をつける。

・・・ここまで言えばどうなるかわかるよな?」

「必ずいつかは持ち主を殺すことになる・・・ってことですか?」

「そうなるな。

唯一、例外だった持ち主がいたらしいが・・・どうして殺されずにすんだかは不明さ。」

「・・・まぁしばらくは大丈夫だよね。」


僕とフェローの力を併せ持ってるわけだからベリーにダースインスレイブが襲い掛かるのは相当先のことだろう。

今のところはなんら問題ないはずだし。


「いくらですか?」

「マジで買うのかい?

確実に死ぬって分かってるのに?」

「まぁ、いざとなれば捨てれば良いだけでしょう?」


結構気に入ってるみたいで、笑みを浮かべながら頭に巻きつけているのを見ると「止めときなさい」とは言えない。

とりあえず、リボンが一つのアクセントとなっていてより可愛らしくなったし。

そもそも僕のいうことなんて聞いてくれないだろう。多分。


「まぁ・・・そうだがな。

5万ガルドだよ。」

「・・・高いですね」

「性能は保証できるからな。」

「使い捨ての武器にそこまでぼったくるんですか?」

「嫌なら良い。

あそこの娘さんの笑顔を壊せるってんならな。」


ニヤニヤとそんなことを言ってくる店主。

これは確実に足元を見やがってる。

忌々しい、ああ忌々しい。

何よりもぼった食ってるって分かってるのに、それに抗えない僕の今の現状が忌々しい。

どんなに子憎たらしくても、いささか口が過ぎても、Sの気があっても彼女は僕の愛するパジャマであり、僕を慕ってくれてる(?)女の子であり・・・


「ま、マスター。どうです?

に、似合うでしょうか?」


少し頬を染めながら、珍しく不安げに聞いてくる彼女に否定の言葉を吐けるわけも無く。


「ああ、もちろん。可愛いよ。」

「・・・あ、ありがとうございます。」


照れながらも見せてくれたこの笑顔を見れたのなら、いずれ確実に捨てるであろう武器に5万ガルドを払ってしまうというおバカな選択をした僕を誰が責められようか?




後日、普通にフェローとエンデに責められたというのは秘密である。


作中のリボン。ダーインスレイブは北欧神話に出てくる魔剣ダーインスレイブを元にしたものです。

抜けば血を吸わずには居られないとか。

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