第27節 女装なへたれと愉快な仲間たち
今回は挿し絵ありです。
前ページの後書きでも書いたように、トーシロの絵なんざ見るに足らんとか、萌え系?って言うのかな?
そういう絵柄が苦手な方は挿し絵表示設定を“しない”に変えてくださいませ。
また、めんど…じゃなくて、ペン入れはしてないので見づらいやもしれないです。
ロロリエを目前に。
なぜに、このようなことになっているのか甚だ疑問である。
場所はロロリエから少し離れた丘の上。
その街道脇である。
そして僕の服装を見てもらいたい。
簡素な上着に、簡素なスカート。
はいそこぉっ!?
思ったね?
思ったろっ!?
なぜまた、スカートなどをはかねばならんのかとっ!!
すなわち女装をせねばならんのかとっ!?
わざわざエンデの風魔法で胸を少し膨らめるという念の入れよう。
そしてなぜまたハイニーソックスなどという、男が着るという使用用途において滑稽としか言えないこの着衣を履いているのか?
我ながらこんな生き恥をさらしていることにほとほと泣きそうなのだ。
というか、泣いていい?
背後でバカみたいに笑いまくるフェローに対して「笑うなよぉっ!?」とほぼ泣きそうになりながら言った物だが、そんな僕の悲痛の叫びを完全に無視して笑い続けるフェロー。
エンデなら怒ってくれると期待して目線を向けてみれば、フェローのその隣でぽっと顔を赤らめて見とれてるだけ。
そんなに見とれるほどの見た目はしていないっ!!
と声高に宣言しても、「うん・・・わかってるよ・・・良い感じだもん」とまるで話の通じないエンデ。
それを見た、剣とシロだけが同情の視線を向けてくれる中。
僕はただただ、恥ずかしさを震えて我慢するしかないのであった。
とりあえず、そうしてこうなったのか。
いまから説明したいと思う。
早い話、予想以上に手際よく指名手配されてしまったのが問題だった。
ルベルークで強行突破したために、指名手配の覚悟はしていた。
だが、各国への連絡、対策は少なくても一週間はかかるという目論見だったのだけれど、そのあてがすっかり外れたのである。
なんと、ロロリエに到着するまでの1日半ほどで、検問がしかれるという超スピード。
これはこの世界の政治体系からすれば信じられないスピードなのだ。
もともとこの世界にある街はただの街というわけではなく、各々の街が一つの小国として機能しており、その小国一つに王が1人づつ。
そして、その小各国を纏め上げる王達の王がいる。
いわば大陸の王だ。
どこかの小国で起こった事件に他の小国も連携して追い詰めるという対応が非常に取りづらい厄介な形をとっていたハズ。
そのために今回のことも、その辺の小国の王が1人わめこうと他の小国に協力を求めるにはそれなりの時間がいるだろうという打算の元、ロロリエにノコノコとやってきたわけだが、そうもいかないようである。
ルベルークとロロリエの王が普段から密接な関係をとっていたのか。
それとも、僕達には分からない伝達手段があるのか。
はたまた実はレヴァンテの王は西大陸を纏め上げる国王で、他の国に言うことを聞かせる権限があったのか(東大陸側の人間からすれば覇王)。
閑話休題。
とにかく、ロロリエの検問を確認した後、すぐにこの丘まで戻って作戦会議となった。
その内容が以下である。
☆ ☆ ☆
「これって・・・まずくない?
ロロリエに入れないよ?」
「じゃのう・・・。
まぁ本来なら・・・入れなくても良い。」
「というか、この調子じゃ他の街に言っても多分一緒よ?」
「うん・・・その辺は大丈夫。
ロロリエの付近に国境を越える森があるそうだから・・・そこを超えて東大陸に行くつもりだよ。
こっちで指名手配されようと、さすがに向こうでもされるってことはないよね?」
僕はこのまま表をろくに歩けなくなる犯罪者としてよりも、とりあえず東大陸に渡って身の振り方を落ち着いて考えるつもりである。
元の世界に戻るにせよ、このままこの世界にいるにせよ。
「・・・本気なの?」
エンデが掠れた声で僕の正気を疑うような目で見てくる。
そんなに国境付近の森を越えるのことが難しいのだろうか?
確かに、簡単に超えられるような場所ならそこにも検問があるかもしれない。
簡単に超えられないなら超えられないで難しいものがあるだろう。
「そんなに危険な場所なの?」
「そ、そういうんじゃなくて・・・
東大陸は魔王が・・・」
ああ、そういえば、この世界ではお互いにお互いを魔王と呼び合ってるんだったっけ?
西大陸側の人間からしたら東大陸の王族達こそが魔王だし、東大陸の人間からしたら西大陸の王こそが魔王って話だ。
西大陸出身のエンデからしてみれば、セリアたちは悪の手先のようなものなのだろう。
まぁそれは仕方が無い。
きっと、国をあげてそういう教育をするように義務付けていたりするのだろうから。
エンデの出身だって結局のところその辺の村娘だ。
東大陸など、ただの敵国としてしか認識できてないんだろうね。
「だいじょうぶだよ。
東大陸に知り合いがいるし・・・その人たちを見てたら思うんだけど、僕達と何も変わらないよ。」
「し、知り合いっ!?
ヒビキって東大陸出身・・・・なわけないか・・・・勇者として召喚されたんだもんね。」
「うん。
たまたま最初の知り合いがこっちにきてた東大陸の人間だったってだけの話だよ。」
「・・・・そうだよね。
ヒビキがそういうなら、きっと良い人たちだよね・・・」
「そんな話は今はどうでもいいじゃろう?
問題はロロリエの検問をどう突破するかじゃ。」
そう。
問題はそこなのだ。
ロロリエを無視して森に入り、国境を越えて東大陸へ向かうことはもちろん可能だ。
だが、現在のところ食料があまり無い。
森で調達できないこともないが、出来ない可能性ももちろんある。
元来、魔獣は食用向けとそうでないものがあるが、そうでないものは殆どが内臓や脂肪、筋肉に毒を持つ。
毒といっても水銀などの重金属や、雑菌や寄生虫といったさまざまなものである。
魔獣の体は人間と比べ物理的にも、生理的にも頑丈に出来ており、多少の有害物質ならば体内に蓄積されど、問題は無いのだ。
だが、それを食べようとする人間から見たらそれは無視できないレベル。
命に関わるものが多々あるとのこと。
火を通せば、雑菌と寄生虫はどうにかなったとしても、水銀などの金属はそうはいかない。
こうした無視できない有害物質を取り込むような食生活をする魔獣は基本食用に適さないのである。
そうした知識が乏しい状態で魔獣を食用にしようなどとは無茶無謀に他ならないというわけだ。
果実も同様で、中には魔力を吸って成長する木の実などもあり不用意に食べると下痢や嘔吐を起こす。
体内魔力との反発で起きる現象らしいが、詳しいことはまたの機会に。
とにかく、食糧難が一番の問題であった。
できれば、補給しておきたいのである。
もちろんそれなりに食料はあるのだが森の道や広さがわからない以上、多めに持つのがセオリー。
通り抜けるのにどれだけの時間がかかるかわからないからだ。
というわけで、僕が出した提案はこれ。
「まずは彼ら検問の人がどうやって僕達を見分けているか?
それを知る必要がある。」
「どういうこと?」
エンデの疑問の声に僕が答えるよりも早く、セルシーが答えた。
<なるほど。
たとえば、男2人組みで髪が赤い・・とか、そういう条件付けを知るってことなのね?>
「うん。
そうなる。」
「それがわからぬ場合はどうするのじゃ?」
「ここで、シロを待機させてフェロー、エンデで食料を買出しに行く。」
「それはおそらく無理じゃろう・・・」
「・・・・やっぱりそう思う?」
まず僕はいけない。
シロの手綱を握るために馬車の外に出ていたのでおそらく顔が割れている。
見られてはいないと思うが、少なくとも服装くらいは覚えられたハズだ。
それとこの世界ではあまり見ない、黒髪が目立つ。
次にフェローとエンデだけの場合、馬車が無いとなると歩きでどこぞの街から来たということになる。
そうなると弓を持つエンデはともかくフェローが怪しまれる。
手ぶらで旅をする人間はいないからだ。
すくなくとも何らかの武器を持っていないとおかしい。
ファルシオンを持たそうにも、検問の兵は只者じゃない感バリバリのレヴァンテ兵がいる。
十中八九、身のこなしで借り物だということがばれるだろう。
かといって、魔術師だと言うのもまずい。
なぜなら昨日、注意を引くためにつかった”ハッタリ大規模魔術”スターブレイクを使える可能性があると思われるだけで拘束されかねないからだ。
事実ここから見るからにロロリエの検問所では魔術師らしき人間が問答無用で連れ去られてるのが見える。
じゃあ、どないしよう?
と考えたところで考えた苦肉の策がどういう条件で探しているかということだ。
まず、”白竜を引き手としてる馬車”であることは間違いが無い。
男がいる。
そして馬車を使っていることから、おそらく複数人だと思われていると考えるべき。
内1人は魔術師。
そうした条件をすべて引っかからないようにすれば、問題ないのではないかと僕は思っている。
そこで、重要視されるのが出来るだけ正確にその条件を割り出すこと。
「ここから、あいつらの話を聞いたり、観察できればな・・・・」
とぼやいて見たがそんな便利な技があるはずも無い。
「できるよ?」
「うん?
そんな便利な技があるはずがな・・・・・・できんのっ!?」
エンデのできるよ発言にびっくり仰天の僕。
「うん・・・その、か、顔が、ち、近いよう・・・・」
「えっと・・ごめんなさい。」
顔が真っ赤なエンデからすぐに離れる僕。
照れてるのかな?
爆発しろとか言うくらい嫌われてる人間相手でも、男が近づくと恥ずかしいってことかな・・・
初々しいね。
乙女ってこういうものを言うのか。
女の子で付き合いの長い知り合いは冬香ぐらいしかいないからこの反応は新鮮だったりする。
ただ・・・・・嫌われてなければこっちも顔が赤くなるくらいはなったと思うのだけどね。うん。
というか、やっぱり無理やりにでも村に返したほうがよかったかもしれない。
嫌いな相手にわざわざ”身勝手”という名の意地のためだけに付いていくなんて、見た目に反して頑固な子だと今更ながら思ったりするが、それはおいておこう。
「絶賛勘違い中って感じの顔ね・・・・私って男運ないのかなぁ・・・。」
「男運?」
「な、なんでもないわよっ!!
とにかく、挙動を見たり話を盗み聞きすればいいのねっ!?」
「う、うん・・・そうだけど・・・」
「問題ないわ、この距離なら。」
といって、彼女の両耳がネコ耳?犬耳?狐耳?
どれかはわからないけど、獣の耳に変化した。
「なるほどのう・・・
お主、亜人種か?」
「・・・そんな呼び方しないで。」
「亜人種?」
「早い話、獣と同じく下等生物と見下されて迫害を受けてきた種族じゃよ。
どこぞで細々と生きているとルベルークの街の伝承の一つにあったのう。」
「へぇ~・・・こんなに可愛いのに。」
「ふぅなっ!?
な、ななっ!?
何言ってるのっ!?バカっ!!というか、からかわないでっ!!
ヒビキでも怒るよっ!!
この耳は・・・・迫害を受けてきた私の一族の忌々しい象徴で・・・」
「からかってないし、本心の言葉だよ?
もし、その耳を下等の証だとかってバカにする奴がいたら、僕が斬り捨てる。」
赤の他人だったならともかく、今となっては彼女は大切な友人の1人だ。
僕は友人を後生大切にする主義なのである。
なんせ・・・少ないので。
貴重なのだ。そして、単純に彼女が好きだからでもある。
「そ、それは・・・”守ってあげる”という自分の”身勝手”を通すため?」
安心させるためにと思って言った僕の言葉を受けて、逆に不安げな瞳でこちらを見つめてくるエンデはそのようなことを言った。
その目は僕の口をさらに動かすに十分な力を持っていた。
「ちがうよ。
いや・・・それもある・・・かもしれない。
でも、全部が全部、そんな僕の”意地”からじゃない。
単純に君が好きだから・・・好きな友達をバカにされて黙ってる友達はいないでしょ?
単純に気に食わないから・・といったほうが正しいんだと思う。」
その言葉を受けて、嬉しそうに悲しそうな顔をするエンデ。
とどのつまり複雑な表情で僕を見つめるその視線は妙に艶やかで、熱っぽかった。
一体なにが聞きたかったのか?
とにかく、彼女の耳はかなり良いらしくここからでも十分聞こえ、視力も人間とは比べものにならないそうだ。
その彼女が見て聞いて集めた情報によると、条件や状況がより正確にわかった。
1、男1人を含めた複数人を対象としている。
2、魔術師がいることはまず間違いないと考えている。
3、男の人相は分からないが、服装は確認済み。
4、白竜を引き手としてる馬車は即刻逮捕らしい。
5、魔術師がいた場合は問答無用で事情聴取
6、上記に当てはまらない人たちは基本的に多少の目線を向けられるのみ。
7、兵士の錬度は高めだが、ロロリエの兵が2人にレヴァンテ兵が1人。
8、女性のみのパーティはそもそもノーマーク
という条件。
ここまで言ってようやく冒頭に戻ることができる。
これらの条件を満たすべく、僕は女装したというわけなのである。
絶対にバレると言い張っても、2人してバレナイバレナイの一点張り。
あいも変わらず僕は泣きそうなのに。
風魔法で作り出した即席胸パッドは使わないことにした。
バレる可能性があるからだ。
ばれたらばれたで、そのまま馬車まで引き返して森へ行けば良いだけだが・・・どうにも納得がいかない。
まぁその辺は良しとしよう。
バレたら、ふたりを思いっきり責めてやると思いつつ。
僕達は検問所へと向かった。
シロは馬車と一緒に丘付近の雑木林の中を通ってロロリエ付近についてるように言付けた。
さぁ、祭りを始めようじゃないか・・・・僕の女装祭りという酷い祭りを・・・・ぐず。
泣かないんだからねっ!?
だって男の子だもん!
そんなことを思いながら検問所へ向かうと、案の定、検問所前にて兵士に呼び止められた。
「あ~おい止まれ。
お前達・・・・そこの嬢ちゃんは何も装備してないみたいだが・・・」
「そ、それは私が彼女の護衛役ですので・・・」
と僕が言う。
(もともと声が高いので少し裏声を使えば簡単に声を作ることができた。)
護衛される側なら武器を持たず、魔力が無くても怪しまれないという魂胆である。
とはいえ、僕が怪しまれるだろう。
たとえ女物の服で着飾ったとしても、僕の内面から溢れる男気はそうそう隠せないはずだからだ。
ダンディズムオーラとも呼ぶ!!
それに、さっきからもう1人の兵士がやけにこっちをちらちら見てくる。
ばれたかな?と思って腰に差してあるファルシオンの柄へさりげなく手を当てて警戒してると、兵士2人はニカっと笑ってそのまま「いっていいぞ、嬢ちゃんたち。」と言って終わる。
「え?
えっと・・・ごくろうさまです。」
少々呆気にとられながらもすんなりと街に入ることが出来た僕達。
あれ?
おかしいぞ?
僕のダンディズムはどこへ行った?
ふつふつと滾る男気はいついかなる時を持って沈下したのだ?
入れるはずが無い。
僕が男だとばれて・・・当たり前だったはずだったのにっ!?
「なぜ・・・だ?」
「ヒビキ・・・可愛い・・・」
「ぷくくっ・・・・しもうた。
またはまりだしてもうた・・・ぷくくはははははっ!!」
<どっからどうみても女の子にしか見えないから仕方ないと思うよんっ!?>
バックパックの中から話しかけてくるセルシー。
セルシーまでもが僕を女として扱うというのかっ!?
なぜまた・・・・僕は・・・気づかれなかったのだっ!?
わけが分からないっ!?
はっきり言おう!!
この世界に化粧などない。
はっきり言えば僕は単に女物の服を着ただけなのにっ!?
それだけで、男だと分からなくなったとっ!?
ばかなっ!?
それでは・・・・まさか・・・
<下手したら日ごろ着てる服でも”女の子が男装してる”と思われる可能性もあるってことよね?
これって。>
「い、い、言わなくてもいいじゃないかぁぁぁぁぁあああああああああっ!?
うあわぁぁぁぁあああああああああああああんっ!!」
号泣したのは言うまでもない。
女装ネタをするつもりは微塵もなかったんですけどね。