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第14節 精霊契約

「さて。

これで契約が完了したわけじゃ。

その手袋を見てみい。」

「ん?

うぉっ!?

なんか発光してるっ!?」

真っ黒な手袋がぼんやり光っている。

紋様が浮き上がって、なんか不気味。

「ちなみに一つの精霊契約の魔具につき、一人の精霊しか契約できんからの。」

「まじでっ!?

ていうか、この手袋そんな性能があったのかっ!?

今更だけどびっくりだ。」

「そして精霊と契約した今、主は全盛期の魔王と同じ力を得ることが出来る。

数秒じゃがの。」

「魔王・・・の全盛期といわれても。」


この世界の魔王のことを良く知らない内ならばともかく、魔王が各街を統べてる各々の王たちのことを言っていると聞いたのだからそんなことを言われてもあまり嬉しくない。

すくなくとも僕が初めてこの世界に来たときに見た王様は弱そうだった。

それと同じ力と言われても下手したら弱体化するんじゃないだろうか。


「どうしたのじゃ?

嬉しくないのか?

まぁ、数秒じゃ大したこともできんしの。」

「いや、魔王って言ってもこの世界じゃ__」

魔王のことを話すとプクククと笑われたっ!

一応言っておくけど、他人から聞いた話なんだから僕を笑うのはお門違いだ!!

僕にこれを教えた彼女を笑えっ!

それはそれで嫌だけど。


「す、すまぬ・・・くく。

くくく・・・なに。

時代も移りおうたなと思うてな。

ふふひひっ・・・」

「感じ悪いぞフェロー。」

「す、すまぬといって・・・ひぃひぃ・・・おる。

ふ・・ふふ・・ふぅ。

・・・おほん。

落ち着いたところで。

今の時代にあれを知る精霊も、人間も、というより全種族を通しておらぬだろうしな。

エルフ族かダークエルフ族の一部が伝え聞いておるというれべるかの。」

「含みのある言い方されるとちょ~っといらつくなぁ・・・

説明するつもりはあるの?」

「ないの。

必要が無いし、そもそも説明が面倒じゃ。」

「なら言うなよ・・・」

「すまぬすまぬ。

魔王と同じというのは言い換えよう。

そうじゃのう・・・上位竜種を軽々と倒せる力を手に入れられるといってよい。」

「へぇ~。

でも今の状況をなんとかしないとこのまま死ぬだけなんだけど・・・」


契約と言われても死にそうな身である僕にはなんとも意味が無い。

結局のところ今の状況をどうにかしなければ、意味はなさないのだから。

「それも問題ない。

そろそろ実感できる頃合じゃろ?」

「ん?

何が?」

「にぶちんよのう。

体をちと動かしてみい。」

「いや、動くも何も・・・ってあら?

普通に動く?」

「そうじゃろうそうじゃろう。

妾の力が主の体にめぐり、物理的な身体能力はもちろん、治癒能力といった目に見えない部分も上がっておる。

人間ではとても考えられぬれべるでな。

とはいえ、あくまでも人間と比較した場合だからの。そこまでの重症だと、まともに動けるように3日はかかるじゃろうが、その頃には体力もある程度回復するだろうて。」

「こんな場所で3日間か・・・嫌だねぇ・・・」

「失礼な。

妾の部屋だというに。

女子の部屋に居座っておいて、ひどいことを言う。」

頬を膨らませてブスっとするフェロー。

話を聞くに大分長い時間を生きていたようだが、見た目相応の可愛さを感じた。

「え・・・そうなの?

ご、ごめんなさい。」

「よいわ。

それに久方ぶりの地上じゃ。」

「ど、どういうこと?」

「ん。

あ、ああ。

妾はここに閉じ込められておったからの。」

「閉じ込められ・・・監禁されてたってことっ!?」

「言いえて妙じゃが・・・ちと違う。

悪い意味での監禁ではない。

妾を救うための・・・監禁といったところか。」

「えと・・・話が全く見えません。」

「簡単に・・・至極簡単に言えば、ここの付近には暴君がいたのじゃよ。

妾はその妃となる身分の闇人じゃった。

俗に言う政略結婚じゃな。」

そういう彼女の白い瞳に揺らぐ感情が何なのか僕には分からない。


「何。

その暴君はかなりの問題があっての。

とくにその強大な力、他者を冷徹に害することの出来る価値観。

早い話。

その暴君への生贄といってもよかったかもしれん。

妾は覚悟を決め、その男に嫁ぐつもりだった。

あわよくば寝首をかくつもりでな。

だが、奴の方が上手じゃった。

もともと妾達、闇人側にはそやつと仲良くするつもりなどはなから微塵も無い。

はっきりと言うなれば、政略結婚という友好に見せかけた時間稼ぎだったのじゃ。

そやつを殺すための戦力を集めるためのな。

それを見破ったあ奴はそのまま世界を混沌に至らしめた。

しかし、もちろんのこと妾達にも多大な犠牲が出る。

時にはごっそりと。また時にはぽつりぽつりと守るべき民草が死んでいったよ。」

そういう彼女の白い瞳に揺らぐ感情は複雑な・・・決して他者には分からないような轟々と渦巻いたものだ。


「いつの間にやら闇人は数十名が残るのみとなったわけじゃ。

そして中でも力の強かった妾は、とある理由から主と妾がいるこの”永劫の時部屋”に閉じこもったわけじゃ。」

「よくもまぁ・・・なんというか・・・偉いね。」

「そ・・・そうか?

そうだろうか?」

「うん。

偉いと思う。

僕にはとてもじゃないけど、どんな理由があってもこんな場所で1人きりってのは耐えられなかったよ。」

「なに。

妾は魔力体を切り離して外へ行き来できるからな。

大した苦行ではない。

せいぜい人が恋しい・・・それくらいじゃ。」

そういう彼女はなんだか酷く儚げで、今にも壊れそうな氷細工のようで、瞳はいつ泣くかも分からないような不安定な揺らぎを出していた。

彼女の身上話は僕にとって途方もなく実感に沸かない話だ。

でも不思議と。

さめざめと。

さんさんと。

僕は涙を流していた。

ただただとめどなく。

悲しさや無念さや後悔や悔恨や恨み辛み、喜び、虚しさ、せつなさ、愛情。

いろいろな感情の奔流が右腕の手袋を伝って頭が割れそうになりながら泣いていた。


彼女の代わりとばかりに泣いていたのだった。


「それで・・・何を泣いておるのじゃ?」

「いや・・・なんでもないよ。

とりあえず僕は寝る。

実はさっきからなんだけど、なんだか眠くなってきた。」

「そうか・・・そうじゃな。

その傷でよう意識を保ったというところじゃ。

ゆっくり休むが良い。」


体が睡眠を欲していた。

傷を治すべく。

体力を戻すべく。

生きるべく。

またセリアたちに会うためにも。

まどろむ意識の中、さわりと僕の髪を撫でる力を感じた。

それは不思議と家族の温もりを彷彿とさせて、僕は意識を手放したのだった。



「・・・ぅぅん?」

「起きたのか?

寝坊助さんめ。

さしもの妾でも足が痺れてしもうたわ。」

「ああ・・・・え・・ええと・・・」

意識を覚醒させるが、いかんせん記憶が混濁している。

昼寝と称して寝て起きる頃には真夜中で寝すぎた時のだるさに似ていた。

というよりそれより強めのダルさと軽い頭痛で顔を顰める。

眼前には僕を覗き込む少女・・・フェローの顔。

そんなに近く覗き込まれると少し恥ずかしい。

「起きたのならどいて欲しいのじゃ。

まぁ、妾の膝枕が気持ちいいのは分かるがの。」

「うん・・・なんだって・・・なんだってっ!?」

「ひゃんっ!?

こ、こら!

もぞもぞ動くでないっ!!

こそばゆひぃんっ!?」

「うぁっ!?

やわらゲブフっ!?」

フェローに膝枕をされていたようでフェローの膝枕から、ついという感じで落とされた僕の頭。

重力にしたがってゴチンとぶつけた。

苔が敷き詰まってるせいもあって直接床に落ちるよりは痛くないけど、痛くないと言うには少し無理があるといった具合の微妙な痛烈打である。


「一気に目が覚めた・・・」

体を起こして体調を確かめる。

一眠りしただけで、殆どの傷が塞がり、骨もあらかた修復されているようだった。

すごいな。精霊契約の力。

いや、フェローの力が僕の体を廻るというから、これが彼女の力かもしれない。

「すごいね・・・精霊契約ってのは。」

「いや、妾も予想外じゃ。

一日でここまでとは。」

「そんなに早いの?

・・・多分、女神の指輪の効果もあるから・・・って一晩っ!?」

「女神の指輪か。

なるほどのう。

それならば相乗効果でこのくらいの効果はあって当然か。

本来なら即修復されるれべるじゃが、おそらく死に掛けておったから命の維持に力の大半がいったから・・・ん?何を驚いておる。」

「いや、一晩も膝枕してくれてたのかなぁ・・と・・・。」

「う・・・うむ・・・

嫌だったか?」

という彼女の上目遣いはなんだか見た目に反して色っぽく、むしろ見た目が年端もいかない少女というのがこれまたギャップになっており・・・すごく悩ましい魅力を醸し出していた。

なんだろうこの気持ち。

これが背徳感!?

彼女の頬は軽く染まっていた。

結構な年月を過ごしているらしいが、こういったことには免疫がないようだ。


「いや。

むしろ悪いと思ってます。」

「気にするな。

響は妾の契約者じゃからな。

気遣うくらい当たり前のことじゃ。」

「ああ・・・そういえば精霊って個人的には実体の無い神聖視されるような存在という偏見・・・?

そういう文化のもと育ったんだけど、精霊ってそもそも何?

東大陸に住んでるってことは分かる。」

「ふむ・・・その詳しい説明はおいおいじゃな。

今は寿命の長い人間の亜種・・・霊力と魔力を併せ持つ存在とでも考えておけば間違いない。」

「そう。

で、契約ってのは?」

「精霊と人間を結びつけ、両者を足して2で割ったような存在になる儀式・・・かの。

メリットデメリットはもちろんあるが、手っ取り早く強くなれる方法の一つじゃ。

もちろん精霊契約のための魔具が必要となる。

この魔具の性能もまた契約における加護の大小を決める要素となるから高価なものほど良いな。

そして、精霊と契約した人間は俗に”精霊士”・・・そのままじゃな。

そう呼ばれる。

大陸にこの精霊士は50人もおらんだろうから誇ってよいぞ。」

「誇ってもといわれても・・・特別誇りたいとかは・・・」

「さて、ここからが本番じゃ。

妾の力を使いこなして、上におる三匹の竜・・・ではなかった。

一匹は力尽きておるな。

二匹の竜を相手に練習をするといい。」

「あ、あれを・・・二匹でデスカ?

勘弁して欲しいんですけども。」

「さぁ、出口は向こうだからの。」

「ちょっと、人の話を聞きませんか!?」

「あとで聞いてやろう。」

「いや、今聞いてもらわにゃほぼ意味がない、じゃなくてすべての意味が無くなくなるだけど!?」

「なんじゃ。

妾の契約者ともあろう者が、たかが二匹のトカゲ相手にみっともないとは思わんのかっ!?」

「僕としてはもう縮地あたりで逃げ出せばそれで万事おっけーなので遠慮願いたいというささやかな願いを知ってほぶしっ!?」

「たわけが。」

「またビンタするし・・・結構痛いのわかってる?」

「何を言う?

響が大事そうにしていたイチゴ柄パジャマに頼まれたから厳しくいくというに。」

「どういうこと!?」

「そのままの意味じゃ。

妾の力でイチゴ柄パジャマと話せるようになったのじゃよ。

バックパックから出して話しかけてみい。」

「ほ、ほんとうかっ!?」

喋るパジャマ。

それはそれでパジャマとして機能するのか若干、不安なところだ。

「貴様の裸をなんで俺が被覆してやらなければならないんだっ!!全部おっぴろげとけやっ!!」とか主人を選ぶパジャマとかになっちゃったら、愛するイチゴ柄パジャマを二度と着用できなくなる。

そんなことになれば発狂してしまいそうだが、僕のイチゴ柄パジャマは僕のことをどう思って被覆してくれているのか。

それもまた不安と同じくらいの期待だ。

その不安と期待があって、この場からいっそのこと逃げ出したい心境に駆られながら魔法にかかったように手が動く。

そのままおそるおそるパジャマを出す。

「・・・話しかけてはこないな・・・」

やはりここは改めて自己紹介からいくべきか。

「僕は・・・知ってると思うけど、山瀬 響。

その・・・こうして改めて話すと・・・そのなんか照れるよね。」


パジャマに向かって話しかける僕。

端から観るとちょっとアレな人に勘違いされるだろうが、ここはファンタジー。

なおかつ喋るというのだから問題はない。

パジャマは相変わらず反応しなかった。

最近、着てやらなかったから拗ねているのかな。

「そ、そんな黙ってないでお話しようよ。

僕は前々から君の事を愛していたよ?

そ、その確かに最近は他の子(今来ている冒険者の服)にカマかけていたけど、け、決して浮気じゃなくて・・・ほ、本当に違うんだ。

僕が愛しているのは君だけさっ!!

でも、世間はそう見てくれない・・・。

僕の愛、君の愛を気持ち悪いと観る人が殆ど。

いや、わかってるよ。

そんな他者の視線なんて気にしなければいいことは。

でも、、君と愛し合ってると(着用すること)まわりから・・・いや、本当に違うんだけど、目立つわけにもいかないっていうかっ!」

台詞だけとってみれば、女たらし様様のプレイボーイ発言だ。

この台詞の相手がイチゴ柄のパジャマだっていうんだから客観的に見ればかなりのシュール映像である。

主観的には自然なのだが。


「くっ・・・くくっ・・・

あははははははははははははっ!!

おもしろっ!!す、すぎ、すぎるっ!!

うく・・あふ・・ははははははっ!

わ、妾の予想、・・・を、う、上手く・・越え、て、くくく、くれおったわっ!!」

背後でやけに笑いこけるフェロー。

うむ。

これはもしや。

いやもしかしなくても。

う・そ。

ではないだろうか。

「気づいたか?

じょ、冗談のつもりじゃったんだが・・・くくく・・・ふふふ・・・はっはあはは。

う、う、嘘だというに可愛い奴じゃのうっ!!

ええ!?

もう一度いってくれんか?

前々から君のことを・・・なんじゃて?

ただの動かぬ布切れに”前々から君のことを・・・アイシテル”!

くはははははっ!!

け、けけ・・・傑作じゃっ!!

見事な傑作じゃっ!!」

「お・・・・おま・・・・な、なんて・・・」


やばい。

こっちにきて・・・というか、いままで生きてきた中で一番恥ずかしい。

なんというか酷すぎませんかね?

「ふぇ、ふぇ、ふぇろ、ふぇろーの・・・・ふぇろーの・・・ばがぁぁあぁぁあぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」


男って奴はな。

泣いて走りたくなる時ってのがあるもんなのさ。

うん。

二度と他人にイチゴ柄パジャマを見せないと誓ったその日である。

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