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第13節 闇人

「ほらほらぁっ!!

どうしたどうしたっ!!

僕はこっちだぞっ!!」

すっかり惑わされているアースヘッド。

分身の有効時間は約0.5秒。

すぐに消えてしまうので、僕は常に分身を作り出していく。

臭いで追ってくるだろうから、彼女がかなりの距離を離れるまで引き付けないといけない。

僕は逃げようと思えば縮地でアースヘッドを振り切ることが出来るので問題ない。

怖いくらい簡単に作戦が上手くいったものだ。


「さて、このまま、練習もさせていただこうか。」

姉さんが相手だとどうしても攻撃より防御を重視してしまうが、こいつ相手はいい攻撃の訓練になると思う。

というわけで、腰を落として膝を軽く曲げる。

ファルシオンを脇に添えて居合いの型をとる。

身をかがめて縮地。

瞬時に間合いを詰めて、ジャンプ。

アースヘッドの背中に飛び乗り、力を込めた。

「桜花烈蹴斬っ!!」


会心の一刀だったのだが、やはり傷一つ付かない。

だったら、違う技を使うまで。

ファルシオンを上段に構え、構えた勢いそのままに振りかぶる。

「奥義ィッ!!

桜花斬っ!!」

これは姉さんに教えてもらった技のうち、一番威力の高いものである。

まさしく奥義。

気の運び、筋肉の動かし方、関節の連携、体重移動、筋力、器用、呼吸法、すべからく全身を使った袈裟斬り。

それが”桜花斬”。

姉さんが言うにはミサイルだろうと、爆風だろうと断ち切れるとかなんとか。


ギィィィィィィィィィィィィィィィィィンッ!!

金属と金属が打ち合い、擦りあう甲高い音が響く。


「おおうっ!?

これでも傷一つ付かないのかっ!?」

恐ろしい防御力である。

そしてアースヘッドもそうそう攻撃をさせてくれるはずも無く、僕を振り落としにかかる。

体をコレでもかと振り回す。

もちろんそんな不安定な場所に立っていられるはずも無く、飛び降りて着地。

どうにかこうにか無傷でいられているがこちらの攻撃も通じない以上、ジリ貧である。

もとより鍛錬のつもりだからいいけどさ。


「しっ!!

桜花瞬連斬っ!!

続けて、桜花連華弾っ!!」

三連斬りの後に、打撃ならどうだとばかりに三連の蹴りを加えるがこれも効果なし。

ゲームなら打撃属性とか斬撃属性とかが設定されてるんだけどなぁ。

残念ながらゲームで無いここでは如何せん大して変わりようが無い。

などとやっていたら、遠くからズシンズシンとかなりの勢いで近づいてくる巨大生物の影が二つある。

残りの二匹が集合してきたのだった。

「うぉ・・・マジか・・・

音で寄ってきたのかよ・・・どうしよう。」

口調こそ落ち着いていたが、内心かなりのドキドキを抱えていて、愛の告白でもこんなに緊張することはないんじゃないかと思う。

愛の告白なんてしたことがないから、じっさいのところは分からないけどこれ以上に心臓が波打つことがあろうか?

少なくとも僕の人生では一番の緊張具合。というより、絶体絶命のピンチモード。

はっきりいって囮がどうのとか言ってる場合じゃない。

かといって、まだ時間的にあと一分は引き付けておきたい。

さて。

繰り返すけど、本当にどうしよう。

心臓がバクバク言っていて、今にも爆発しそうな勢いで動いている。

エンジンで言うならエンスト状態だ。

エンジンで例える意味がわからないし、エンストは壊れてる状態なので自分でも何言ってるのやら訳が分からないがとにかく僕が言いたいのは早くも疲労してきているということである。

陽炎はその技の特性から体力を多く使うし、命がけの状況という緊張状態もその原因だ。

本当にエンストするのも時間の問題で、予想以上に体力精神ともに消費が激しい。


「ぅおっ!?

ちょっ!やばっ!!」

ここで更なるトラブルが発生。

早い話つまづいた。

もともとは人工的な建物に長い年月をかけて草木がこびり付いたという場所なので、足場がなかなかに悪い。

つまずくのも無理は無いがタイミングがとても悪いです。

ちょうど、敵が突進してきたところでつまづくって、運が良いやら悪いやら。

いや、もちろん悪いのですけども。

何も今このとき、このタイミング、場所でドジッ子スキルを発動しなくてもいいじゃないかっ!!

というか世間様はドジッ子萌えだとか良く言うが、実際のドジッっ子はとても危険であると声を大にして言いたいっ!!

現に今の僕はとてもとても泣きたい状況にあるではないかっ!!

とかなんとか嘆いてる間に、ダンプカーにぶち当たった様な衝撃が腹にぶちあたる。

「っごはっ!!」

骨が軋む嫌な音が、骨自体を伝って耳骨、鼓膜に届き脳に音として認識される。

もちろんその場に留まれるはずも無く。

バガッバガッゴゴン!!

力を受けた方向にバウンドしながら吹っ飛ぶ僕。

木々とかもなぎ倒す勢いで吹き飛ばされるのは、その勢いだけでダメージを受けるレベルだ。

ジェットコースターを乗ったときのあの中身がグワりと引っ張られる感じを痛いくらいに強くしたものと言えば分かってもらえるかな。


太目の大樹に当たってようやく止まったけど全身打撲です。

「ぐはっ!

ごほっ・・・ごほごほっ!

・・・・凄く痛い。

動くたびに全身に響くような肋骨の痛みが・・・いてっ・・・いだだっ・・・」

防御力を上げるという女神の指輪が無ければ、内臓破裂でショック死というところだろう。

ルベルークで買っておいてよかった。


「グルアアアッ!!」

止めとばかりに大口を開けて突っ込んでくるアースヘッド。

「僕を食らう気だろうがこの時を待っていたっ!!」

体をひねって大顎の攻撃を避ける。

空ぶったアースヘッドはそのまま大樹に齧り付く。

ここが最初で最後の好機。

そのままの勢いでバックパックから魔力無効型のショートソード__ベリルから譲り受けたもの__を左手に取り、一番の柔らかい場所で急所にもつながっているであろう唯一の弱点。

”眼球”にショートソードを突き立てるっ!!

「うぉぉおおおおおおおおおっ!!」

バルバト戦のときも眼球は狙ったがあの時は魔力の障壁で防がれてしまった。

もちろん、上位種であるアースヘッドにしてみればより強い障壁を持っているだろうが、そこは魔力無効型ショートソードの出番。

文字通り魔力を無効化するっ!!

「グルガァァァァァァアアアアアアアアッ!?」

ザクともサクとも付かない嫌な感触が腕に伝わり、その感触の引き換えとばかりにズルリと眼球奥へ突き進むショートソード。

いかんせんでかいので脳に届くのかはわからないが、届いてくれなければこちらが困る。

根元まで突き刺した後、そのまま横に薙ぐ。

が、剣が根元から折れた。

鱗や皮を切るのは無理のようだ。

「だったら、もう片方もっ!!」

今の一撃でアースヘッドの魔力の流れが乱れて防御が甘くなっていた。

バックパックから最初にいた街で買った幅広の小型の西洋剣。

スレッドショルドを出してもう片方の目にめがけて飛びあがり、突き立てるっ!!

「とったっ!!」

かに思われたが頭を振り回し、そのままの勢いで僕にぶつかる。

「・・・ぐがっ!!

ごほっ!!こなくそっ!!」

吹き飛ばされ、地面に叩きつけられたが先刻の一撃に比べればアリの一撃のようなものだ。

いや、言いすぎだけどね。

すぐに体制を立て直して、再度飛び上がる。

犬の本噛みレベルのダメージはありましたよ。


「今度こそとったっ!!」

ザクっとあっけない音を発てて、ずっぷりと吸い込まれるように突き刺さっていくスレッドショルド。

これで終わりだと。

一瞬気を抜いたのがまずかった。

「っ!?

超感覚かっ!?」

さらにはブレスの気配。

今は空中で回避不可能。

超感覚で聴覚か、嗅覚を強化して僕の位置を認識してブレスを放つつもりだっ!!

着地したところにちょうどぶち当たる10年来のバンドグループが織り成すオーケストラのような絶妙なタイミング。

「くっそたれがっ!!」

つい毒づくが今の手持ちはファルシオンのみ。

ショートソードがあれば無効化できたかもしれないが、刀身は敵の眼球内。

せめてもの抵抗にファルシオンを盾代わりに構えてそこで僕の意識は一度途絶えた。



☆ ☆ ☆

「ごぼはっ!!」

・・・どこだここは。

血反吐を吐いて、それをきっかけに意識を取り戻したようだが、あまり意味はなさそうだ。

体の感覚はほぼないと言っていい。

せいぜい、全身を包む内臓から焼き焦げていくような熱感くらいしか感覚がない。

霞む目を見開いて、軋む首をめぐらせて、今にも強制シャットダウンしそうな意識を力いっぱい手繰り寄せて”現状”を確認する。

場所は、古代遺跡の中。

玉座のような物のすぐ前で僕は倒れ伏せているようだ。

あのブレスは地下まで突き抜けて僕をこんなところまで押し込んだのだろう。

上を見上げると、ぽっかりと穴が開いている。

天井までは50メートルほどなので、あんな高さから無防備に落ちて生きているだけでも奇跡といえる。

右手にはファルシオン。

刀身は無く、原型をかろうじてとどめている柄があるのみ。

あの一撃を受けて生きているとは、幸運と言うべきか死ぬ苦しみが長引いただけというべきか。

女神の指輪様様だ。

今まですっかり忘れていたのは秘密である。


あたり一面光る苔。

ウェティッシュといったはずだが、それがびっちり生えていた。

ティアがいたあの空間にはちらほら群生してる場所があるという程度だったのだけど、ここは僕が倒れてるところ含めてびっちりと生え揃ってる。

一体ここはどこ?と思案をめぐらせるがそれよりも魔法薬のビトモンを飲むのが先決だ。

生まれたての子馬のように震える体を鞭打ち、体を起こす。

自分の体を見ると酷く酷く醜い様相となっていた。

左腕はひしゃげてまるでゾンビの腕のようだし、腹は皮膚や腹筋の一部までめくれ上がって内臓が少しはみ出ていた。

右足は大きな裂傷を伴い、左足は見た感じなんとも無いが、動かないところをみると内部の神経が切れているようだ。

右手も似たようなもので、指が開かない。

ひしゃげていても指は動く左腕を使ってビトモンを飲む。

とりあえず、血が止まり、動ける程度には回復したがあくまでも動ける程度だ。

すぐに死ぬレベルなのは変わりない。

「はぁ・・・油断したなぁ・・・」

1人ぼやくことしか出来ない。


「いつの間にか訳の分からない世界に来て、面倒な人助けをして、それが上手くいったからって調子に乗って、また助けてみた結果がこれか・・・

全くもって下らん人生だったな。うん。」


それでもそのことに後悔は無い。

自分自身くだらないと思いつつもどこかで満足していた節があった。

どこかで必要とされてることに喜びを感じていた。

自身の剣をふるえること。

命がけの戦い。

勝つ喜び。

そういった類の物も初めて理解し、喜びに震えた。

結局のところ僕はあの姉の弟なのだ。

盗賊といえど人間を殺した夜は眠れなった。

魔獣といえど、命を刈り取ることに抵抗がないわけではなかった。

あんな姉さんでもいないことに泣きそうになった夜もある。


なにが言いたいのか。

自分でもわかんなくなってきたが、とにかく一言だけ言える。

「・・・死にたくないなぁ。」


ああ。

わりといい人生だったかもしれない。

「人の真ん前で何をたそがれておる?」

「あ、すいません。

ちょっと死に間際だった物で・・・・」

「死にたくないなぁ・・・とか黄昏ながらいっとると、はっきりいって気持ちわるいのう。

というか滑稽じゃ。」

「こ・・滑稽っ!?

死に間際の人間相手にそんなこと言うのは良くないと・・・って誰?」


いきなりでなんだけど、僕の前。

玉座の前に裾の長い黒いドレスを纏う黒髪の女性が突っ立ていた。

黒いその髪は鎖骨あたりの位置で切りそろえてあり、瞳は何もかも飲み込むような黒い髪に対するように白い。

常識的に、人体の構造的に白い眼球というのは白内障にでもならない限りありえないのだが。

そして、その言葉遣いに反抗するように背が小さい。

女の子をみかけたという話のタネはこの人が原因だったんじゃないかと直感的に理解する。

「人に名を聞く時はまず自分からという”まなー”を知らんのか?」

「ご、ごめん。

えと・・・僕は・・」

「山瀬 響じゃろ?」

「知ってるのになぜ聞いたのっ!?」

「いや突っ込みどころはそこじゃないと思うのだが?」

「それもそうだね。

こんなところに君みたいな年端も行かない子供がいたら危ないよ。

お家に帰りなさい。」

「たわけが。」

「ぐはっ!?」

ビンタされた。


「じゃから・・・まぁよい。

わらわはフェロー。

結論から言うと闇人と呼ばれる存在じゃの。

ちなみに主らのことはずーっと見ておった。

じゃから名前もしっとる。」

「へぇ~。

それで・・・何か?」

「いやなに。

主が面白い物を持ってるでな。」

といってこちらの右腕を指すフェロー。

「え~っと。

確かに面白い崩れ方をしてるけどそれが何?」

ファルシオンの柄は確かに面白い形をしている。

「たわけが。」

「ぐひょっ!?」

またもやビンタされた。

というかこの子苦手。


「その黒い手袋のことを言うておる。」

「これ?」

こっちの世界にきてからというもの、脱衣不能なこの黒い手袋。

はっきり言って邪魔です。


「簡単に簡潔に言うとじゃ。

それは精霊契約が出来る唯一の魔具。

いや、神具と言っても良いじゃじゃろうな。」

「はぁ・・・」


なんか説明してくれてるのはありがたいのだが・・・いや、簡潔過ぎる上に新しい単語まで出ちゃって説明になってないけど。

そもそも今から死ぬような人間に説明しても意味が無いと思う。

「そこでじゃ。

高位精霊である妾が契約をしてやろうというのじゃ。」

「遠慮します。」

「たわけがぁっ!!」

「ぐはぁっ!!」

今までで一番痛いビンタだ。

殺す気かっ!!


「問題ない。ちょこっと触れるだけじゃ。

ちょっと先っぽが触れれば良いんじゃ。

ちょっとだけ特殊なやり方で触りあうだけでいいのじゃ。」

「なんかえっちい言い方でぶろっさむっ!?」

「た、たた、たわけが。

変な想像するではないっ!!

これじゃから、男という生き物は・・・」

またまたビンタ。

何?この顔を真っ赤かにしてる暴力自称高位精霊は。

死にますよ?

本当に死んじゃいます。

というか、その幼児体系で変な想像をしてしまうほど僕は特殊な性癖をしていない。


「たわけがっ!!」

「なぜにがふっ!?」

再度ビンタ。

泣いても良いですか?


「無礼な想像をしたじゃろ?」

「鋭いことで・・・それで・・契約とやらをしたら、何が起こるのさ。」

「おや?

気が変わったのか?

本当に良いのか?

後悔しても知らぬぞ?

妾の力は強大ゆえに・・・」

「じゃあいいです。」

「たわけがっ!」

「舐めるなっ!

たとえ満身創痍でもその程度のこうげぎぶっ!!」

一度ビンタを避けたらそのまま引き戻した手の平の甲側がぶち当たった。

この人本当になにがしたいのっ!?


「まぁ冗談はともかくとして。

た、単純にじゃのう・・・妾はここ100年ほど誰とも話してなくて・・・

そのう・・・昔はちらほら人が来てくれたのじゃが、単に永劫の話し相手が欲しいというかの?

そろそろいい年じゃし、婚約相手が・・・というわけではないが・・・そ、その・・・婚約相手とまではいかずとも・・・い、いや、もちろんさびしいとかそういうわけではないのじゃっ!!

そんな子供ではないっ!!

本当じゃぞっ!?」

顔を真っ赤にしてそんなことを言われも説得力の欠片もない。

さびしかったのか。

こんな場所にずーっといたら、そりゃ寂しいわな。

もじもじしながら、両手を遊ばせて・・・なんと可愛いしぐさだろうか。

ただその白い瞳には照れと同時にやはり寂しさも混じってる。

「わかった。わかった。

それで。

どうすりゃいいんだ?

というか僕、もうすぐ死ぬんだけど。」

「それなら大丈夫じゃ。

妾と契約すれば、主はほぼ人間を逸脱できるからのう。」

「は?」

「それではさっそく。

両者の合意が必要なのじゃが今言質はとった。

さぁこちらをむけい!!」

「ちょ、ちょっとおま、聞き捨てならんこむぅぅっ!?」

真ん前に顔が来る。

よってくる。

よる。

よる。

どんどんよる。

ちょっと!?

このままじゃキス・・・

と思いきや額と額をくっつけあう。

これが契約っ!?

確かに先っちょだけどもっ!!


少しありきたりになっちゃったかも?


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