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第12節 ドラゴントラブルⅣ

「それじゃぁ僕の作戦通りでかまわないね?」

「えと・・・私としてはありがたいけど・・・本当にいいの?

命の恩人にそこまで体を張ってもらうこともない。」

「はぁ・・・また主従そろって命の恩人だ、礼だと・・・まったくもってうっとうしい。

こんなところまで来た時点でそんなことはどうでも良いんだよ。

てか、リネティアさんが死んだら僕がここまで来た甲斐が無くなるじゃないか。」

「でも・・・」

「いいから。いいから。

どうしても礼がしたいってんなら感謝に思わないようにしてくれた方が僕にとってはとてもありがたいし。」

「・・・変人ね。」

そんなつもりはないのだけれど。

本当に礼がほしいという訳じゃないのだからどうしようもない。

むしろ礼だ何だと言われても、鬱陶しいだけである。

そもそもここが日本ならともかく、ゲームや漫画といった娯楽の少ないこの世界で欲しい物自体が無い。

だから礼だと言われても特別見返りに要求したいものが無いのである。

何より欲しい「安寧」もとい姉さんという化け物がいない世界に行きたいという願いはすでに叶えられてるしね。

上位竜種にしたって、姉さんと本気でやりあうよりはマシなのです。

もう・・姉さんがいないってのは・・・本当に幸せだ。

こっちに呼ばれて当初はそれこそ帰巣本能よろしく、家に帰りたかったが今となっては

強いて言うならお金だが、これに至っても特別誰かから貰わなければならないほど苦労するわけじゃない。


なんにせよ脱出の作戦は当初の予定通り、2人でかく乱しつつ木々を盾に戦線離脱。

これでいくことになる。

本当なら僕が1人で囮になっても良いのだが、そっちのほうが効率が良いし成功の確率が高いため、彼女がそれを望みでもしない限りこれにする方針だ。

仮に僕が1人で抑えるにしたってあの一体ですら引き止めれるか、微妙なところである。

また仮に僕が囮としての役割を演じきる前に僕が食べられる可能性というのももちろんあるのだ。

一度も戦った経験のない上位竜種なのでここは慎重に事を運ぶ。

作戦、というほど大仰なものではないが脱出は明日。

血を流しすぎたのか彼女の体力回復のために一晩休んでからとなる。



「り、リネティアさん?」

「ティアでいい。」

「あ、うん。

ティア・・・さん?」

「呼び捨てで。」

「そ、そう。ティア」

「ん。」

彼女は頷いた。

彼女の外見上、さん付けは違和感があったのでありがたい。

「ティアは僕の闇の覇王うんぬんっていう冗談に噂がどうのって言ってた気がするんだけど噂って何?」

「・・闇人の家という伝承を知ってる?」

「え~。とりあえず、名前とこのララバム遺跡が舞台になったということだけは。」

「そう。

それで十分。

闇人の家という伝承は、ここが今は居ないとされる闇人やみびとの都だったという話。

私たちの住む東大陸には数々の精霊が居るけど、その精霊の上位の存在が闇人と呼ばれてた存在で、彼ら精霊のもともとの住処はここだったそうよ。

なぜ滅びたのかは不明。

彼ら精霊の世代交代は約300年ごとだから、その精霊たちにも分からなくなるほどはるか昔に滅びたんでしょうね。

もちろん、なぜ西大陸から東大陸へと移り住んだのかも分からない。」

「ふぅ~ん。」

「それで、ここ自体は発光する苔の「ウェティッシュ」と発光する特殊な鉱石「ゼンベルゲン」を除いて大した物は無いとされていたわ。」

「確かに。

もうすでに荒らされてる感じだし。」

「ええ。大分前に苔とゼンベルゲンを除く金目のものは盗賊や山賊あたりに根こそぎ奪われていったんでしょうね。

残った苔はここ以外では育たない特殊なものらしいし。ゼンベルゲンはここしかないと言う訳ではないから。」


なんだ。苔はここ以外では育たないのか。

少し採取していこうと思ったのだけど残念だ。

「とはいえ、盗賊や山賊にとってここはいいところなの。

何も無いけど、何も無いからこそ誰も来ない。

犯罪者などの表を堂々と歩けない人種にとっての拠点に向いてるってこと。」

「なるほど。

それで、その賊軍の人からなにやら噂がということか?」

「そうなる。

ここに一番近いルベルークが山賊たちの標的になってたのだけど、それを見かねたルベルークの魔王が大規模な討伐隊を結成。

踏み込もうとした翌日。

1人の山賊が街外れで行き倒れていたそうよ。

そして、彼は重症でそのまま息を引き取った。

その彼の死ぬ間際の一言が”闇の・・・闇人が現れて俺たちを食っちまった”って話。

それ以来

あそこには闇人の生き残りが居るんじゃないか?とか闇人の王家の封印がなんたらって感じに上手い具合に尾ひれや背びれが付いて出来た根も葉もない噂が”闇人の王がいる”となったの。」

「なるほど・・・。

本当に悪かったです。」

「別に良い。」


まさか僕の思いつきの冗談に似たり寄ったりな話がすでにあるとは・・・嘘をついたら、それが本当のことになってしまった時を思い出す。

あれは中学3年のころだろうか。

姉さんによる稽古と言う名の公開処刑をサボりたくてサボりたくて僕は嘘を付いた。

その嘘が「ね、姉さん。僕はちょっとそれよりも大事なことが・・・」という嘘をついた。

もちろんそんなものないし、そんな予定も無い。

「何?

ゲームやりたいとかは却下よ。」

そんなことは分かっている。

「実はにとりが病気になっちゃって・・・病院に。」

「うぅぅむ。

まぁ仕方ないか。

早く連れてってあげなさい。」

このときの姉さんに不覚にも感動してしまったものだが、とにかくこれでにとりを病院に連れて行くことが決まった。

実際はにとりを簡単な水槽に入れて、姉さんや母さんが通らないようなちょっと遠目の公園で時間を潰そうという魂胆だったが、実際ににとりが病気になってしまったのである。

なにやらぐったりしていて元気が無かった。

というか、その兆しはあったのだがちょっとした不調だと思っていたのだ。

病状はクル病。ないしはビタミンD3不足。

このときは日光浴はただ体を温めるだけのもの。と考えていた僕だったが亀にとっての日光浴は体温を上げるだけではなく、紫外線を受けてビタミンD3を体内で精製することが一番大事なのである。

紫外線は窓越しだと吸収されてしまい、必要量が確保できないらしく外での日光浴が・・・うんぬんの豆知識はおいておく。

とにかく亀の見れる動物病院を探し出し、急いで連れて行ったのだ。

飼育本をしっかり読むように注意されたが、にとり自体はその後に回復へむかい、大事はなかった。

嘘をついて稽古を逃げ出そうとしたことは何回もあり、そのたびに嘘がばれるか本当になって余計に厄介になっていたため、これを機に「僕は稽古を受ける運命なんだな」と気づきそれ以来悲しい覚悟を決めたものである。


「どうしたの?

なにかたそがれてるけど?」

「別に・・・なんでもないよ。」


その後、他愛の無い話をして就寝して明日に備えた。



☆ ☆ ☆

早朝。

ドラゴンが爬虫類と同じ変温動物ならば気温の上がりきってない早朝の方が良いということで、早朝、出口付近にスタンバイした。

「そういえば、ここにはもともと女の子を捜しにきたんだよね?」

「ええ。

念のためセリアお嬢様かもと思って探しに来たのだけど・・・女の子どころか人がいたという形跡すら無かった。

ガセネタつかまされたのかな?」

「まぁ・・・だろうね。

そもそも何しにきたって話しだし。」

「いらつく・・・。

・・・準備はいいの?」

「万全。

そうだ。ビトモンはティアが持ってるといい。」

「私だって近接戦闘タイプよ。

あまり舐めないで。」

「まぁまぁ。残り三つのうち二つあげる。

装備的に僕は一つで十分。

まだ完全に治ってないでしょ?」

「大丈夫。

もともと自前の魔法薬があるし。

重症以外なら効果がある。」

「その重症を受けたときのためだよ。

はい。」

無理やり持たせる。

僕は姉さん以外が相手なら死ぬほどの怪我は負わない自身があるからね。


「・・・しょうがない。

貰ってあげる。」

彼女はこんなことで言いあいするのもバカバカしいと思ったのだろう。

渋々といった具合で自分のバックパックに入れる。

「じゃぁ、行くよっ!!」

「聖なる戦乙女の女神よ

我の体にささやかな加護を与えたまえ

ヴァルキリーアーマーッ!!」


ティアのヴァルキリーアーマーは身体能力を数倍にする奇跡らしい。

彼女の技量では10倍が限界で、それも持続時間は数秒というレベルだ。

優秀な聖者(奇跡を専門的に扱う職業のこと)でも4~5倍が限度だというから数秒とはいえ10倍は驚異的なものといえる。

出口から一気に出て、周囲の気配を確認。

中からうかがったとおり、アースヘッドは一体のみ。

これならすぐに逃げ切れる。

「ふっ!!」

瞬時に近くに行き、後から出てきた彼女から注意をそらす。

そして攻撃を与えぬまま、そのままジャングルの茂みへ。

木々が繁茂していることにこれほどの感謝をすることになるとは・・・邪魔とかいって申し訳ない。

彼女もそのままジャングルと化した木々に向かうが、そこは上位竜種。

そんなに上手くいくはずが無かった。

僕は彼ら上位の力を見くびっていたのだ。


アースヘッドの体から霊力に酷似した流れが見えた。

「超感覚を使う気かっ!?」

「グルルルッルルルラァアァァァァァァァァァッ!!」

雄たけびを上げながら僕の方へ来るアースヘッド。

その巨体からしてありえない速度で突っ込んできた。

超感覚による奇跡で筋肉の性能を引き上げたらしい。

というか、予想外すぎるスピードだ。

特急車の2.5倍くらい。

僕にとっては問題ないが。

すぐにかわして後ろから接近。

とりあえずファルシオンできりつけた。


「ちっ!!

やっぱり堅いっ!!

てか、堅すぎだろっ!?」

バルバトに比べた体感比では約10倍。

もちろん加減など考えない全力の斬撃であることはいうまでもない。

それが簡単に弾かれる。


振り向いたアースヘッドの口腔内からかなり強い魔力の流れが見えた。

ブレスとやらを使う気だ。

「チィっ!!」

瞬時に射線からずれる。

同時に極太の黒いレーザービームが脇をすり抜けて言った。


木々をなぎ倒し、はるか遠くまで飛んでいく黒い軌跡。

射程距離は約50メートル。

レーザーの太さは約1メートル50センチ。

恐ろしいまでの殺戮兵器である。

てっきり、ブレスは炎的な動きをするものだと思っていたのだが、それよりもはるかに厄介だ。

なんせ早い。直線的で避け易いというデメリットをなくすほどに早い。

魔力の流れという予備動作から発射されるまで約1秒。

射速は気づいたら過ぎ去っていたというレベル。

恐ろしすぎる技だ。

魔力の流れを視認して、避けていなければ直撃コースだった。

大抵の人は感じるんだろうが、魔眼とやらを持つらしい僕は視認である。

便利な能力だ。


「とにかく・・・逃げるが勝ちだ。」


こんな化け物と戦う余裕も技量も無い。

というわけでかく乱に集中するのだが、1分、2分、3分と時間がかかっても先ほどの場所から殆ど動いていない。

というより動かせてもらえないのだ。

このアースヘッドとやら、やけに戦いなれてるらしく僕たちを逃がさないように上手くけん制をして立ち回る。

本当に頭の回る魔獣だ。

僕とティアのお互いに対する気遣いのせいもある。

というか、これが一番の理由だ。

「しょうがない。

ここからは僕1人で注意を引くよ。

ティアは先に逃げて。」

「な、なっ!?

い、いえ・・・だけど・・・」

「あ~・・・そういう漫画にありがちなリアクションは良いから。

ティアはセリアの護衛役でしょ?

セリアのためにも死ねないでしょうに。

ただそれだけ。

そして、僕には奥の手があるからね。」

「確かに死ねないけど・・・お、奥の手?」

「そう、ベリルから聞かなかった?

僕は勇者として召喚されたって。」

「か、簡単な経緯は聞いた。」

「その勇者のみに伝わる必殺技があるのさ。

ただ、周りの人を巻き込みかねないから、使えない。

というわけで、生き残るためにも先に逃げて。

それだけに集中して。

いいね。」

「わ、わかった・・・そういうことなら・・・」

「そのまま、ロロリエに向かって彼女たちと先に戻ると良いよ。

ベリルが急ぎの用事とか言ってたし。」

「そ、そう・・・ありがたいわ。」


言わずもがな、奥の手なんてのは真っ赤な嘘なのだが。

とにかくあっても無くても今の状況ではお互いに動きづらいので、やむをえない。

別れた方がまだ良いという判断のもと、行動を開始する。

逃げやすいように、ここでもオリジナル技を披露目といこう。

「ふっ!!」


瞬時に僕が分身する技。

”陽炎”である。

言わずもがな本当に分身するわけではない。

霊力や魔力といったものがあるこの世界では本物の分身ができる人もいるかもしれないが、すくなくとも僕のは違う。

プラスチック製の定規の片側を持って、片側に力を込めて曲げる。

片側を離した時の反動で定規が二つに分裂してるかのように見える。

これを人体で行った目の錯覚を利用した技が陽炎だ。

もちろん日本にいた頃は、体がぶれる様に見せて、せいぜい2~3センチほど目標を見誤らせるというのが質量的にも物理的にも限界だったが、こっちにきてからというもの身体能力が2~3倍は上がっている。

だからこそ完全に分身したように見せれた陽炎・改・・・・とでも呼ぼう。

アースヘッドはおもむろに惑わされていた。

いいざまである。

もちろん、この技を編み出したのは姉さんから斬られたくないという思いゆえの努力の技であって、決して才能ではないといっておこう。

そして、これを見せた瞬間に見て覚えた姉さんこそ天才だ。

僕がコレを会得するまでにどれだけの・・・どれだけのぉぉおおおおおおおおおっ!!

労力と時間と汗と執念を割いたか・・・次の瞬間に技を見破られるどころか、コピーされた僕の立場はなんなんだろうと思った苦い思い出しか無い技である。

などと苦い思い出に浸っているとすでにティアは逃げ出したらしく、あとは僕が逃げるだけとなった。

動物豆知識

爬虫類には昼間に行動する昼行性の者と夜行性の者がいます。

ミドリガメは前者。

前者は日光浴を必要とし、後者は必要としません。

また、日光に含まれる紫外線にも種類があり、大まかに分けて二種。

重要視されるのが二種と言い換えましょうか。

そのうちの一つ。

ビタミンD3を生成するのに必要な紫外線がガラスに吸収されてしまうのです。

ビタミンD3はカルシウムと連結して丈夫な骨を作るのに必要な大切なビタミン。

それがないとカルシウムを骨にできないので、山瀬 響の飼う「にとり」はクル病となったわけです。

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