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第11節 ドラゴントラブルⅢ

魔獣を遠ざけるための焚き火だろうか?

あの黒い人形には通じそうに無いのだが。

「誰・・・?」

僕の気配に気づいたのか、女の人の声がする。

「ククク我はここに住まう闇の覇王!

貴様らを滅ぼしにきたわっ!!」


ちょっとふざけてみた。


「っ!?

は、はおう!?

うわさは本当!?」

声の具合からしてかなり辛そうである。

もとい、こちらに襲い掛かかってくる女性。

先手必勝しかないと思ったのかな。

「うぉっ!?

ちょ、ちょっとまって、冗談だってばっ!!」


ギャリンッ!!

瞬時にファルシオンを構えて彼女のロングソードを受け流す僕。

ファルシオンなんかでロングソードみたいなゴツイ剣を受けたら即壊れる。

危なかったです、はい。


「じょ、じょうだんっ!?

・・・!?・・えと?」

混乱してますね。

ごめんなさい。ちょっとふざけてみたというか、ここにくるまで結構怖かったせいで人と会えた事が嬉しいというか、それは言い訳にしかならないし数日こんなところに篭ってる怪我人相手にすることではない酷い事なので。

とどのつまり、ごめんなさい。


「ご、ごめんなさい。えと、救出に来たヒビキって者なのですが・・・

ベリルから聞いてない?」

「ベリルから・・あなたが・・・そうなの?」

「まぁ一応。

今のはちょっとふざけてみたというか・・・怪我人相手にすることじゃなかったね。

めちゃくちゃ反省してます。」


すっごい胡散臭そうな目でこちらをみる彼女。

第一印象からして最悪ってことだね、これは。

今のやり取り的にこの人がリネティアさんで間違いない。

見た目もベリルから聞いた、赤髪で身長は140センチほど。

細く、黒のゴスロリファッションでロングソードを武器とするという特徴に合致する。

そして、その目立つ赤髪とは裏腹に気弱そうな瞳が印象に残る。

いまさらだが、体の節々が擦り傷だらけで脇腹からドバドバと血が出てた跡があり、今は止まってるみたいだが僕はなんと不謹慎なおふざけをしてしまったのだろうか?

実に申し訳ないことであった。

誰が見ても重傷なのであるからして。


「そ、そう・・・来てしまったのね。」

助けが来たゆえに気が抜けたのか、わざわざこんな場所まで1人のほっとけば死ぬような人間相手に滅ぼしに来る覇王なんてものは居ないと考えたのか・・・十中八九後者だろうが、彼女はそのまま気絶してしまった。


「うぉっと!?」

すぐに抱きかかえ、地面に倒れこむのを防ぐ。

なんか甘い香りがしてこんな時でもドキッとした自分に多少の呆れを感じつつ。

焚き火の近くまで行って寝かせることにした。

そのまま起きるのを待つつもりだったのだが、僕の服やところどころの鎧部分に思い切り血がグッチョリと付いている。

どうやら、今の一連の行動で傷口が開いたらしく彼女の脇腹を見るともう大量に鮮血が流れ出ていた。

「ちょ、ちょ!?

これって僕のせいで殺しちゃうことになるっ!?」


さっきのおふざけは本当に猛省ものだ。

こういう状況では二度としないでおこう。

「お、おいっ!?

起きれるか!?

というかコレを飲んでくれ!!」

ベリルから渡されたビトモンを差し出すが、意識が戻らず血色も引いていく。


「や、やばっ!?」

めっちゃピンチである。

ピンチ過ぎる。

いったいどうすればと頭をフル回転させるが、いかんせん頭が良いというわけではないので何も思いつかない。

脇腹の部分を何かで絞めたところで、なんの意味も成さないだろうし回復魔術的な者も使えない。

本当に剣を振るう位しか取り得が無い自分に苛立ちを覚えるが、魔法薬も自力では飲めそうにない。

となれば人工呼吸の要領で飲ませるしかない、わけ、だが。

うむ。


「ど、どうすれば・・・」

はっきり言えば人命救助といえども唇をつけることには抵抗がある。

嫌というわけではなく、やっぱりこういうのは好きな人とが・・・とも言っていられず。

なんせこの状況は僕の引き起こしたことであり、100パーセント僕のせいである。

なおかつ、彼女は年頃の女の子だ。

命が懸かってるにせよ、そういったことに対する抵抗は男の僕以上にあるはず。

意識を取り戻してからきっとその事実にかなりの愕然とした思いを抱くはずで、助けられた手前文句も言えないという葛藤で非常にストレスフルな心境になるはずだ。

もちろん僕のせいであるゆえに怒られるかもしれないし、下手したら殺されるかもしれない。

そこまではさすがにいかないだろうが、乙女の純潔を奪った報いとして仮に本当に殺されたとしても好きでもない男とき、きき、キス的なことをしたという事実が消えるわけもなく。

本当に申し訳ないです。はい。

とはいえ、このまま死なれてはそれもそれで非常にまずいので、やむをえない。

こんなところまで来た意味すらなくなるし、死ぬよりは多分マシだろう。

でも、穢されたっ!!もうお嫁にいけないっ!!と言って自害されたら・・・どうしよう。

今さっきの僕を殴り殺したいっ!!

「どうか神様。

せめてもの情けで彼女に薬を飲める体力を差し上げてくださいっ!!」


もちろんそんな都合の良い神頼みが成就されるはずもない。

神様という存在がこんなときに居てくれたらとどんなに願ったか。


などなどを考えながら、気道を確保して口移しで無理やり薬を流し込むのであった。



☆ ☆ ☆

結果的に言うなら、彼女は助かった。

ただ、手持ちのビトモン全てを使うわけにもいかず、二つまでである。

(ビンの表面に「どんな大怪我でも一日二つまで」という注意書きがあった。)

もとい二回口移しで・・・ふ;ljほjlhljhlひlっひっ!!?

わ、忘れようっ!!

忘れるのだっ!!

忘れ去れっ!!

忘れ去ってしまえば良いのさっ!!

そして、僕なんて死ねば良いっ!!

死ねば良いんだっ!!

死ね死ね死ね死ね死ね死ねっ!!

シンデシマエーッ!!

ふはははははははははははははははははははっ!!

やばいっ!!

自己嫌悪で死にそうだっ!!

死にたくなってきたっ!!

まずいっ!!

こんなところで自害するわけには行かないっ!!

今は顔色良く、僕の膝枕でぐっすり眠ってる彼女を1人残して死んだら、彼女自身色々わけがわからなくなるだろう。

もちろん彼女の近くではなく目立たない場所でひっそり自刃しようと思うが、もし見つかったら「なんでこの人助けにきといて自殺しちゃっての?気持ち悪い。」と言われる凄まじくヘタレな人生の終わりを告げることになる。

それはちょっとというか、なによりも遠慮したいし、「なんで死んだのよっ!!どうせ死ぬなら私に殺させなさいよっ!!」と鬼の形相で僕を憎み続けてその先、生きていくかもしれない。

どうせ命を捨てるのなら彼女の刃にかかるのが筋だろうと考え、化け物染みてた異常者の姉さんや親ばかで僕なんて居ないことのように扱った父さん。そして僕が稽古と言う名の姉さんの試合ならぬ死合をさせられて「あら?楽しそうね」の一言の感想しかないある意味一番破綻してる母さん。

家族の顔が頭に思い浮かぶ。

そんな家族よりも一番強く頭に残ってるのはミドリガメの「にとり」の姿。

毎回、僕が水槽の前にいくとワタワタと焦りながら寄ってくるにとりのあの仕草。

そして僕が餌をやるとパクパクと焦って食べ始めた時のあの子の笑顔。

もちろん人間とは違って顔に筋肉のない亀が笑顔になるわけないのだが、飼い主である僕にはわかる。

あれは笑っていたと!

僕の家族愛と呼ばれる類の愛情は全てにとりに向かっているといっても過言ではない。

最後ににとりの姿を拝み・・・ついでにセ、セリアの顔も思い浮かぶ。

なんとなくセリアの顔を思い出して気恥ずかしい。

走馬灯ってこういうことを言うのかな。


「ぅぅん・・・ここは・・・っ!?

ご、ごめんなさいっ!

えと、膝枕なんて・・・初めて・・・」

膝枕されるのが恥ずかしいのか、意識を取り戻してすぐにあわてて起き上がるリネティアさん。

最後の方は良く聞き取れないが、とにかく本題に入る。


「起きた?

体調は大丈夫そうだね。

起きて早々悪いけど、僕はすでに切腹の覚悟はできているよ。

君にとっては憎い憎いゴミムシである僕だけど、できれば介錯をお願いしたい。

そんな楽な死に方させたくない・・・というなら君の言う方法で自害しよう。

ご、拷問は勘弁してほしいけど・・・やむをえないよね。うん。

それも覚悟キメマス・・・。」


男たるもの覚悟を決めるときには決めるのさ。

にとり・・・嫁さん探してやれなくてごめんよ。

家のスペース的にもう一匹ミドリガメを飼うことはできなんだ。

いつかあんな家を出て、お前さんの嫁さんを探してやるつもりだったけど、それも土台無理な話。

せいぜい達者で暮らしてくれ。

我が家の面子的に難しそうだが。

ちなみに死に装束として常にバックパックに入れてあるイチゴ柄パジャマを着用している。

ふ。相棒よ。僕の血で汚してしまうことになるが死ぬその時まで一緒に居てくれ。

笑ってくれるなよ。

お前がいなきゃ足が震えていまにも逃げ出したくなっちまう僕だが、お前がいてくれるからここに居られるっ!!

ふふふ。まったく僕って奴は情けない奴だ。

「そんなことねぇよ!

俺はお前のパジャマで幸せだった。」

「そうか・・・ありがとう・・・ぐず。」

「なくんじゃねぇ!

男なら死ぬその時まで胸はって生きろっ!

それが男の粋ってもんさっ!!」

「あいぼう・・・ああっ!!

そのとおりだっ!!」

くそっ!

こんなことなら最高級のクリーニング屋さんと名高い「貴族の嗜み」でクリーニングしておけばよかったぜっ!!


「あの・・・1人で何を喋ってるの?

1人・・芝居?」

「ふ。相棒と喋ってたのさ!

決戦前の別れってやつかな・・・」

「あの・・・その・・・気持ち悪い・・・」


何が気持ち悪いものか。

目の前のリネティアさんには分からないんだろうな。

僕は単に我が生涯の相棒である、イチゴ柄パジャマとの会話を楽しんでただけだってのに。

イチゴ柄パジャマの言葉を僕が代弁してたから勘違いされちゃったかな?

決して大きな独り言ではない。

演劇の稽古でもない。

それだけは言っておこう。


「さぁ!!

ヤってくれ!!

僕に未練は無い!!」

「は、はい?」


どうやら意識を取り戻したばかりでいまいち状況が理解できてないらしい。

リネティアさんにはどうしてこんなことを僕が言ってるのか全く分かってないらしい。

まぁ気絶していたのだから仕方ないといえば仕方ないが。

事情を説明すると、リネティアさんは顔を真っ赤にしてプルプル震え始めた。

右手の人差し指は唇を触れていて、その手も震えている。

わかっているさ。

怒り心頭ってことなのだ。

ここまで乙女心を理解してるナイスガイは僕以外には10人としていまい。

「わ、私としては別にそれくらいは・・・

せ、責任とって、とも言う気はないし・・・そもそもあなたが来てくれなければ死んでた。

だから、そ、その・・・」

「え?

いや・・・その・・・遠慮しなくていいんでございますよ?」


予想外の返答に驚いた。

きっと初対面の相手に遠慮しているのだ。

なんていい子なんだろう。

目の前の男のせいでキ、キ、キス的なことをされたというのに許す気で居る。

本当に良い子だ。


「あの・・・話を聞いてる?」

「聞いてる。

内心、殺したくてしかたない僕を・・・そんな風に許すなんて。

本当・・・すいません。」

「・・・聞いてない。」


呆れたような目を向けてくる彼女。

しょうがないと諦めが付いたのだろうか?

「・・・そ、それに君くらい可愛ければ彼氏くらいいるよね?

その人にも、・・・・申し訳ないです。」

「あ、い、いえ・・・あれが初めて・・・じゃなくてっ!!

人命救助だからアレはカウントに入らないっ!!

でもなくてっ!!

とにかく忘れてよっ!!バカっ!!」


忘れてというなら忘れよう。

きっと彼女もすぐにでも記憶の奥底に封印したいだろうし。

「わ、わかったよ。」

「そ、それでいいの。」


などなどのやりとりを終え、僕たちはここからの脱出に挑むのである。

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