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超短編集(怖)

俺がハロウィンで仮装をしない理由

作者: M
掲載日:2026/10/31

 俺達は電車を降りて、すぐにコインロッカーに向かったんだ。


 早速カバンから仮装を取り出し、着替え始めた。

 俺は狼男のマスクを被り、ボロボロのジージャンを羽織った。

 後輩はカボチャのマスクと黒いマントを身に着けた。

 二人のカバンを一つのロッカーに押し込み、街へと繰り出した。


「いつもと雰囲気違わないっすか?」


 後輩はキョロキョロと辺りを見回した。


「当たり前だ。ハロウィンだぞ」

「そりゃあそうっすけど……」

「楽しまなきゃ。ほら、飲め飲め」


 買ってきたビールを二人で一気に飲み干した。


「さすが、ハロウィンの聖地。みんなが仮装してるじゃないか」


 スクランブル交差点を歩く人達は、ゾンビやドラキュラ、白いシーツみたいな幽霊など、思い思いの格好をしていた。


「土曜の夜だから、浮かれてるんっすかね?」

「今年はアニメキャラとか特撮ヒーローのコスプレがいないなぁ」

「そうっすね」


 酒がイイ感じに回り始め、俺は上機嫌になってきた。

 信号待ちで、隣に立つドラキュラに声を掛けた。


「イェーイ」


 俺はハイタッチを求めて、手を上げた。


「ッチ……」


 舌打ちをして行ってしまった。

 ノリの悪いやつだ。


 彼だけじゃない。他の奴らも、日常の延長線のようだ。

 ハロウィンなのに、街は静かで落ち着いた雰囲気。

 なんのために仮装しているんだ。はしゃぐためだろうが。


「つまんねえハロウィンだな」


 俺達はウロウロとしながら、路地裏の方まで歩いていった。

 この辺の酒場なら、楽しんでいる奴もいるはずだ。

 案の定、テラス席でビールを呷っている奴がいた。


「お、あいつもハロウィンカボチャ被ってるぞ」

「なんか変じゃないっすか?」

「知るか」


 俺は後輩を引きずって、そいつの前に立った。

 妙に線の細いやつだったが、飲みっぷりは一人前だった。


「一緒に飲もうぜ」


 狼男とカボチャ頭二人で、楽しく酒を飲み、大いに語り合った。夜中までしこたま飲んで、終電で家まで帰ってきた。


「まあまあ楽しめたな」

「……」


 後輩は飲み過ぎて、足元が覚束なかった。

 カボチャを被ったままの後輩をベッドに寝かせて、俺はソファに横になった。

 狼男のマスクを外すと、すぐに眠り込んだ。


 翌朝。

 目を覚ますと、テレビがついていた。昨日の街の様子を映したニュースが流れていた。


「俺らが行ったとこじゃないか。どこかに映ってないかな」

『……のハロウィンでしたが、自治体の事前案内と警察の誘導もあり、目立った混乱はありませんでした』


 ニュースの映像には、仮装している人はまばらにしか映っていなかった。


「なんか……昨日と違うぞ」


 俺は、ベッドの上の後輩を揺すった。


「おい、起きろ。ニュースがおかしいんだ」


 後輩はいびきをかき、目を覚ます様子がなかった。


「まだカボチャ被ってんのかよ」


 俺は後輩のマスクに手をかけた。

 が、外そうとしても外れなかった。

 カボチャ頭はマスクじゃなかった。首の付け根で一体化していたのだ。


「う……」


 俺は叫び声を飲み込んだ。

 ここで大きな声を出したら、こいつ(・・・)が目覚めるかもしれなかった。


 俺は、こいつを後輩と間違えて連れてきてしまったのか。

 じゃあ後輩はどこだ?

 俺はスマホを取り出して、後輩に連絡した。

 ベッドの上からヴーンという振動音が聞こえてきて、慌てて電話を切った。


 俺は財布を掴んで、静かに家を出た。

 逃げたわけじゃない。本物の後輩を探しに出たのだ。


 とりあえず電車に乗った。

 俺達が飲んでいた店に行けば、何か分かるかもしれないと考えた。

 後輩はどこに行ったのか。

 昨夜の俺達が歩いた街はなんだったのか。

 あいつは一体なんなのか。

 いつもより、電車に乗っている時間が長く感じた。


 電車を降り、あの路地裏へと向かった。

 が、飲んでいたはずの店はそこに無かった。

 窓越しに見えたのは、何もない空間とテナント募集の張り紙だけだった。


「夢でも見てたのか?」


 何が何だか分からなくなり始めた。

 交番にも行ってみたが、友人からは捜索願が出せないと門前払いをされてしまった。

 必死に説明したのに、ただただ無駄足だった。

 俺は何度も往復した交差点で、信号が変わるのを待っていた。


「そうだ、カバン」


 ロッカーにカバンを預けっぱなしだったことを思い出した。


「確かこの辺のはず」


 ロッカーにICカードをかざすと、カチリと扉が開いた。

 中には、俺達のカバンが入っていた。

 少しホッとした。

 さすがに昨日のこと全てが夢ではなさそうだ。


 後輩のカバンを引っ張り出すと、何かが溢れ落ちた。

 

「うわぁ!」


 後輩の顔だ。生首が転がって行った。

 その目が、ちょうどこちらを向いて止まった。


「ぎゃあああぁぁぁぁ…………、あれ? マスク?」


 それは作り物のマスクだった。よく見なくてもすぐ分かる程度の出来の悪いマスク。


 叫んで損した。

 街を歩く人からの視線が痛かった。

 俺は、慌ててマスクを拾ってカバンに突っ込んだ。


「なんで、自分の顔のマスクなんて作ったんだ」


 後輩を恨むが、その後輩がどこにいるか分からない。

 俺にはどうしようもなかった。

 もう、あいつ(・・・)しか手掛かりはなかった。

 俺は意を決して、家に戻った。


 あいつはまだベッドの上で寝ていた。

 俺が家を出てから数分も経っていないかのようだ。


 もう一度首元を確認した。

 やっぱり、このカボチャは本物の頭だ。

 夢じゃない。

 じゃあ、なんだこの怪物は。


「呑気に寝やがって」


 こいつのせいで俺は苦労したんだ。

 いろいろ歩き回ったせいもあるが、それ以上にひどく疲れた。

 ソファに座ると、肘の下に後輩のカバンが当たった。


 ふと思い付いた。

 カバンから後輩の顔のマスクを取り出し、カボチャ頭の上から被せてやった。

 マスクの方が小さいはずなのに、ピッタリとフィットしていった。

 それはもう後輩の寝顔だった。


「ん……先輩?」


 まぶたが揺れ、そいつは目覚めた。

 俺はベッドから距離を取った。

 全身に鳥肌が立ち、妙に汗ばんできた。


「ああ、すっかり寝てしまってたッス。先輩の家なのにすみません」


 そいつは、まるで後輩のように、俺を俺だと認識していた。


「あぁ」


 声が声にならない。そう答えるのがやっとだった。

 いつもの後輩と同じ喋り方なのに、違和感が拭えなかった。


「もうこんな時間か。もう帰るッス。ありがとうございました」


 そいつは後輩のスマホとカバンを掴むと、玄関へと向かった。

 俺はその場から動かず、視線だけでそいつを見送った。

 そいつは外に出て、ドアを閉めながらこちらを覗き込んだ。


「昨日は楽しかったッス。また来年もハロウィン行きましょうね、絶対(・・)に」


 最後の言葉の強さに、俺は息を呑んだ。

 ガシャンと音を立ててドアが閉まった。


 緊張の糸が切れ、その場にへたり込んだ。

 俺はスマホを取り出し、メッセージアプリを起動すると、後輩のアカウントをブロックした。



「去年そういうことがあってね。だから、俺はハロウィンで仮装をしない」


 俺の話を聞いていた彼女が、悪戯っぽく笑う。


「それ、どこまでがホントの話? ただ、仮装したくないための言い訳でしょ〜?」

「そういうことにしておいてくれ」


 最近付き合い始めた彼女は、イベント好きだ。

 ハロウィンに限ってノリの悪い俺を、彼女はジト目で睨んでくる。


「せっかく私とペアの仮装持ってきたんだから、ちょっとでいいから着てみてよ」


 そう言って彼女が取り出したカバンには見覚えがあった。


「それ、後輩のと同じカバン……」


 口の中が一気にカラカラになる。

 視線がカバンに固定され、動けなくなる。


「これだよ」


 彼女がカバンから取り出したのは、あのカボチャ頭のマスクだった。


 去年の話をしたのは、今日が初めてだ。前もって準備できるはずがない。

 偶然……

 にしては、出来すぎている。


 彼女の笑顔が、なにか貼り付いたような偽物に見えてきた。

 彼女は、またカバンに手を入れる。


「そしてもう一つ」


 出てきたのは、俺の顔のマスクだった。

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― 新着の感想 ―
アニメキャラや特撮ヒーローといった現代的な仮装をした人々がおらず、行き交うのはゾンビや吸血鬼ドラキュラといった古典的なモンスターたちばかり。 そういえば視点人物である先輩は、冒頭でそんな違和感を覚えて…
ミイラ取りがミイラ…。「ノリ」が悪いね、語り手先輩さん。 元々は、日本のお盆の様に死者が現世に帰ってくる期間だから「死者」と同じ姿になることで身を守る術だった、北欧ハロウィンの仮装。 それがいつしか…
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