第9話 分身スキルに隠された謎(最強)
一方その頃、グラウエルの奥地から10キロほど離れた森の中。
ゲルツ男爵領の冒険者ギルドに所属するDランク冒険者パーティ、マルクスたち4人は、ゴブリン討伐の帰りだった。
「あー、だりぃ。こんな辺境まで来て、報酬がこれかよ。やってらんねぇぜ」
「仕方ないでしょ~?私たちDランク程度じゃこのくらいの依頼しかできないんだから」
「そうですよ。ゴブリン相手でも下手したらやられちゃうんですから…」
「それにしても本当になにもないですね、この辺りは」
戦士のマルクスをリーダーに、魔導士のユリア、神官のマリー、タンクのゴードンとバランスの取れたパーティだ。
マルクスはポケットの中からクシャクシャに丸まった依頼書を広げた。銀貨15枚。4人で割れば酒代にもならない。
「だー…疲れた!さっさと街に帰って、風呂でも入ろうぜ!腹も減ってき—— は?」
ふと空を見上げると、"何か"が飛んでいる。
でかい。めちゃくちゃでかい。
「どうしたの?マルクス」
一同は足を止めた。
「おおお、おい、なんだアレは…?」
マルクスが震えながら空を指差す。
目を擦った。見間違いじゃない。
「「「ド…ドラゴン!?!?!」」」
腰が抜けて上手く立ち上がれない。
Dランクの自分たちじゃ、逆立ちしても勝てない相手だ。Aランクパーティーでも討伐は困難。Sランクが複数いないと話にならない。まさに厄災である。
「や、やべえ……!」
「お、おい!どうする?」
「終わりましたわ…」
「リーダー!しっかりしてよね!」
「わかってる!!」
全員震えている。マルクスも同じだ。
逃げるか? いや、逃げ切れるわけがない。
木の陰に隠れて、じっと息を殺す。
——その時。
ドガァァアアアン!!!!!
凄まじい轟音と共に爆炎が広がり、ドラゴンが真っ逆さまに落ちていった。
「おい…なんか降りていくぞ…」
グラウエルの方だ。
爆発が何度も起きた。炎が空を舞った。人が——ドラゴンにくっついていた。何人も。同じ顔の。
あの廃れた地に、何があるっていうんだ?
恐る恐る、マルクスたちDランクパーティはドラゴンの後を追った。
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グラウエルの森の奥。温泉のすぐ近く。
ズドォォォォン!!!!
ドラゴンが、地面に墜落した。
地響きが全身を揺らす。土煙が舞い上がる。
翼をほとんど失ったドラゴンが、地面でもがいている。
「ふひぃーーっ!堕ちだぞォ!!おばえだぢィー!全員でごいじゅを縛り上げろォ!!」
俺は拳を振り上げた。
「「「「ヒャッハーーー!!!」」」」
ダリオたちが一斉に飛び出す。
「ユーヤ様~、もう少しですね!私も行ってきますぅ~!」
リーシャが俺の頭から手を離した。
黒紫の光が——消える。
「……???」
頭が、少しずつクリアになっていく。
……あれ、俺、今なにして……
「首から抑えましょう~!!」
リーシャが縄を手に意気揚々走る。
オルファも、使徒たちも——全員がドラゴンに向かっていく。
「足も押さえろ!!」
「翼の付け根だ!!動かせないようにしろ!!」
縄が次々とドラゴンに巻きついていく。
ドラゴンが暴れる。首を振る。尻尾を振り回す。
「ぐはぁっ!!」
ダリオが尻尾で吹っ飛ばされた。
「ダリオの兄貴!!」
「だ、大丈夫だ……!お前らは続けろ!!」
這いつくばりながらも、縄を離さないダリオ。
俺も分身を出して縄を引っ張る。
まだ少しぼんやりしているが、さっきまでの狂気がゆっくり抜けていく感覚だ。
「もっと引けェ!!」
ギリギリ……ギリギリ……
ドラゴンの体が、じわじわと地面に押さえつけられていく。
——その時。
ふと口元の縄が見えた。空で縛ったやつだ。よく見ると——粉塵爆発の影響で、あちこち焦げてボロボロになってるではないか?!
「やべえ!!口の縄が——」
バチンッ!!
——千切れた。
焦げついた縄が、ついに限界を迎えたのだ。
口が——開く。喉が、赤く光り……最後の抵抗。あのブレスを吐くつもりだ。
「やべえェ!!! みんな逃げろォ!!!」
俺は咄嗟に分身を追加した。ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ!!
20近くの分身が——ダリオやリーシャやオルファを森へ突き飛ばす。
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
「なにす——」
みんなを射線から外し。分身を壁にする。
そして俺は——動けなかった。
分身を出すのに精一杯で、自分の足が動かない。
炎が、吐き出された。
辺り一面を——飲み込んだ。
ボンッ。ボンッ。ボンッ。ボンッ。ボンッ。
分身が消えた音がする。
そして——炎が、俺を直撃した。
「ユーヤ様ァァァ!!!」
リーシャの悲鳴が聞こえた。
…リーシャか、無事そうでよかった。
分身が盾として機能できたのかな……俺はここまで…か…
…………
……
…ん~?
俺は——立っていた。
服は焦げてる。肌も少し赤い。
だが——火傷は全くしていない。
そもそも、熱さを感じなかったような……吹き飛ばされた衝撃はあったけど、炎そのものは——なんとも…ない?
ドラゴンのブレスを、正面から受けて……?
なんとなく、自分のステータスを確認した。
——火耐性:S
「……はぁ?」
間の抜けた声が出た。
いつの間に、なんでSになってる?!俺、全属性Fだったよな??
……いや、待て。
粉塵爆発。空中戦でも、墜落前も——何度も何度も、分身が爆発に巻き込まれてた。
炎に焼かれた分身は、数百を下らないだろう。
そして、その度、熱さと痛みの記憶が頭に流れ込んできていた。
あれも全て——経験として蓄積されてた?
そういえば、源泉整備のときも、何度目からは全然熱くなかったな……空でブレスを受けた時もだ! そんなにダメージを感じなかった……あの時はリーシャの回復が効いているからかと思ってたけど……
気づいてなかっただけで、火耐性がだんだん身についていた…のか…?
てか「耐性」ってなんだ?六属性は「適正」だったはずだが……
ステータスをよく確認すると——
—タナカ・ユウヤ
—属性適性:『火』『水』『雷』『風』『土』『光』:F
—属性耐性:『火』:S
—固有スキル【分身】:レベル:5(分身可能数:24)
確かに属性適正は全て「F」のままだ。新しく「属性耐性」が追加されている。
なんだ、やっぱり魔法は使えそうにないか~
——でも待てよ?
もしかして分身、とんでもない能力なんじゃないか?
分身が痛みやダメージを経験する。その記憶が戻ってくる。繰り返すほど——本体の「耐性」が上がる。
つまり、死ぬほど痛い思いを分身に経験させまくれば———無敵になれる…?
これは…案外、本当に「チート」もらっちゃったやもしれんな!hahaha!
「ユーヤ様ぁ!!!」
考え込んでる俺の元に、リーシャが血相を変えて駆け寄ってきた。
「あぁ、大丈夫だよ」
「でも、ドラゴンのブレスが直撃して……!」
「なんか平気だった。火耐性がついたみたいで」
「火耐性…?」
リーシャが目を丸くする。
「今の俺にはもう…竜の炎すら、効きやしないぜっ!!」
魔王を倒した英通さながら、見事なドヤ顔を披露した。
「すごいですぅうう!!やっぱりユーヤ様は救世主様、神の御業ですぅうう!!」
リーシャの目が、キラキラと輝く。
「そうだ!おーい!オルファ~!ちょっと俺に炎の矢を射ってみてくれよ~!」
「何言ってるのよ…」
「いいからいいから!早くぅ!」
オルファは大きくため息をつくと
「…死んでも恨まないでよね」
属性矢をキリリと引き……放つ————
……?!
「い゛でぇえええ!!先生ェ!リーシャ先生ェ…!お願いしまぁぁあす!!!」
リーシャが笑いながら回復してくれた。
……なぜだ。今の俺はドラゴンのブレスさえ…———あ!なるほどっ!普通に矢が刺さった痛みだコレ。火耐性、関係ないね!たはは。
…などという茶番はこれくらいにして、今は——
「ドラゴン撃墜作戦を終わらせよう!!」
俺はピッケルを再び握りしめた。
——しばらくして。
森の端から、4人の男女が飛び出してきた。
Dランク冒険者のマルクスたちだ。
「おい!!大丈夫か!?さっきドラゴンが落ちて——」
言葉が止まった。
目の前の光景が、まるで理解できない。
縄で拘束されて地面に這いつくばるドラゴン。
ピッケルで鱗を剥がしている同じ顔の男たち。
その周りをうろつく神官のような女。
それに付き従う黒フードのいかにも怪しい連中。
どうみてもゴロつきにしかみえないハイテンションな男たち。
そして、漆黒の木造の中に立ち上る湯気
「……なんだ、これは」
マルクスは、呆然と呟いた。
「ん?誰だお前らは…新たな敵か?」
男の声に気づいて振り返る。
「そいつはマルクス、Dランクの冒険者よ」
オルファが代わりに答えた。
そういえばオルファも冒険者ギルド所属なんだっけ。
ここのところ毎日、俺たちと一緒にいたから完全に失念していたよ。
「オルファさん?!どうしてここに……それより、私たちはゴブリン討伐の帰りにドラゴンを見て……」
マルクス一派の魔導者が駆け寄ってきた。
「まぁ色々あってな…だが見ての通り、ドラゴンの件はもう終わるところよ」
「…え?」




