表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/11

第5話 世紀末な奴らが攻めてきました(迷惑)

 教会の建設が始まって数日。

 まだ骨組みだけだが、少しずつ形になってきた。


 1階は温泉。2階は居住スペース。

 使徒たちは黙々と働いているし、分身たちも資材運びに精を出している。


 ……と、その時。


「——ヒャッハァァァァ!!」

 森の向こうから、大絶叫が聞こえてきた。


「む?…なにやつ」

「敵襲ですね~」

 リーシャがにっこり笑う。


「え~…魔物?」

「いや、人間ね。10人くらいかしら」

 オルファが弓を構える。


 しばらくすると、人影がはっきり見えてきた。

 薄汚れた装備を身につけた男たち。武器を振り回しながら走ってくる。

 

 先頭の大男が叫んだ。


「おらぁ!!金目のもん全部出せぇ!! 食いもんでもいい!!持ってるもん全部置いてけやぁ!! 命だけは見逃してやるぜぇ!!」


 ……世紀末かよ。



「お、おい、待て待て待て!」

 俺は慌てて前に出た。


「話を——」

「うるせぇ!!死にてえのか!!」

 大男が剣を振りかぶる——やべえ。


「分身!」


 ボボボボボボボボボボボボボンッ!!!!


 とっさのことだったので、出しすぎた。

 100人近い分身がワラワラと出現。当然、全員5cmもない極小サイズだ。


「なにコレ…ほぼ虫じゃない」

 オルファが呆れた顔で分身を見る。


「や、やかましぃ!」


 なにはともあれ盗賊たちの攻撃は止まった。


「なんだコイツら?!」

「小っちゃいのが沸いて出てきたぞ?!」

 動揺する盗賊たち。その隙に——


「お前ら、顔に貼りつけ!」

「「「「「了解!」」」」」


 ミニ分身たちが一斉に飛びかかった。

 盗賊たちの顔面にペタペタと張り付く。


「うわっ!!なんだこれ!!!!」

「クソっ、前が見えねえ!!」

「気持ち悪りぃ!!離れろ!!」

 視界を塞がれた盗賊たちがパニックになる。


 ——チャンス!

 

 一瞬で分身を解くと——


「オラッ!オラッ!オラオラオラッ!!」

 俺は盗賊たちを、温泉に向かって蹴飛ばしまくった。

 水の中なら動きも封じられるはずだ!


「うわああああ!!」

「あっっっつ……いや、気持ちいい……?」

「な、なんだこれ……」

 温泉にぶち込まれた盗賊たちが、困惑している。


「体が……ほぐれる……」

「天国は…ここにあったのか……?」

 次々と、表情が緩んでいく。


「あったけえ……」

「生きててよかった……」

「落ち着くぜ……」


 ……温泉の力、まさかここまでとは。



 ——30分後。


 盗賊たちは完全にふやけていた。


「ほら、これでも食え」

 俺は先日狩った猪の肉を差し出した。


「え…?」

「ほら、遠慮すんな」


 盗賊たちが顔を見合わせる。 

 先頭にいたリーダーらしき大男が、おそるおそる肉を受け取った。


「…いいのか?俺ら、あんたらを襲おうとしたのに」

「まあ、実際には何もされてないしな」

 俺は肩をすくめた。


「それにどうせ、腹減ってイライラしてたんだろ?一旦飯食って落ち着けよ」

「……!」

 大男の目が潤んだ。


「あんた……いや、ユーヤさん……」

「え、なんで俺の名前知ってんの?」

「さっきの小さいのが名乗ってやした」


 なんだと?!そんなホイホイと名乗ってたら危ないじゃないか!

 ……分身共には後でしっかり教育しておこう。


「ユーヤさん!俺はダリオっていいやす。こいつらは俺の仲間で——」

「話は後だ。今はまず、食っておけ」

「…へい!」

 ダリオたちが、涙を流しながら肉を頬張った。


「うめえ……」

「肉だ……本物の肉だ……」

「何年ぶりだよ……」


 うんうん、喜んでくれてるみたいでなによりだ!



 食事が終わった後、ダリオたちが一斉に頭を下げてきた。


「ユーヤさん!いや、お頭!」

「お頭?」

「数々のご無礼、すいやせんでした!!」

 見事なまでの土下座だ。


「虫のいい話なのはわかっていやすが、その……俺たちを子分にしてくだせえ!!」

「「「「「お願いしやす!!」」」」」

 全員がさらに頭を下げる。


 ——子分。お頭。


 ふむ。悪くないな。


 だが、俺もバカじゃない。こんな連中、いつ裏切ってこっちに襲いかかるか……


「却下だ。今回の件は目を瞑るから、どこか好きなところへ旅立つがよいっ!!」

 慈愛に満ちた勇者よろしく、盛大に声を張り上げた。


「そ、そんなこと言わずに!!ここは天国っすよ!!温泉はあるし、飯は食えるし、優しくしてもらえるし!!」


「優しく……?」

 顔に分身貼り付けて、温泉にぶち込んだ記憶しかないんだが……


「盗賊になったのも、ゲルツの野郎の暴利のせいなんす!こんな極楽に来ちまったら、もう盗賊なんかする必要ねぇんです!」


「…ゲルツ?」


「隣の領地の領主でさぁ。バロン=ゲルツ男爵。あの領地は地獄でした……」

 ダリオの顔が歪む。


「税金がえぐいんです」

 

 ダリオの話をまとめるとこうだ。

 

 稼得税20%——稼ぐ度に取られる。

 領民税15%——住んでるだけで取られる。

 消費税10%——何か買うたびに取られる。


 …いや、日本かよ。


「それだけじゃねえんです! 土地税、酒税、領主税と……なにかと理由をつけては取られて、毎年種籾すら残らない! 明日生きる分すらないのに、それでも払えと言われるんです」

 ダリオの声が震えた。


「払えなければ……見せしめに殺されるか、奴隷落ちしかないっす。家族ごと」


 ——これはまた、異世界あるあるというか、どこの世界もそういうところは変わらないんだな。


 バロン=ゲルツ、か。覚えておこう。


「気が変わった!お前らは今日から俺の子分だ!グラウエル(ここ)にいる限り、飢えや理不尽とはおさらばさせてやるぜ!」

「「「「「お、お頭ァ!!」」」」」

 ダリオたちが歓声を上げる。


 なんか自分で言ってて恥ずかしくなってきたが……こういうの、なんか悪くない気分だ。



 一連の様子を、オルファがじっと見ていた。


「……」

 盗賊を一瞬で無力化、そしていつのまにか人心掌握まで。


 ……この男、もしかしたら意外とデキるやつなのか?



「オルファさん?」

 リーシャが横から顔を覗き込む。


「な、何よ」

「その顔、ようやくユーヤ様の凄さが分かってきたみたいですね~?」

「別にそんなんじゃ——」


「入信しませんか~? 今なら特典つきですよ~」

「特典って何よ……」


「ユーヤ様の分身抱き枕です~」

「い、いらないわよ!!」




————————————————————



 その夜。


 建設中の教会の裏手——温泉とは反対側で、リーシャとダリオたちが密かに話していた。


「——で、ゲルツの野郎はファルミス教の熱心な信者でして」

「ファルミス教……」


「この国の国教っす。六属性(ステータス)至上主義で禁忌持ちは悪魔の使いだから殺せ、みたいなことを言ってる連中で……」


「……」

 リーシャの目が、すっと細くなる。


「ゲルツの野郎は、その教えを盾にして好き放題やってるんすよ。『神の名のもとに税を納めろ』とかなんとか言って」


「……なるほど」

 リーシャがにっこり笑った。


「ダリオさん。ヤルダヴォート教に興味はありますか~?」

「ヤルダ……なんすか?」


「私たちの信じる教えです~。禁忌は悪じゃない、自由こそが正義、ファルミス教の差別主義に対抗する——そんな教義なんですよ~」


「……!」

 ダリオの目が輝いた。


「そ、それって……俺たちみたいな、はみ出し者でも受け入れてくれるってことっすか?!」

「もちろんです~! ユーヤ様は我らが救世主。こうして皆を導いてくださっているのです~」


「救世主……」

 ダリオが建設中の黒い教会を見上げた。


「そういえば、あの教会の色……」

「お気づきになりましたか~?」

 リーシャがにっこり笑った。



「ダリオさん、ゲルツ領にはファルミス教会がありましたよね~?」

「ああ、あの白いやつっすか。デケえのが建ってましたね」


「ええ~。ファルミス教の教会は「白」。純潔と正義の象徴だそうです~」


 リーシャが黒い教会を指さした。

 「——で、こっちは黒。もちろん、発案者はユーヤ様」


「………!」


「確固たる対立の意思、というやつですかね~」

 ダリオの目が輝く。


「宣戦布告ってことっすか!! お頭、なんて御方なんだ!!」

 盗賊たち全員が興奮している。


「俺たち、お頭のところ(ヤルダヴォート教)に入信するっす!!なぁ?野郎ども!」

「「「「「もちろんっす!!」」」」」


「うふふ。ようこそ、ヤルダヴォート教へ」

 リーシャが満面の笑みが、月の光を受けて怪しく輝く。



「……ただし、ダリオさん。一つだけお願いがあります」

「な、なんすか?」


「ユーヤ様は『禁忌持ち』です。当然、見つかれば処刑対象ですね~」

「…!!」


「ですから、今はまだ大事にしたくないんです~。私たちは力をつけている最中。決戦の時に向けて、ね?」

 リーシャの声は、相変わらず間延びしているのに——どこか凄みがあった。


「なので、大それた考えは持たないでください。『宣戦布告』とか、『革命』だとか」

「も、もちろんっす!」


「ユーヤ様は優しい方ですから、皆さんのために無茶をしかねません……そうならないように、精一杯補佐する。それが私たちの役目なんです~……時が来るまでは」

 ダリオたちが神妙な顔で頷く。



「えへへ~、分かってくれて嬉しいです~」

 リーシャがいつものほわほわした笑顔に戻る。




————————————————————



 その頃、ユーヤは温泉に浸かりながら、何も知らずにぼーっと空を眺めていた。


「あ~…極楽…こうなるとやっぱり、酒も欲しくなるよなあ」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ