第3話 赤髪狩人にマークされたようです(悲報)
振り向くと——
赤毛の女が立っていた。軽めの装備に鋭い眼光。弓を構えている。
ファンタジーものでいうところの狩人だろうか。
「あんた、昨日空から落ちてきたやつよね?」
「お前も見てたのか!?」
……おい女神、「誰にも目につかない場所」に転移させたんじゃなかったのか?
「見てたわ。てっきり、死んだものだと思ってたけど……あんた何者なの?」
「ユーヤ様です!! 天から降臨されたのです~!!」
リーシャが目を輝かせて叫んだ。
「……は?」
「我らが救世主様が、ついに天よりお姿を現されたのです~!! 感動です!! 奇跡です~!!」
「そんなわけないでしょ」
女が弓を下ろし、呆れた顔で近づいてくる。
「……まあいいわ。私はオルファ。ギルドからの依頼で、この辺りの魔物調査に来てたの……で、あんたたちは?」
オルファがリーシャと使徒たちを見回す。
意味不明なことを言う少女に、ずらりと並んだ黒ずくめ。
どうみてもカルト集団だ。
「怪しいものではないですよ~! むしろ救いの手を差し伸べる慈悲の団体です~! あなたも入信しませんか~?」
「しないわよ」
バッサリ切り捨てて、オルファが俺に鋭い視線を送る。
「さっきから見てたけど、あんたのそのスキル…禁忌よね?」
やばい、さっそくバレた。さすがは冒険者、鋭いな。
「……で、どういうスキルなの?」
「分身だ。増えると縮む。今のところそれだけだな」
「なにそれ。意味分かんないんだけど」
「俺自身まだよく分かってないし……《《分からないから》》禁忌扱いなんだろ?」
意味ありげな顔でオルファに視線を送る。
「それもそう……ね」
「で、どうするんだ?」
「どうするって?」
「俺を捕まえてギルドに突き出すか?」
「そうね……今は監視させてもらうわ」
「監視?」
「禁忌持ちがこんな辺境で何をするのか、見届ける。危険だと判断したら、その時は容赦しない……ってトコかしら」
オルファが弓に手をかけた。
「ふっ、まぁいい。好きにしてくれ」
余裕の態度でいなす俺。ギルドや教会にチクられでもしたら、全てが終わるからな。
内心ヒヤヒヤしたが、ポーカーフェイスに定評のある俺には造作もないことだ。
「ユーヤ様は器が大きいのです~! さすが、天から降臨された我らが救世主様ぁ!!」
リーシャが横から割り込んできた。
「そういえばさっきから、「救世主」ってなんなの…?」
オルファの眉がピクリと動く。
まずい、こいつらが邪教ってバレても俺は巻き添えで処刑される。
頼むから余計なことを言わないでほしい。
「あー、その話は後でいいだろ。それより——」
俺は周囲を見回した。
「まずはこの辺りを調べよう。食料に水、あと拠点にできそうな所も探したいな」
「探索ですね~!!わくわくします~!!」
リーシャがぴょんぴょん跳ねながら手を叩く。
「私たちも昨日来たばかりなので、詳しくは分かってないんです~」
「私も魔物調査で来たばかりだから、詳細な地形は把握してないわね」
オルファが腕を組む。
「よし、じゃあさっそく手分けして探索を始め——」
「そうだ!分身!!ユーヤ様の分身を使いましょうよ~!!あの素晴らしいチカラを見せてくださぁい!!」
リーシャが目を輝かせた。
「もちろん、そのつもりだ」
「分身?あの…縮むとかいう?」
「厳密には、『一定の数以上を無理に出せば小さくなる』だけど…まぁ探索くらいなら問題ないだろ!」
俺は意識を集中させた。
「分身——!」
ボボボボボボボボボンッ!!
一斉に煙が上がり——50人のミニ分身が出現した。
「ちっっっっさ!!」
オルファが素っ頓狂な声を上げる。
無理もない。身長10cm程度の俺が50人、地面にずらりと並んでいるのだから。
計算上、俺の身長(170cmくらい) ×分身可能数(3) ÷ 今回の分身数(50) ≒ 10cm。まあ妥当な数字だ。
「かっっっわいいぃぃぃ!!!」」
リーシャが絶叫しながらしゃがみ込んだ。
「ちっちゃいユーヤ様がいっぱい……!!尊い……!!持ち帰りたい……!!」
目がヤバい。完全に不審者のそれだ。
「「「「「「触るなよ?」」」」」
俺と分身が同時に言った。
「えへへ~」
リーシャがミニ分身を1匹捕まえて頬ずりしている。
「ユーヤ様ぁ~これに紐をつけて、ストラップにしてもいいですか~??」
首◯りみたいでコワイからやめてくれ…
「そ、そんなことより、分担を決めるぞ」
俺は指示を出した。
「リーシャに10匹、オルファに10匹、残りは使徒たちに分散。各自、森の中を探索してきてくれ!」
「「「「「任せろ!」」」」」
ミニ分身たちがワラワラと動き出す。
「あ、それと——何か見つけたら、すぐに消されてくれ。そうすれば報告として俺(本体)に記憶が戻るはずだ」
「「「「「了解!」」」」」
「じゃあ…行ってこい!」
「「「「「おー!」」」」」
ミニ分身たちが各自の担当者について、森の中へ散っていった。
——————————————————
探索開始から1時間ほど経った頃。
「っ……」
突然、頭に記憶が流れ込んできた。
誰かが俺の分身を消してくれたらしい。
「…川があるみたいだな、東の方向…か」
こめかみを押さえながら、記憶の共有を辿る。
この能力、便利は便利なんだが、毎回頭痛がついてくるクソ仕様は勘弁してほしいよなあ。レベルが上がればなんとかなるのだろうか……
「さすが、ユーヤ様~!!今治療しますね~」
リーシャは即座に手のひらに乗っている俺(本体)に回復魔法を使った。
ナイス、リーシャ!お前が近くにいる時は、安心して分身を消せる!
その謎の禍々しい回復魔法魔法…本当に回復魔法なのか怪しいけど……とにかくそれは、一瞬で痛みや疲労がポンっと消えるんだから本当にすごい!
ついでに、頭がぽわ~~っとして、なんだかイイ気分になるのも最高だ!
その後も、続々と報告が入る。
——北西に果実の木を発見。
——南に魔物の巣らしきもの。近づくな。
——西の崖、眺めが良い。何か飛んでる。
そして、また記憶が流れ込んできた。今度はオルファ班からだ。
——くせぇ池。湯気が出てる。茹でた卵みたいな匂い。
「……まさか?!」
俺は立ち上がった。
「どうしました~?」
「オルファの方角、どっちだっけ?」
「たしか、北東ですね~」
俺は分身を全て消して、駆け出した。
「ユーヤ様~?」
リーシャの声を背に、俺は全速力で走る。
臭い水。湯気。ゆで玉子の匂い。それって——
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「オルファ!」
北東の森を抜けた先。オルファが鼻を押さえて立っていた。
「あ、来たの。見てよこれ、なんか臭い池があるんだけど——」
「ああ!」
俺はオルファを押しのけて、池を覗き込んだ。
白い湯気が立ち上っている。周囲には硫黄の匂い。水面はわずかに濁っている。
———間違いない。
「温泉だァァァァァ!!」
「うるさっ!」
オルファが耳を塞ぐ。
「いやこれ温泉だろ!?温泉だよな!?」
「知らないわよ!何よ『おんせん』って。ただの臭い池じゃないの?」
「違う!これは温泉だ!まさかこんなすぐに出会えるなんて!!」
俺は興奮を抑えきれなかった。
異世界ものといえば温泉! 何百本ものラノベやアニメで見てきた、まさに鉄板のシチュエーション!
今日だけは、ここに落としてくれた、あの女神の野郎に感謝だ!
「勝った……」
「何に?」
「人生に!!」
「意味分かんないんだけど」
「どうしましたか~?ユーヤ様が走り出したので追いかけてきちゃいました~!!」
リーシャと使徒たちが追いついてきた。
「リーシャ!見ろ!温泉だぞ!!」
「おんせん……?」
「熱いお湯が湧いてる池だ!これに浸かると疲れが取れるし、最高に気持ちいい!」
「はぁあああ!!!」
目を輝かせ、絶叫するリーシャ。
「こんなに嬉しそうなユーヤ様、初めて見ました……!!つまりこの『おんせん』とやらは素晴らしいものに違いありません!!私も興奮してきましたぁあああ!!」
「よっし、ここを拠点にしよう!」
「え?」
オルファが目を丸くした。
「拠点って……こんな臭いところに家とか建てるの?」
「チッチッチ」
俺は人差し指を横に振る。
「まず『温泉』の整備からだ!」
「……はぁ?」
さっきの仕草がよほど癇に障ったのか、オルファに殴られた。
「痛っ!何しやがる!この暴力娘っ…」
「うるさい!それより、家より先にお風呂作るっていうの…?!」
心底驚いたといった顔だ。
「だ、だって温泉だぞ?!温泉!!」
俺は必死に訴えた。
「まずは、ここを整備してから……他のことは……その後で……な?」
「正気?」
オルファが信じられないものを見る目で俺を見ている。
自分で言っておいて、優先順位に無理があることはわかってる。
だが、俺の執念は揺るがない。
「頼むよ、オルファさん!温泉に入ると疲れが取れて、最高に気持ちいいんだ!」
「……」
チィ…!この堅物め!
俺はくるりと方向を変えて、
「リーシャ!温泉に入るとな、肌もスベスベになるんだぞ!!」
「肌がスベスベ……!!」
リーシャの目の色が変わった。
「ユーヤ様とスベスベ……ユーヤ様の肌がスベスベ……ふふふ……作りましょう!!今すぐ作りましょう!!ユーヤ様の『おんせん』を!!」
「「「「「御意」」」」」
使徒たちも異論はないようだ。
——こうして、俺の異世界サバイバル生活に、邪教教祖と赤髪狩人ーが加わった。
ふと、空を見上げると、遠くの山の向こうに、何か飛んでいる。
……鳥か? いや、あのサイズは——
「ユーヤ様~?どうかしましたか~?」
「…なんでもないよ」
気のせいか。
こんな丸出しなフラグ、あるわけないもんな!




