表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/11

番外編 そのDランクパーティが見たもの(マルクス視点)

辺境の地グラウエルから、早馬で3日ほどの距離にある街——「古都アルセリア」


数百年前まではここが王国の中心だった。

しかし、流通の利便性や国土拡大に伴い、王都は別の地へと移され、今では旧王宮の遺跡や、未発見の地下遺構が眠る「冒険者の街」として知られている。


そんなアルセリアの冒険者ギルドは、今夜も賑わっていた。


「だから本当なんだって!ドラゴンがいたんだ!」


受付カウンターで、一人の男が声を張り上げていた。


マルクス。Dランク冒険者。パーティ仲間と共に辺境の魔物狩りを請け負っていた男だ。


「マルクスさん、落ち着いてください。ドラゴンって……本気で言ってます?」


受付嬢が困惑した表情で応対する。


「本気だ!この目で見たんだ!でっけえ赤黒いのがドラゴンが空を飛んでて——」


「おいマルクスー!また酒の飲みすぎじゃないのかー?」


「そうだそうだ!受付のねーちゃんに絡むんじゃねー!」


後ろから野次が飛ぶ。


ギルド内の冒険者たちが、ニヤニヤしながらこちらを見ている。

今夜の見せ物でも観覧している、という表情だ。


「違う!飲んでねえ!……いや、飲んだけど、見たのはその前だ!」


「説得力ねえな~!」


「ドラゴンって、Sランク案件だぞ?そんなのがこの辺にいてみろよ。街中大騒ぎだ!」


「きっと大きい鳥を見間違えたんだな!相変わらずお茶目なやつだぜ!」


笑い声が広がる。


マルクスは歯噛みした。


「……見たんだ。本当に」


「なにか…証拠とかはお持ちでしょうか?」


受付嬢のその言葉に、はっと思い出したマルクスは懐から何かを取り出した。


赤黒い欠片。両の掌ほどの大きさで、鈍く光っている。


「ドラゴンの鱗だ」


ギルド内が一瞬、静まり返った———が、すぐに誰かが吹き出した。


「なんだ、そんなの偽物だろ?一瞬ヒヤリとしたぜ~」


「ドラゴンの鱗なんて、王都でも滅多にお目にかかれねえぞ」


「どっかで買ったんじゃねえの?でかよくお前が買えたなァ!」


「ぎゃははははは!」


下品な笑い声が飛び交う。


「買ってねえよ!落ちてたんだ!グラウエルの村で!」


「村?あの辺に村なんてあったか?」


「……あった。いや、"できてた"が正しいんだと思う。湯気が立ち上る教会があって、そこに同じ顔の人間がたくさん住んでて——」


「ますます意味わかんねえな」


誰も信じてはいないみたいだ。


マルクスは拳を握りしめた。悔しい。が、証拠はこれしかない。


あの時、もっと近くで見ていれば……でも、あんな化け物を前に近づけるわけがない。


——その時。


「マルクス。ちょっと来い」


低い声が響いた。


振り返ると、ギルドの奥から初老の男が出てきていた。

筋骨隆々の体に白髪交じりの髪。鋭い目つき。

古都(この街)の冒険者ギルドのマスター——ゼルギスだ。


「ギルマス……」


「話がある。ついて来い」


有無を言わさぬ口調。


マルクスは頷いて、ギルドマスターの後について行った。




——————————————————————



応接室。


重厚な机を挟んで、サブマスターのノエルとマルクスのパーティメンバー3人が向かい合っていた。


同じ件で呼ばれていたのだろう。


どかっと長椅子に腰掛けると、ゼルギスは口を開いた。


「……で、本当に見たのか?ドラゴンを」


「はい。間違いありません」


マルクスは真剣な顔で頷く。


ゼルギスは黙って、マルクスが持ってきた鱗を手に取った。しばらく眺めて、鼻を鳴らす。


「……本物、だな」


「え?」


マルクスとメンバー3人が顔を見合わせる。


「この鱗、本物のドラゴンのものだ。間違いない」


マルクスの目が見開かれる。


「わ、わかるんですか?」


「ああ。実は——」


ゼルギスは椅子に深く腰掛けなおした。


「先日、王都に出張した時のことだ。貴族向けの競売会(オークション)があってな、たまたま覗いたんだが……」


「競売…」


「そこに、ドラゴンの鱗が出品されていた。10枚はあったな。……この鱗と、まったく同じものだ」


マルクスは息を呑んだ。


「じゃあ、やっぱり……」


「ああ。どこかにドラゴンがいるのは確かだろうな。それも、十数枚は鱗を剥がされてる」


ゼルギスは目を細める。


「いや、もっと…おそらく50は剥がれていたような…」


「なにィ?!」


声を荒げたゼルギスに気圧されるDランクパーティー一同。


一瞬静まり返る中、マルクスはあの日のことを思い出していた。


遥か上空を旋回していたドラゴン。

それが爆炎に包まれて墜落していく姿。

そして、駆けつけた時に見たあの異様な光景——



「……信じてもらえるかわかりませんが」


マルクスは口を開いた。


「ドラゴンを落としたのは、あの村の連中でした。どういう仕組みか、同じ男が大量に出てきて…空中で爆発をしました……」


「…まるで意味がわからんな」


「…そうですよね。俺自身、今になっても頭が追いついてないですし…」


マルクスは下を向いた。


「私も同じものを見ました!マルクスの言った通り、同じ顔の人間が、何十人も。いや、百人近くいたかもしれません!」

 

魔導士のユリアだ。


「爆発の件は断定できませんが、私もほぼ同じ光景を見ています。でしょう?ゴードン」

 

「ああ」


神官のマリーとタンクのゴードンもマルクスに続く。



ゼルギスは眉をひそめた。


「幻覚の線は薄そうか……となると禁忌スキルの類だな」


「禁忌?」


聞いたことがある。世の理を外れた異常な能力。詳細が不明なこともあり、ファルミス教が『禁忌』として断罪しているものだ。


「……どうしますか、ギルマス」


ゼルギスは腕を組んで、しばらく考え込んだ。


「……正直、判断に迷う」


「と言いますと?」


「もし本当にドラゴンを倒せる戦力があるなら、それは脅威だ。だが、同時に……『英雄』にもなり得る」


ゼルギスの目が光った。


「王国軍に報告すれば、間違いなく調査隊を派遣してくれるだろうが……伝令、会議、検討、準備など合わせると」


「早くて半年ですね…」


サブマスのノエルも口を挟む。


「そうだな。上の連中は腰が重いからな……その間に教会が絡めば…」


「面倒なことになるのは必然ですね」


禁忌スキル持ちは、教会にとって排除対象。最悪、その村ごと焼き払われる可能性もある。

冒険者ギルドとしてもこれ以上、教会の暴挙を看過できない。

かといって、真っ向から対立することもできない。


「だから、まずは事実確認だな」


ゼルギスはマルクスたち4人を見据えた。


「もう一度、あの場所に行ってくれ。今度は近くで、しっかり情報を集めてこい」


「……あの地に…ですか」


「もちろん報酬は弾む。金貨30枚でどうだ」


Dランクの依頼としては破格だ。


「そ、そんなに?!」


「危険度を考慮してだ。ドラゴンがいる可能性のある場所に出向くんだ。さらに、もっと脅威になる"何か"がいるかもしれない……だろ?」


ゼルギスは立ち上がった。


「1ヶ月以内に向かってくれ。その村とやらの情報を集めてこい。住人の数、戦力、指導者、そして——その『同じ顔の男』については特に念入りにだ」


「「「「了解しました」」」」


マルクスたちパーティ4人も立ち上がり、頭を下げた。


「お前ら」


「はい?」


「くれぐれも、無茶はするなよ。身の危険を感じたら構わず逃げてくれ」


「……肝に銘じます」



応接室を出る。


廊下を歩きながら、マルクスは考えていた。


グラウエル。ドラゴン。そして、あの光景。

一体、何が起きているのか。行けばわかるだろうか。


マルクスは仲間と宿へと足を向けた。


今夜はもう休もう。

明日から、また長い旅が始まる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ