第10話 空の帝王とやらをペットにしました(歓喜)
俺はドラゴンの頭に歩み寄った。
鱗が剥がれて、赤い肌が露出している。
「——悪いがここには、俺たちの聖地があるんだ」
ドラゴンが、弱々しく唸った。瞳に、怒りはない。疲労と、諦めが見える。
…勝ったな!
俺はピッケルを、ドラゴンの首筋に当てる。
「今、お前には三つの道がある!!」
…キタコレ!ファンタジー的に最高の見せ場だ!
表情を整えて続ける。
「一つ、ここから去る。二度とこの地に近づかないと誓え」
ドラゴンの瞳が、わずかに動く。
「二つ、ここで、俺に屠られる」
グルル……と、ドラゴンの喉が鳴った。緊張感が出てきていいね!
「そして三つ——」
ピッケルの先端を、首筋にぐっと押し当てる。
「我が軍門に下れ。その力、俺とこの地のために振るえ」
完璧!!俺、今……めちゃくちゃ主人公してるっ!!
ドラゴンの目が、俺を見た。
しばらく、睨み合う。
そして———ドラゴンが、ゆっくりと目を閉じ、頭を地面につけた。
……降伏したみたいだな。
「…ふっ。賢明な判断だ」
腕を組んで、勝者の余裕を見せつける。
「ぷっ……くくく……」
背後から、笑いを堪える声が聞こえた。
振り返ると、オルファが口元を押さえて肩を震わせている。
「な、なんだよ」
「くくっ……何が『賢明な判断だ』よ……ぷくくっ…ドラゴン相手にキメ顔までしちゃって…!」
「ば、ばか!こういうのは雰囲気が大事なんだよ!!」
「カッコよかったですよ~! ユーヤ様!!」
リーシャがキラキラした目で俺を見ている横で、マルクスたちが口をパクパクさせていた。
「お前ら、何者だ……? ドラゴンを……こんな辺境でどうやって……」
マルクスが俺の顔を見て——固まった。
「ていうか…どうしたんだ?その顔」
「は?」
「涎だらけじゃねえか。目も充血してるし、大丈夫なのかそれ?」
俺は自分の顔を触った——涎でびしょびしょだ。
「うわっ!?なんだこれ!?」
「戦闘中ずーっと回復魔法かけてましたからね~。副作用でちょっとハイになってただけですよ~」
リーシャがにこにこ笑いながら言う。
「『あぶぶぶぶ』とか『はにゃぁ』とか言ってたわよ、ずっと」
オルファが呆れた顔でこっちを見ている。
記憶がない。いや、うっすらあるけど、思い出したくない。末代までの恥だ。
「えへへ~、可愛かったですよ~」
「…………」
「お頭、すげえ迫力でしたぜ……!」
ダリオが感動した顔で言う。
「ドラゴン相手に笑いながら突っ込んでいくなんて……!胆力ハンパねえっす!ブレスを正面から受けても無傷でしたし……!!これはもう伝説ですよ伝説!!」
…もう、やめてくれぇ
「そういえば、マルクス、街に戻ったらギルドに報告しといて」
オルファが言った。
「ドラゴンが出現けどもう脅威じゃなくなったし、この辺りの魔物調査の依頼もこれで完了ってことで」
「あ、ああ……わかった……」
マルクスは呆然としたまま頷いた。
まだ、目の前の光景が信じられないらしい。
まあ、俺だって今だに現実味がないからなぁ。
まさか本当にパチンコで勝てるとは…
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マルクスたちが去った後。
俺は空を見上げた。
勝った。色々あったがドラゴンに——勝った。
分身と、仲間と、ピッケルと、粉塵爆発で。
「……やったな」
「ユーヤ様ぁ~!!さっきのユーヤ様、最高でした~!!」
リーシャが飛びついてきた。
「ちょ、近い近い」
「白目剥きながら果敢にドラゴンに突っ込んでいく姿、神々しかったです~!!」
「もうええてそれ!褒めてないだろ!!」
「えへへ~」
オルファがため息をついた。
「とりあえず、ドラゴンの件を終わらせましょう。この鱗、相当な価値があるわよ」
…たしかに!どこのファンタジーでもドラゴンの素材は超高価で取引されている。
これは、いきなり億万長者確定か?!
女神のバカめ…異世界転移くらいで、俺の宝くじ5億当選&仮想通貨爆益ルートを潰せるものかっつーの!
前世が無理でも、ここで豪遊ウハウハ生活を満喫してやるぜ!
「……で、こいつどうする?」
俺は地面で大人しくなってるドラゴンに目をやった。
「従う気みたいだし、あんたが飼うしかないんじゃない?」
「俺が?」
「当然でしょ。ほとんどあんたが倒したドラゴンじゃない」
「いや、皆んなで協力し…」
「はいはい、そういうのはわかってるから!しっかり責任持って育てなさいよね?」
意味ありげにニヤリと笑うオルファを見て、なんだか急に不安になってきた。
幸先が悪そうだ…
「そういえばユーヤ様~、この子のエサとかは大丈夫なんですか~?」
珍しくリーシャが真顔だ。
……餌。確かに。こいつ、何食うんだ?その辺の魔物でも勝手に食っててくれないかな……駆除がてら。
ていうか、こいつデカくてめちゃくちゃ邪魔だな。
「おい、お前って小さくなったりできないの?」
そういうとドラゴンの体が光輝いて、みるみるうちに子犬くらいのサイズになった。
「おぉ!」
「これは可愛いですね~!ペットにするなら、名前をつけてあげないと〜」
「じゃあ、火を吐くから…|火焔煉獄迅雷龍《ヴォルケニックインフェルノサンダードラゴン》なんかどうだ?」
「ダサ。迅雷要素はどこから来たのよ」
いかにも「うわぁ…」って目でこっちを見ないでください、オルファさん。
カッコいいと思ったのに…
「じゃあ、ヴォル吉くんにしましょう~!」
「吉…? まぁいいか。飼うならさっきの傷の手当てをしてやらないとな。リーシャ、頼めるか?」
「もちろんですぅ~…随分派手にやってしまいましたもんね~!ユーヤ様ぁ~?」
リーシャがいたずらに笑って俺の顔を覗き込む。
「あ、そうだ。首輪も作っとかないと」
「首輪ですか~?」
「野良のドラゴンだと思われたら面倒だし、冒険者のみなさんに狩られちゃうだろ?ちゃんとペットだって分かるようにしとかないと」
「ドラゴンを狩ろうなんてバカ、そうそういないわよ」
オルファが肩をすくめた。
「名案ですぅ!ユーヤ様!私にも首輪、作ってください~!」
「…は?」
「私もユーヤ様のペットになりたいです~!首輪つけてください~!」
「いや意味わかんないんだけど」
「だって~、ヴォル吉くんだけユーヤ様のものになるの、ずるいじゃないですか~」
リーシャがにこにこ笑っている。
こいつ、絶対わざとやってるだろ……
オルファがため息をついた。
「……相変わらずね、あんたたち」
「俺は巻き込まれてるだけだからな!?被害者だからな!?」
「はいはい」
完全に信じてない目だ。
……まあいいか。なんだかんだ、楽しかったな。
温泉の湯気が、夕日に照らされて金色に輝いている。
聖地と黒い教会。邪教の教祖と使徒たち。
元盗賊と赤髪の狩人。
そして——全ステFで禁忌持ちの俺と、ドラゴン。
この廃れた地は、今日からまた少し賑やかになる。




