第1話 開幕15分で処刑された件について(理不尽)
田中祐也。享年21。
俺は死んだ。
「はじめましてタナカユウヤさん。私は慈愛と創世の女神ソフィア」
気がつくと、俺は雲の上みたいな場所で、一人の女と対面していた。
金髪碧眼に白いドレス。とんでもない美人だ。
「あなたは不運な事故により、死んでしまいました」
おや?これはもしかして…
「あなたをこれから異世界に送ります」
「うひょぉぉお!!」
俺は思わず叫んだ。
「これこれぇ~! これを待ってたんですよォ!!」
「はいはい、落ち着いて」
はしゃぎ回る俺を見て、女神ソフィアがヒラヒラと手を振る。
そして、なにやら荘厳な様子で話しはじめた。
「『ヨルムンガンド』そこは、魔王の恐怖と戦う"剣と魔法の世界" あなたはこれから、そこに転移して新たな人生を迎えるのです!!」
思い返せば、パッとしない人生だった。
勉強も運動も下の中で、彼女いない歴=年齢。唯一の趣味はラノベとアニメ、生粋のヒキニートだ。
俺の人生って何だったんだろう——特に思い残したこともない。
「わかりました!ぜひお願いします!」
「……受け入れが早いですね」
「はい! 毎日のように異世界転生系は見ていましたから! ……それで?」
「…それで、とは?」
女神の表情が曇る。
「異世界に行くんですよね? てことは、ほら…《《お約束》》の最強装備やチートスキルなんかも当然、貰えるんですよね?!」
「ないわよ、そんなの」
——バッサリ切り捨てられる。
……え?
「大体ね、そんな不公平なこと、女神のこの私がするわけないでしょ?」
彼女は大きくため息をついた。
「確かにあのまま地球で生きてれば、2年後には宝くじ7億円に当選して、その後は仮想通貨でボロ儲け。南東に島なんか買って、人気女優と悠々自適な余生を送る勝ち組人生だった。 それなのに…こんなところで死んじゃったのは可哀想だと思うわ…」
まじか。そんなにラッキーボーイだったのか俺。死に損じゃん!
「…そもそも俺、なんで死んだんでしたっけ?事故って言ってましたが、なんか…記憶が曖昧で……」
女神の目が、一瞬泳ぐ。
「……それは」
「おい、なんだその反応」
「……別に」
「女神さん?」
「……私のミスで」
おっと、なにやら聞き捨てならないことが聞こえたぞ。
「……おいクソ女神。 今、なんて言った?」
「だから、私のミスで——あなたは死んじゃったのよ!」
「ふっざけんなァァァァ!!」
久々の大声に息が切れる。
「ど、どうしてくれるんだよ俺の人生!!」
「…しょうがないじゃない!! 完全無欠の女神の私だって忙しいのよ! 地球側の魂管理リストで、ちょっ~と隣の行と間違えちゃっただけよ!」
……こいつ、開き直りやがったぞ。
「もちろん、責任取ってくれるんだよな?!」
「だから、アンタが夢見てた『異世界』に送ってあげるって言ってるじゃない!」
「まさか、それだけか…?」
「…分かったわよ。特別よ! 特別に《《この世界に1つしかない》》スキルをあげるから、そんなに囀らないで。やかましいわね!」
世界に1つしかないスキル……それって要するにチートってことじゃないか!
このクソ女神の態度は誠に遺憾だが、チートが手に入るなら甘んじて許そう。
俺は寛大さには定評があるからな。
「…じ、じゃあ、そろそろ時間みたいね」
女神が手を振った。
「せいぜい第二の人生を楽しみなさい!」
俺の足元が神々しく光りだす。
「おおおおおおおおー!!」
———こうして、俺の異世界ライフが始まった。
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気がつくと、俺は石畳の上に立っていた。
キョロキョロと辺りを見回す。
——中世ヨーロッパみたいな、《《いかにも》》な街並み。猫耳の獣人、重そうな鎧を身につけた戦士、ローブを引きずる魔導士。
「ついに来たぞ!異世界!!」
……てことはお約束の『あの場所』もあるよな?
俺は縦横無尽に駆け回った。
そして——見つけた。
数多の依頼をこなし、人々の希望になる。いずれは魔王を討つ勇者なんかに選ばれたりしちゃって……これぞまさにファンタジー世界の醍醐味!
『冒険者ギルド』だ!
「やっぱこれだよなー!!」
俺は表情を整えて、おもむろに扉を開ける。
「冒険者登録を頼む。——伝説の始まりだ」
「かしこまりました!ではステータスを鑑定しますので、魔水晶に手をおいてください」
カウンターにいた女性職員に案内された。落ち着いた声だ。かわいい。
言われた通り、水晶にそっと手を置くと——ぱっと光り輝き、なにやら文字が浮かび上がる。
「え~と、タナカ・ユウヤさんですね!……年齢は21」
「六属性適正は『火』がFで…『水』もF…」
「『雷』…F…」
「『風』『土』『光』も、Fですね…」
全属性F。クソ雑魚役満の誕生である。
「ま、まあ…冒険者だけが仕事ではありませんから~」
受付のお姉さんの慰めが、さらに俺の心を抉る。
「あら?これは… ——《《固有スキル》》:分身」
その呟きにギルド内が騒然とする。
「お、おい、それって…」
「やべぇぞ、これ…」
なんだなんだ?全ステFが判明した時は、不覚にも涙がこぼれそうだったが…さっそく俺の類稀なスキルが評価されちゃってる感じ?困ったなぁ~!もう注目されちゃうなんて。
今後の俺の英雄譚を想像してニヤニヤ笑っていると——
ドガァン!!
ギルドのドアが蹴破られ、鎧を着た衛兵たちが大量に雪崩れ込んでくる。
「お前が禁忌持ちか?!」
「…はぇ?」
情けない声が漏れた時には、俺の拘束は完了していた。
「お、おいちょっと待ってくれ!なんだよ禁忌って!」
「黙れ!お前は危険因子だ。即刻処刑する!」
「ふ、ふざけん…」
口を塞がれた。
嘘だろオイ…ようやく手に入れた夢の異世界ライフなんだ…
こんなところで、終わってたまるか——!!
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「出戻りご苦労さま」
——え?
目の前には、あのクソ女神がいた。
「くっ…ぷふっ…」
口元を押さえて必死で堪える女神ソフィア。
「あーっはっはっはっは!!」
弾けるように笑い出した。
極めて腹立たしい女神の顔は無視して、俺は冷静を装う。
「なんで、お前がここに?」
「なんで?って…あなた、本当にわからないの?…ふふっ…周りをよく見てみなさい?」
確かに見覚えがある。前に来た雲の上みたいな場所だ。
ということは…
「しょ…処刑されたのよ…あなた。 しかも…」
プルプルと肩を震わせる女神。
「15分…転移してたったの15分で…!あーっはっはっはっは!そんなことある?! 記録的な短時間よ!! 私、結構長いこと女神としてやってきたけど、こ、こんな短期間で死ぬなんて……初めて見たわ!! ひー!お腹痛い!!」
こ、こいつ…
いや、今はそんなことより、記憶を辿れ……たしかギルドで鑑定を受けて、全属性Fで、禁忌がどうとか言われ、衛兵に連行されて——
……そこから先の記憶がない。
「裁判は形だけ。『禁忌スキル保持者につき処刑』で全会一致。あなたは首を刎ねられたのよ」
見かねた女神が答える。
「なんだよそれ!!司法の終わりじゃないか!!」
「あんたバカなの?この世界はね、時の権力者が『死ね』って言ったらそれで終わり。異世界では、あるあるでしょう?」
くっ…!確かに俺が見ていたアニメも大体そんな感じだった…
「とはいえ…さすがに可哀想すぎたわね」
女神が大きくため息をつく。
「1000年分くらいは笑わせてもらったし……今度はちゃんと考えて……そうね、人目につかない場所にもう一度転移させてあげる」
「ほ、本当だろうな?」
「本当よ。『グラウエル』って辺境の土地の奥深く。誰も来ないし、見られることもないわ。元ヒキニートのあなたにはぴったりじゃないかしら?」
えらく馬鹿にされてる気がするが、また処刑されるよりは全然マシだ。
「……分かった。今度こそ頼むぞ」
「ええ。じゃあ、行ってらっしゃい!」
女神が手を振る。
俺の足元が激しく光りだし——
「あ、そうそう」
女神がにっこり笑った。
「転移魔法って疲れるのよ。あれ、演出目的なところもあるし……今回はそのまま落とすから」
「え?」
——パカッと足元が開いた。
「ちょ、待っ——」
問答無用で、俺は空中に投げ出された。
「ふっっざけんなァァァ!!クソ女神ィィィ!!!」
眼下に広がる大空と山々。
そこに向かって、俺の体は彗星のごとく落ちていった。
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その頃——グラウエルの地。
「あら~?」
黒いローブを纏った金髪の少女が、空を見上げていた。
「なんか落ちてきましたね~」
彼女の背後には、黒ずつくめの集団が5人。
「「「「「……救世主様」」」」」
「見に行ってみましょうか~」
そして——
ドゴォォォン!!
盛大な音と共に、何かが地面に激突した。




