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第6話 庶務 水無瀬夏恋は見逃さない【前編】

 脚立を担ぐ水無瀬先輩と工具箱を持つ俺は、生徒会室を出て廊下を進む。

 工具箱を持つ手が小さく震え、赤くなり始めた。一体、何が入ってんだ。


 一方、水無瀬先輩は脚立を担いで歩くのに慣れているのか、全くふらついたりしない。


 生徒会の庶務っていつも、何してんだろ?


 もしかして、水無瀬先輩の趣味がDYIで休みの日は壊れた犬小屋修理してるとか……ないな。どう見ても、このギャルのいで立ちでそれはない。


「水無瀬先輩、脚立も俺が持ちますよ」

「えっ、どうして?」

「どうしてって……」


 それは入学したての俺が工具箱だけを持って、水無瀬先輩が脚立を担いでいては、周りの生徒があの新入生は先輩に重そうなものを持たせてって思うからで。

 それに女の子に重たそうなものを持たせているだけで、非難してくる輩もいる。


「両手に荷物持ったら、階段とか危ないっしょ」

「えっと、まあ……そうですけど」

「あっ、もしかして、私が先輩だからって気を遣ってるとか?」


 ええ、そのもしかしてです。気付いたのなら、早いところその脚立を俺に渡してください。


「そんなところです」

「優しさは嬉しいけど、それいらなーい」


 水無瀬先輩は脚立を担いだまま強引に、両手でバツ印を作る。


「そういうのは私と慎くんの間ではなーし」

「でも、こういうのって――」

「だーめ。私たちはどっちが偉いとかないから。二人そろって生徒会の庶務なんだから」


 二人そろって一人前みたいな感じ、俺は嫌なんだけどな。


「俺って、水無瀬先輩の補佐じゃないんですか?」

「まあ、肩書? はそうなっているけど、なんていうのかな……相棒みたいな感じ?」

「相棒……ですか」


 相棒って背中をあずけたり、阿吽の呼吸で問題を解決するんだろうけど、水無瀬先輩とそんなことできる気がしない。

 だって、ギャルの考えてること、さっぱりわからんから。


「うんうん、それに私たちの作戦は〝いのちをだいじに〟でいくから」

「だから、両手に荷物を持つような危ないことはしないってことですか」


 水無瀬先輩の作戦はいつも〝がんがんいこうぜ〟じゃないのか? それ以外の選択肢があることに驚きだ。


「そういうこと。でもね、慎くんの気持ちは嬉しいよ。ありがとう」


 水無瀬先輩はこちらを向いて、にひっと笑いながらウインクする。

 不覚にも水無瀬先輩のウインクに、一瞬ドキッとしてしまった。

 陽キャたちからすれば、こんなの誰にでもする挨拶と同じだろうに。こういうことで勘違い陰キャが生まれるんだろうな。怖い怖い。


 脚立を渡してもらうのをあきらめた俺は、トラブルが発生しているらしい体育館に向けて渡り廊下に入った。


 途中、ヘルメットを被った用務員のおじさんに会釈をして、先を急ごうとすると。

「阿部さーん、どったの?」


 急ごうとする俺の足を止める軽快な声。

 振り向くと、水無瀬先輩が担いでいた脚立を置いて、用務員さんと話し始めている。


 こんなところで、油を売っている場合じゃない。


「水無瀬先輩、早く体育館に行かないと」

「はい、はーい。あっ、こっちは新しく私と一緒に仕事する慎くん」


 抗議は適当に流されて、俺の紹介が始まる。


「まだ、仮です。入るとは決めてません」

「慎くん、ガード堅くなーい?」

「それより、体育館に――」

「まー、まー、ちょっとくらい」


 水無瀬先輩は置いていた脚立を開いて、安全のための固定金具を留める。


「先輩、何やってんですか?」

「蛍光灯換える手伝いに決まってるっしょ」


 それって、俺たちじゃなくて用務員さんの仕事じゃないのか?


「夏恋ちゃんいいのかい? 何か用事の途中じゃ」


 用務員さんは心配そうに小さく首を傾げる。


「問題なしっす」


 本当か? さっき電話でヤバめとか言ってなかった? 水無瀬先輩のヤバめがどのくらいかわからないけど。きっと人命危険とかじゃないはず。そういうヤバさならさすがに先生か消防を呼んでいる……と信じたい。


― ― ― ― ― ― 


 夏恋が話すようにこちらの作品はバディ・ラブコメです。

 最近、このタイプのラブコメは少なくなってきたような気がします。

 過疎分野だからこそ、皆様の応援がめちゃくちゃ励みになります。

 ★★★★★《評価》、ブックマークなどよろしくお願いします。

 


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