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第六話 まだ分からないか

 二〇〇〇年 五月十二日 (金)


 セットしておいた目覚ましが鳴り、目が覚める。

「……今日は普通だ」

 あの夢を見なかった。

「時間は……七時だな」

 いつも通りの朝だ。起床時間も完璧。

 正直、もうあの夢にはうんざりしている。何時間もあんな何も無い空間で一人で過ごすなんて苦痛でしかない。しかも、あの夢だけなぜか感覚がしっかりしているせいで夢の中じゃ決まって体がピリピリする。もう見ないといいんだけど……

「今日は寝ないでおこう」

 今日の授業は起きていよう。またあの夢を見たら大変だ。あの夢を見たくないなら極力それを見る可能性を減らせばいいんだ。


 俺はいつも通りに朝の身支度を済ませ、学校へ向かった。


 ◇ ◇ ◇


 その日は宣言通りに授業を居眠りせずに過ごし、無事にあの夢を見ることなく放課後を迎えた。


「はーるき!」

 水葉に後ろから声を掛けられる。

 そして俺は振り向いて話す。

「ごめん、今日は珍しく部活なんだ」

 久々に部活だ。珍しく明日もあるから二日連続だ。

 よく考えたら一週間ぶりって……補欠だからってやっぱり見捨てられすぎな気もするけど、もういいか。

「あ、じゃあ待っとく!」

「多分八時ぐらいまで帰れないぞ?」

「どうせ帰っても塾行くかダラダラするだけだし待っとくよ」

「待っとくって言ってもそんな暇潰せるとこないだろ」

「学校の図書館開いてるからそこで勉強しとくよ」

「図書館も七時までしか開いてないだろ?」

「んー、残りの一時間は部活してる遥希のこと観察するから大丈夫だよ」

「まあ、お前が待っときたいならそうしたらいいと思うけど……」

「そうさせていただきます!じゃあ部活頑張ってね!私はお勉強をして参ります」

 ビシッと水葉が敬礼のポーズをしてみせる。

「ま、早く終わったら図書館まで行くわ」

「りょーかい♪」

 手を振って水葉は学校の中へ戻っていった。

「部活だる……」

 もうやめてやろうかな。所属してる意味ないと思うし。てかなぜ俺は陸上部にしなかったのだろうか。普通に考えて足が速いなら陸上をするべきだっただろ、俺よ。

 まあ今差そう嘆いても仕方がない。

「はぁ……」

 渋々、俺はグラウンドへ向かった。

 そしてグラウンドへ着いた矢先、何を言われるのかと思えば……

「明日は他校との練習試合だから、お前ら補欠組は来なくていいぞ」

 は……?ただでさえ活動日が少ないって言うのにさらに減らしやがるのかこのクソ監督は。まあいいけど。

「ま、そういうわけだから」

 ぶっきらぼうにそう言うと、レギュラー組がいる方へ行ってしまった。

「えっと……先輩、俺たちは何をすればいいのでしょうか」

 隣にいる先輩に聞いてみる。

「俺はもう帰っちゃおうかな。西崎君もめんどくさいなら帰っちゃいな」

「あ、そ、そうですか」

 その先輩が帰ると、それに続いて他の補欠部員たちも続々と帰っていく。

「レギュラーと凄い差だな……」

 補欠組はやる気が全く違う。悪い意味で。もっとも、そのやる気が無いのは専らあのクソ監督のせいだと思うけどな。

「俺も帰ろ……」

 結局、数分したら俺以外の補欠部員は皆帰ってしまっていた。

「思った百倍速く終わったな」

 百倍どころじゃないのかもしれない。なんせ十分で終わったんだからな。

 ……ていうか明日も部活あるはずだったのにもう無いことになってるんだよな、これ。多分そういうことだな。

 とりあえず俺は無事?に部活を終え、水葉がいる図書館へと向かう。

「あいつ、勉強してると見せかけてサボってるとかないよな」

 ちょっと観察してやろう。

 図書館へ入り、水葉を見つけた俺はそーっと本棚の隙間から覗く。

「……」

 ちゃんと勉強してる。

 もうちょっと見てみよう。

「…………っあ」

 水葉が振り返って目が合う。

「……」

 近づいてくる。

 そして本棚越しに話しかけられる。

「遥希くん、何してるのかな?」

「い、いや~ちゃんと勉強してるのかなと思って」

「そんなこそこそしちゃって、《《イケナイ》》ことでも考えてたのかな?」

「いやそんなんじゃ……」

「あはは、うそうそ。もう部活終わったの?」

「あ~、うん」

「早いね」

「終わったというより、することないから抜け出した」

「ワルだね」

「補欠部員みんな抜け出してたし、いいかなって」

「ワルだぁ! …………あと思ったんだけど、本棚越しで会話するのやめない?」

「話しにくいしな」

 水葉のいる方へ回る。

「この方が話しやすいね」

「そりゃあな」

「まだ五時半だけど、もう帰る?それとも一緒に勉強する?」

「水葉にまかせるわ」

「じゃあ一緒に勉強しよ!今、ここ誰もいないし二人きりだ♪」

 本当にそうなのか、と思って周りを見渡すと本当に誰もいなかった。

「マジで誰もいないじゃん」

「みんな勉強するなら塾か家でするしね」

「それもそうか」

「じゃあ横に座って!」

 ほらほら、と手招きをされる。

「隣じゃないとダメなのか?」

「その方が教えやすいでしょ」

「え、俺教えることになってんの?」

「そうだけど?」

「……しゃあねえな」

「さすが遥希君、やっさしぃ!」

「君付けやめろ」

「じゃあ早速お願いします!」

「何を教えるんだ」

「とりあえず英語からで!」

 とりあえずって……俺はいったいここに何時間いることになるんだろうか。

「とりあえずってことは、まだ他も教えろって解釈でいいのか」

「遥希が時間あるなら!」

「はぁ……まあいいけど」

 そう言って俺は水葉の隣に座る。

「で、何ができないんだ」

「あー、えっと長文の解き方なんだけど」

「おう」

「この問題でさ…………」

 


 あれからはお互いふざけることなく真面目に勉強した。気が付けばもう時計の針は十九時前を指していた。

「やばっ、もう七時になっちゃう」

「帰らないとな」

「ちょっと中途半端だけど、もういっか!」

「あとは家で自分でしてくれ」

「うん! 今日は助かったよ、ありがと!」

 そう言うとニカッと笑ってみせてくる。

「英語は割と得意な方だしまた教えてやるよ」

「割と、とか言ってるけど全教科得意だよね、君」

「相対的に見て得意ってことだ」

「遥希さん頭良すぎです」

「なんでさん付け」

「尊敬の念からかな」

「意味わかんね」

 俺がそう言った瞬間にチャイムが鳴る。

「チャイムが遥希に帰れって言ってるよ」

「お前にも言ってるんだけどな」

「帰ろっか」

「そうだな」

 俺たちはさっさと荷物をまとめて学校を後にした。

 外へ出ると辺りはもう真っ暗になっている。

「真っ暗だね」

「足元気をつけろよ」

「うん」

 少しの沈黙の後、水葉が口を開く。

「今日はほんとにありがと」

「別にそんな感謝するようなことじゃないだろ」

「感謝は素直に受け取っておくべきだよ?」

「じゃあ素直に受け取らさせてもらうわ」

「それでよろしい!」

「……あの、こっちこそありがとう」

「なにさ、急に」

 水葉が笑いながら視線をこちらへ向けてくる。

「感謝は素直に受け取るべきなんだろ。素直に受け取れよ」

「ふふっ、そうだね」

 俺は何となく目をそらした。

 少し間が開いて水葉がぽつりと呟く。

「……いつでも待ってるから」

「どういうことだ?」

「それが分からないうちはまだ早いか」

「え、どういうこと?」

「そのうち分かるよ」

「ならいいけど……?」

「あ、ねえねえ」

「どうした?」

「明日遊ばない?」

「明日?」

「そう!明日!」

「急すぎん?」

「いいじゃん!私たちの仲だし」

「まあ予定はなんもないけど……」

「じゃあ決まりね!明日朝の八時に遥希の家の前まで行くから!」

「あ、ちょっ! 良いとは一言も言ってないぞ!」

「じゃ、私こっちだからー!また明日ー!」

「あ、おい!返事する前に逃げるな!」

 行ってしまった。

「はぁ……」



 ため息をつきながら俺は帰路についた。

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