第四話 夢から覚める方法
????年??月??日
「……またか」
目を開くと、そこは見覚えのある海辺だった。
しかもまた体が《《ピリピリ》》する。
「前なんでここまで来たんだっけな」
記憶が曖昧だ。
「これ、また何時間もしないと出られないやつだろ」
前回は確か授業中で体感5、6時間でここから出られたから……今家で寝てる俺はその八倍?ぐらいか。
「とてつもないな」
冷静に考えたらここは時間の流れが遅いってわけだな。まあ、なんにせよあまりにも退屈だ。ここから出る方法が見つかればいいんだけどな……
「そう簡単にはいかないよなぁ」
頬を思いっきりつねる、ひっぱたく、腕をつねる…………俺が今できることは全てやった。
ちなみにしっかり痛かったし、夢からはもちろん覚めなかった。
「これ寝れたりしないかな」
もし寝られたらそのまんま目を覚ませるんじゃないか。我ながら天才的アイデアかもしれない。
「そうと決まれば早速だ」
俺は砂浜に寝そべり、ゆっくりと目を閉じる。
◇ ◇ ◇
二〇〇〇年 五月十日 (水)
「……お?」
「ガチで起きれたんだけど」
夢の中でも寝られるんだな。次からはこれで夢から覚めよう。
「……って今何時だ」
そう思い、時計を見ると……
「は!?十一時!?」
まずい。目覚められたのはよかったが時間がよくない。
遅刻確定だ。
「だる……」
もうサボってしまおうか。寝坊したなんて言ったらどうせ怒られるし。よし、サボろう。
ていうか母さんは何で起こしてくれなかったんだ……
終わったことを気にしてても仕方ないと思い、とりあえず朝飯を食おうとリビングに向かうと、机の上に何か置いてある。
「置手紙?」
母さんからだ。
『何回呼んでも起きないので諦めました。休むなら休むで学校に連絡しておきなさい』
俺そんなぐっすり寝てたのか……
「休み連絡なぁ……」
寝坊したなんて言ったら怒られるのは目に見えてるし……明日学校に行ってから言おう。そうしよう。
「サボるのはいいとして……何しよう」
サボったのはいいが、することが本当に何もない。
「勉強するか……」
来年からは受験生だし勉強するのが自分のためだろう。
「英語にするか」
得意科目からするのがやっぱりいい。得意科目ならやる気も続くし、そのまま他の科目も流れでできる。多分。
そうして勉強を開始し、気がつけば皆が下校するぐらいの時間になっていた。
「もう三時か」
意外と始めればすぐに時間は経つものだ。
「昼飯食ってねえや」
そういえば忘れていた。昼飯を忘れるぐらいには勉強に集中してたってことだな。
「中途半端だしこれ終わらせてからにしよう」
中途半端な状態で終わらせると、むずむずするから今のうちにしておくことにする。その方が集中力も記憶も途切れないし良い。
そうして勉強を再開し、数十分経った頃にインターホンが鳴る。
「誰だ」
多分、大亜か水葉だろ。
「はーい。今出まーす」
小走りで玄関に向かい、扉を開ける。
「はーるき!来ちゃった♪」
……やっぱり。
「どうせサボったんでしょ?」
「まあそうだけど、なんで来てんだ」
どうせちょっかいかけに来たんだろうな。
「いや、プリントとか渡しに」
至極真っ当な理由だった。なんかごめん、水葉。
「あ、そうだったのか。わざわざ持ってこなくてもよかったのに」
「別に持って来なくてもよかったんだけど、一緒に話したいなーと思って」
前言撤回。やっぱり真っ当な理由じゃなかった。ただ欲望に従っているだけだった。
「なんだよ、やっぱりそういう理由かよ」
「なにその嫌そうな顔」
「嫌とかじゃないけど……」
「じゃ、あがるね」
俺が少し目をそらした隙に、水葉が中へ入っていく。
「あ、おい!勝手に人の家に入るな!不法侵入だぞ!」
「ほぼ家族みたいなものだし問題ありませーん」
「いや、問題はあるだろ」
「だって幼稚園からずっと一緒だし、家も近いし、もうこれは家族でしょ。家族は自由に家を出入りするものでしょ?」
「するけど……まあいいわ」
もう反論すること自体が面倒くさい。
「じゃあ遥希の部屋お邪魔するね」
「リビングにしてくれ」
「えー遥希の部屋がいい」
「なんでだよ」
「落ち着きそうだから」
「……なんもすんなよ」
「やった♪」
なんで俺の部屋なんだよ……別になんにも無いからいいけどさ。
「あーそこの収納の奥に椅子あるから出すわ」
「ご丁寧にどうも♪」
「さすがに地べたに座らせるのはな」
収納の奥にしまっておいた椅子を引っ張り出す。
「はい」
「ありがと」
「で、何するんだよ」
「んー、何も?」
「じゃあなんで来たんだよ」
「話したいから?」
「それだけかよ」
「え、なんか期待してたの?」
「違うわ」
「あら残念」
なんだよ、残念って。気になるだろ。
「……俺勉強してた途中だから続きしてもいいか」
「あ、邪魔しちゃってたか。ごめん」
「別にいいよ」
結局は休んだ俺が悪いしな。
「私も勉強しよっと」
「水葉って馬鹿そうに見えて勉強できるよな」
地味に毎回、模試とか定期考査で順位競ってきてるんだよな、こいつ。ギリギリ勝ってるけど。
「なにその馬鹿にしてるのか褒めてるのか分かんない言い方」
「褒めてはいる」
「一言余計ってやつだね」
「なんかごめん」
「あはは、いいよ別に」
「まあ俺のほうが頭いいけどな」
「謝っといてマウント取らないでよ」
「なら頑張ればいいだろ」
「これも遥希のせいだよ」
「なんでそうなるんだよ」
「遥希がいなかったら暇になってもっと勉強してたのに」
「それは俺が悪いのか」
「悪いね。すっごく悪い」
「俺が一体何をしたって言うんだ」
「何もしてないよ」
「なんだよ」
「遥希自体が悪いね」
「意味わからん。もう勉強するわ」
ちょっと言っている意味がよく分からない。
「それじゃあ数学のワーク見せて!」
「そのまま写す気だろ」
「え、ダメ?」
「いいよ。ほら」
「ありがと♪」
学校の課題多いしな。これに関しては仕方ない。
二時間後
「あー!疲れたー!」
「水葉って一回何か始めたら集中力すごいよな」
さっきまであんなに喋っていたのに、勉強を始めた途端に無言になってびっくりした。あと、ずっと距離が近くて俺は集中できなかった。
「頭いいですから」
「残念ながら俺のほうが頭はいいけどな」
「そのうち抜かすし」
「ははっ、見ものだな?」
「見ときなさい! 数か月後には痛い目にあっていると思うわよ!」
「おーおーそれは怖いな~」
「適当だなぁ。もうちょっとノッてくれたっていいじゃん」
「まあ実際頭いいし俺も抜かされないように勉強しとくわ」
余裕ぶっこいてるけど普通に抜かされる可能性はあるんだよな。
「なんだ、そこはちゃんと認めてくれてるんだ」
「模試とかも俺とあんまり順位変わらんしな」
「いや一位と十位はだいぶ差あるよ」
「でも全然抜かせる立ち位置には居るだろ。普通に俺より頭は良い」
俺はこう見えても結構勉強してここまで来てるから、俺と同じぐらい勉強したら普通に順位は抜かされるだろうな。
「頑張るけど、なんか急に褒めるじゃん」
「なんだ、照れてんのか?」
「い、いや?そんなんじゃないし」
目をそらして顔を赤らめながらそれを言うのは無理がある。
「はは、まあいいや。じゃあ親ももうすぐ帰ってくるし今日は解散な」
「あ、もうそんな時間?」
「そうだぞ」
「じゃあとっとと帰らせてもらいます」
「そうしてくれ。ほら帰った帰った」
「……そこは『もうちょっと一緒に居てよ』とか言うところでしょ!」
誰がそんなこと言うんだよ。漫画の世界じゃあるまいし。
「そう言いながら普通に玄関まで来てるじゃねえか。あと、俺はそんなこと言わないから期待しないほうがいいぞ」
「ノリの悪い幼馴染だねぇ。困った困った」
「ノリが悪くてどーもすみませんね」
「ま、それは昔からだし」
「悪かったな」
「じゃあ私はそろそろお暇させて頂くよ。また明日」
「おう。気をつけてな」
「うん、ありがと。じゃあねー」
「じゃあな」
玄関の扉が閉まる。
「疲れた……」
あいつ、俺の気も知らないでくっついてきやがって……無意識なのかあれは。勉強中だったし無意識か。
……いや無意識だからってあんなにくっつかれるのはダメだ。もう高校生なんだぞ。自制してほしい。いや無意識だから直せるものでもないのか。
「集中できねえっての……」