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第二話 勘違い幼馴染

 放課後


「はーるき!」

 そう言って背中を叩いてきたのは、

「水葉か」

「今日は部活?」

「今日は休み」

 一応、俺はサッカー部に所属している。

 のだが……

「さすがサッカー部補欠なだけあって休み多いね」

 俺の高校のサッカー部はまあまあ強いというのもあって、あまり上手くもない俺はずっと補欠だ。

「しょうがないだろ、周りの奴が上手すぎるんだよ」

「遥希は昔から球技はできないもんね」

「足が速いからって理由で入部したら後悔したわ」

「あはは、遥希らしいや。部活休みなんだったら一緒に帰ろ!」

「別にいいけど……ちょっかいかけてくんなよ?」

「分かってるって!」

 分かってない表情だよな、それ。

 毎回「するな」って言ってもちょっかいをかけてくるから半ば諦めている。ちょっかいをかけるのが本能みたいなもんなんだろうな。

「あ、ごめん、日誌出すの忘れてた。ちょっとだけ待っといて」

 これ出しとかないと次の日も日直やらされるから、出しとかないと面倒なんだよな。

「うん、わかった!じゃあ先に下駄箱行っとくね!」

「りょーかい」

 俺は少し速足で職員室へ向かう。

「めんどい……」

 書き忘れていた俺が悪いけど、面倒だ。

「失礼しまーす。二年の西崎です、田口先生いらっしゃいますか」

「はいはーい」

「あ、これ。日誌出すの忘れてたので」

「はいはい。じゃあもらっとくね、気をつけて帰ってね」

「はい。失礼します」

 そう言って職員室を去ろうとした時、後ろから声をかけられた。

「お、遥希。今日も神織の相手か?」

 こいつは菅浩太すがこうた。同じ部活でエースだ。

「まあ、そんなとこだな」

「お勤めご苦労さん。毎日のように大変だな、ゴールデンウィーク明け早速だし」

「菅の方が大変だろ、毎日部活ばっかで。ゴールデンウィークもがっつり部活だったろ」

「がっつり部活だったよ。やっぱりエースってのは疲れるわ。ちょっとぐらい休みをくれたっていいのにな」

「俺はベンチでよかったよ。今日も休みだし」

「いいなぁ」

「まあ暇すぎるのも微妙だけどな」

「暇すぎるのもあんましか」

「そうだな」

「ま、お互い大変なことはあるってこった。じゃあ俺ももう行かないとだから、またな!」

「おう、頑張れよー」

 同じ部活なのに正反対の生活をしている俺は……まあ、気にしてもしょうがない。

 そうして菅と別れた俺は階段を駆け下り、靴を履き替えて水葉の元へ走る。

「水葉、帰えるぞー」

「意外と早かったね」

「日誌出すだけだからな。あと、今日は寄り道とかは無しな」

「えーだめ?」

「課題が死ぬほどあるんだ、勘弁してくれ。ほら止まってないで帰るぞ」

 ゴールデンウィーク課題を消化してしまわないと。明日はとりあえず国語と英語だけ提出できればいいからその分だけ帰ったらやろう。

「課題やってないの?」

「やってないよ。あんなの一週間で終わるわけがない」

「なんと! 私はちゃんと終わらせてます! 優等生ですから!」

「あーすごいすごい」

「適当だなぁ……ちょっとぐらい褒めてくれたっていいのに」

「いや、課題はやるもんだろ」

「遥希には言われたくないんだけど」

「俺はいいんだよ」

「よくないよ、ちゃんと課題はしないと」

 馬鹿そうに見えて意外とこういうところは真面目なんだよな、こいつ。

「その課題を今から帰ってやるんだ」

「不良だ。昔はあーんなに優しくてかっこよかった遥希が不良になっちゃった」

「別に不良でも何でもない。あと俺はそんなできた人間でもない」

「え~?あんなに必死に私を守ってくれたのにー?」

「そんなことあったっけ……?」

 そんな記憶ないぞ……?

「『水葉、俺はもうダメみたいだ。このままここにいると魔界の奴らに襲われる、だから水葉、俺を置いて早く逃げるんだ……!俺はここで塵となり水葉を守る……!』とか言って守ってくれたのにな~」

「おま、なんでそれまだ覚えてんだよ!しかも完璧に覚えてやがるじゃねえか!」

「あれはかっこよかったな~。今でも鮮明に覚えてるぐらいには」

「い、今すぐ忘れろ!早く!」

 なんでまだそんな黒歴史覚えてやがんだ……!

「あ、ちょっと痛い!頭つかまないでー!暴行!暴行だよそれ!」

「忘れろって言ってんだ!」

「分かったから!忘れるから!」

 すっと頭から手を離す。

「……忘れたな?」

「忘れました」

「よし、ならいい」

「……結構痛かったんですけど」

「それはごめん。けど、わざわざあれを掘り返してくるお前も悪い」

 もう思い出したくもない。

「でも私が言い終わるまでしっかり待ってたじゃん」

「それは……なんとなく」

「そういう暗黙の了解的なのは守るんだね」

「うん、今めっちゃ後悔してる」

 なんで全部言わせたんだろ、俺。

「そういうとこ、好きだよ」

 どういうとこだよ。ただ好きって言いたかっただけだろ。

「そうやって言ってくるとこ、俺は嫌いだぞ」

「もう、素直じゃないんだから~」

 そう言いながら水葉が肩を寄せてくる。

「おい、そんなにくっついてくるな」

「好きなくせに~」

「勘違いされるからやめろ」

「私は別に勘違いされちゃってもいいんだけどなー?」

「俺がよくないからやめろ」

「やめませーん」

 はぁ……やっぱりこうなるのか。ちょっかいというより過度なスキンシップだなこれじゃ。毎日これだからとっくに慣れたけども。

「はぁ……」

「ため息ついたら幸せが逃げていきますよー」

「お前といるだけで逃げていくから変わらん」

「え、ひどくない?」

「ひどくない」

 こいつのおかげで俺には女子がよりついてこない。完全に付き合っていると勘違いされている。

「泣くよ?」

「勝手に泣いとけ」

「ひどーい!」

「事実だし」

「そんなに女子にモテたいの?」

「そりゃあそうだろ」

「そっか……」

「まあでも、モテてもお互いがちゃんと好きじゃないと意味ないけどな」

「それってモテる必要あるの……?」

「無いな」

「だよね」

「うん」

「なら安心」

「……? 何が安心なんだ」

「それは分からなくてもいーよ」

「そ、そうか」

 どういうこと……?

「ほら、立ち止まってないで歩くよ」

「ああ、ごめん」

 その後、いつもより多く水葉にちょっかいをかけられた。


 ◇ ◇ ◇


「疲れたー!」

 家に着いた瞬間にベッドへダイブ。最高だ。

「はぁ……」

 あいつの相手をするのは本当に疲れる。どうしてあのテンションでずっと元気でいられるんだよ……そこだけは尊敬だわ。

「課題しないと……」

 俺にはまだ山積みのゴールデンウィーク課題が残されている。

 とりあえず国語と英語は済ませないと明日の提出に間に合わない。数学は明後日だからとりあえず今日のところはしなくてもいいだろう。

「水葉に課題見せてもらえばよかったな」

 写真で送れっていうのも図々しいし、真面目にやるか。

 答えははもちろん配られていない。

「自称進学校め……」

 これが中途半端な偏差値の高校を選んだが故の宿命ってやつだな。

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