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第一話 不思議な夢




 あの日からずっと誰かを探し続けている。




「助けて……たすけて、だれか………」

 辺りは暗闇に包まれ、何も聞こえない。

「だれでも、いい…から……」

 非情にも迫ってくる時間。

 ただただ時間が過ぎて行く。

「はや…く………」

 その時が来るのを待つことしかできないのか。

「だ………れ…か、たすけ──────




 二〇〇〇年 五月八日 (月)


「ゴールデンウィーク明けなのに早速学校かよ~」

 俺、西崎遥希にしざきはるきはよくある中堅高校に通う二年生。今日はゴールデンウィーク明け初日の登校日だ。

「ほんとそれな~。遥希はゴールデンウィーク課題ちゃんとやった?」

 そしてこいつは北山大亜きたやまだいあ。一年生の時に同じクラスになって以来、基本的に俺はこいつと行動を共にしている。

「やってるわけないだろ? こんなの面倒くさくてやってられないわ」

「だよな~、俺もやってないわ」

「みんなやってないから大丈夫だろ」

 冷静に考えてたった一週間ほどの休みで課題を課してくるのがおかしいと思う。

「やべ、俺次の授業数学だから移動だわ」

「あ、まじ? はよ行けよー」

 俺は一時間目は自教室で日本史だ。もちろん寝るけどな。

 ……って筆箱忘れてってるじゃんあいつ。

「おい!大亜ー!筆箱忘れてるって!」

 廊下の奥の方にいる大亜に向けてそう叫ぶと、走って戻ってくる。

「すまんすまん。助かったわ」

「おう」

 まったく。慌ただしい奴だ。

「じゃあな」

「忘れ物してくるなよー」

「分かってるって」

 そう言って走り去る大亜を見届けた俺は、自分の席へ戻り教科書を探す。

「日本史は……机の中にあるな」

 教師が来るまでぼーっとしていよう。

 そして数分が経ち、チャイムが鳴ると同時に日本史の教師が教室へ入ってくる。

「よし、授業始めるぞー」

 またそれと同時に皆がぞろぞろと自分の席についていく。

 皆が自席についたところで教師が声をかける。

「じゃあ委員長、号令」

「起立、礼」

『お願いします』

「着席」

「はい、じゃあ今日は室町時代の文化からやっていくからな。教科書の百二十ページを開いて」

 日本史のこの教師、全然面白くないんだよな。

 別に指名してくるわけじゃないからいいんだけど、単純に眠くなってくるんだよな。

「寝るか……」

 眠くなったら寝る。人間だもの。

 そう思い、寝る体制に入った瞬間に教師が注意してくる。

「おーい西崎、さすがに寝るのは早いぞー」

「あ、はい、すいません……」

 別にいいだろ寝てても……点数取ってるんだから、とは思うものの注意されてしまったものは仕方がない。

「えー教科書次のページ行ってー、あと資料集も開いて…………で、これが金閣寺な。これはみんな知ってると思うが…………」

 その後しばらくの間は起きようと頑張った。

 のだが、やはり人間、睡眠欲には勝てない。

「──で、これが……文化の…………であって……」

 次第に声が遠のいていく。


 ◇ ◇ ◇


「んん……?」

 辺り一面に草原が広がっている。

「どこだ、ここ……」

 空を見上げると真っ暗だ。

「夜だな……」

 さっきまで教室にいたはずなのに……どうして俺はこんなところにいるのだろうか。加えて、なぜか体が《《ピリピリ》》する。

「星がよく見える」

 普段はあまり見れない星空に俺はしばらく見とれていた。

「……って星に見とれてる場合じゃないな」

 ここがどこなのかを突き止めるのが先だ。そう思って改めて辺りを見回してみるが……

「何もないな」

 星が見える以外には本当に何も無い。あとは草原のみ。

「不思議な感じだな……」

 ここの空間はどうも妙に神聖さを感じるというかなんというか、とにかく言葉には言い表せないが不思議な感覚だ。

「一旦状況整理でもしてみるか」

 こういう時は冷静になって物事を考えることが重要だ。って誰かが言ってた気がする。

 目を覚ますと辺り一面に草原。そして俺は急にここに現れたということ。俺は高校生で今日は平日だったはず……ということは今頃は授業を受けていたはず……ってことはこれは夢か?夢なのか? だとすると……

「困ったな」

 一向に夢から覚める気配がしない。

「とりあえず歩いてみるか」

 困ったときは辺りを散策だ。ゲームの世界なら大抵何らかのヒントがあるし、夢でもそれは一緒だろうという理論だ。

「果てしないな……」

 どうやらこの草原は地平線の遥か彼方、ずっと向こうまで続いてるみたいだ。そう分かっていながらも、行く当てのない俺は草原をまっすぐ進んでいく。

「早く誰か起こしてくれよ~」

 いつもなら授業中に寝ていたら誰かが起こしてくるのだが、こういう時に限って誰も起こしてくれない。いや、寝ている俺が悪いんだけど。

「ん?あれは……」

 しばらく歩いているうちに、遠くのほうに海?が現れ始めた。

「なんでこんなところに?」

 果てしなく草原が続いているものとばかり思っていたが、どうやらそうではないらしい。

「結構遠いな」

 少し歩いたぐらいじゃ届かないほど離れているみたいだ。

「走ってみるか」

 海に向けて俺は颯爽と走り出した。

 しかし、走れど走れど海は近づいてこない。

 そうして走り続けてどれくらいが経っただろうか。一時間?二時間?いや、それ以上か。分からないぐらいには走り続けた。

「あとちょっとだ」

 ずっと走り続けているというのに、《《なぜか》》疲れはやってこない。

 これが夢の力ってやつか。

「やっと着いたー!」

 やっとのことでたどり着いたそこに広がっていたのは、果てしなく続く海と砂浜。

「おお……」

 思わず見惚れてしまうほどに透き通った海。まず都会じゃ見られない綺麗さだ。

「ちょっと休憩しよう。どうせ動いても何も変わらないだろうし」

 俺は海を眺めながらぼーっとする。

 何も考えずにぼーっと。

 ぼーっと。


 ◇ ◇ ◇


「……………きろ……起きろ…おい、遥希、遥希!」

「……はぁ?」

「はぁ? じゃない。もう授業終わったぞ。寝すぎだ」

「ああ、大亜か。すまんすまん」

 さっきの夢は一体……? あそこで俺は一体何を?

 忘れた。

 ただ、ものすごく疲れたような気がするだけだ。

「思いっきり寝てたな」

「いや、日本史が興味なさ過ぎてマジで眠くなるんだよ」

「じゃあなんで日本史選択したんだよ」

「それしかなかったんだよ。数学はできないし」

「まあ、この学校控えめに言ってクソだしな」

 自称進学校在学生の宿命である。

「で、どんな夢見てたんだ? あれか、水葉と夢の中でイチャイチャしてたのか?」

「してるわけねえだろ」

 水葉みずはこと、神織水葉かみおりみずはは俺の幼馴染である。

「あいつ、お前のこと絶対好きだって」

「だからそれはないっていつも言ってるだろ。だいたい、あいつとは十何年も一緒なんだし、好きだったらもう言ってきてるだろ」

「おーおー、ひどい言い方をするな遥希は」

「お前がからかってくるからだろ」

「ごめんって」

「……で、次の授業なんだっけ」

「次は体育だな」

「あ、じゃあ更衣室行かないと」

「今日は体力テストらしいから鉛筆忘れんなよ」

「おっと、忘れるとこだった。さんきゅ、大亜」

「おうよ」

 着替えるために更衣室へ向かおうと教室を出ると、誰かがこちらへ向かって走ってきた。

「はーるき!」

 そう言って俺の脇腹をつついてくるこいつが、

「水葉、それやめろって言ってんだろ」

 さっきも言った幼馴染の神織水葉である。

「えーいいじゃん別に」

「こそばゆいんだよそれ」

「だからやってんの!」

「はぁ……まあいいわ。はよ更衣室行けよ」

 隙あらばちょっかいをかけてくる……これがいつもの光景である。

「もうちょっとかまってくれたっていいじゃん」

「次体育なんだから仕方ないだろ。ほら、お前も早く行かないと授業遅刻するぞ。じゃあな」と、俺は突っぱねるように言って歩き始める。

「……」

「なんでついてきてんだよ」

「……けち」

「けちってなんだよ。女子更衣室はあっちだろ」

 俺の学校の更衣室は男子と女子とで場所が結構離れている。謎なところだ。

「遥希がかまってくれないのが悪い」

「遅刻するぞ、ほんとに。時計見てみろ」と言って時計を指さす。

「え?……っあ、やばいあと五分しかない!」

 そう言うと水葉は走り去っていった。

「……バカだろ、あいつ」

 いつものことだから慣れたけど、改めてバカだと思う。

「だな」

「会うたびにちょっかいかけてくるのはいつになったらやめてくれると思う?」

「多分やめないだろ」

「あぁ……ガキだ」

 高校生にもなってあのスキンシップはやめていただきたい。周りの目もなかなかしんどい。



 今日も疲れる一日になりそうだ。

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