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プレイフォー  作者: 長滝凌埜
巫女編
6/19

インシエルト


 ディルク達はグリフェンスバーグを下山し、ヴァルカースの家に戻ってきた。せっかく食糧を集めに行ったのに、トラブル続きで成果はゼロ。代わりに手に入れたのは、意識朦朧の貿易商だけだった。ディルクは背中で呻いている商船長をリビングのソファーにゆっくりと降ろした。

「ここは?」

 船長はうっすらと目を開けてかすれた声で言った。

「大丈夫、ここに居れば安全です。夜が明けてから話を聞かせてもらいますので、ゆっくり休んでください」

 船長が目を閉じてから、廊下に出る。

「へぇ、ちゃんと敬語が使えるんだな」

 イリヤが自分の部屋の扉にもたれ掛かりながら声を掛けた。

「初対面で蹴られたりしない限りは、な」

 一度止めた足を前に出す。

「どこに行く気だ? まさか自分から牢に入ろうってわけじゃないだろ」

「そこ以外にオレの居場所があるのか?」

 イリヤはポケットから銀の鍵を取り出し、ディルクの足下に投げた。

「牢の右の部屋だ。物置になってるが、好きなように使え。壁に穴は開けるなよ」

 ディルクに背を向けひらひらと手を振って、イリヤは自分の部屋に入っていった。足下に落ちている鍵を拾い、ディルクは廊下の突き当たりを左に曲がった。

 右にある白い扉の端っこの小さな穴に鍵を差し込み、捻る。部屋の中は薄暗く、ひどく埃っぽかった。真ん中に段ボール箱が積み重ねて置いてあり、壁の棚には用途不明の品々が並んでいた。

 ディルクは寝るスペースを作るために四つん這いになって段ボール箱を横に押した。箱の山は途中にあった壁の出っ張りにぶつかり、ディルクの上に雪崩れ込んだ。ディルクは段ボール箱の側面を殴るも、凹むだけでどきはしない。

「大丈夫か?」

 ディルクは首を上に逸らし、声の主を確認した。声の主のハンスは、車椅子を上手く操り、ディルクの上に乗っている段ボールを退かした。

「歩けないのか?」

 ディルクは立ち上がって、段ボールを揃えながら尋ねた。

「昔ちょっとあってな。それよりお前さんにプレゼントじゃ」

 ハンスは車椅子の後部から黒い長方形のケースを取り出し、段ボールの上に中身を陳列した。

「イリヤからは貰えないじゃろうからな。順番に説明するからよく聞くんじゃぞ。まず、銃を使ったことは?」

「ない」

 ディルクは段ボールに腰掛け、一番右にある拳銃に手を伸ばした。

「勝手に触るな、使い方を知らんじゃろが」

 ディルクが手を膝の上に置いたのを確認してから、ハンスは右の拳銃を手に取る。

「これはVF826という拳銃にわしが手を加えた物じゃ。セミオートで三点バーストだ」

「せ、セミオート? 三点バースト?」

「トリガーを引く度に弾が出るのがセミオートじゃ。三点バーストというのは、一度の発射で三発、弾が出るものじゃ」

「コイツはトリガーを引く度に、三発弾が出るって事だな」

「そうじゃ。装填数は二十一発で、有効射程は五十メートル。金属相手じゃ、あまり意味はない」

 ハンスはディルクにホルスターに入れた二丁のVF826を渡した。

「イリヤは腰と腿に着けておった」

 ディルクはホルスターから銃を抜き、右手でグリップを握った。

「これで敵を撃てる。イリヤを見返してやれる」

「しまっておけ。物騒な、今使う必要はないじゃろうに」

 ハンスはディルクが銃をしまったのを確認してから次に移った。

「これがメインウェポンとなる突撃銃じゃ。WALという銃をベースにしており、セミオートとフルオートを切り替える事が出来る。フルオートというのは、トリガーを引いている間中、弾が出続けるものじゃ」

 ディルクは段ボールの上からWALを持ち上げて、しげしげと眺めた。

「装填数は四十発、無駄使いしてると直ぐに弾切れを起こすから、気を付けるんじゃ」

 ハンスは袖からナイフを取り出した。

「で、最後にこのナイフじゃが、柄のスイッチを押すと、刃が飛んでいく。武器の使い方はイリヤの技を盗むか、教えて貰うかするといい。わしはうまく扱えんのでな」

 ハンスはナイフをケースに入れて、ディルクに渡した。

「じゃあ、おやすみ」

 ハンスは車椅子を操作して部屋から出て行った。ディルクは並べられた武器をケースに押し込み、異色の棚の上に置いた。そして段ボールを並べ台を作り、その上に寝転がった。ディルクは空腹と疲労を紛らわすために目を閉じた。


 翌朝、太陽が顔を覗かせる前――もっとも太陽が顔を覗かせても視認出来るのはたまにだけなのだが――ディルクは段ボールの上から落ちて目を覚ました。

 周りを見て夜明け前だと理解して、再び微睡(まどろ)もうとしても、腹の虫が邪魔をして上手く休む事が出来ない。仕方無くディルクは起き上がり、部屋の整理を開始した。段ボールを一つずつ部屋の隅に運び、自由な空間を少しずつ広げていく。部屋の真ん中に何もなくなると、無機的な部屋が出来上がった。

 ディルクは部屋の真ん中に寝転がって部屋を見渡した。段ボールの壁に向かって異色の棚。その棚の上の昨日乗せた黒いケースが目にとまった。ディルクはケースを棚から下ろし、ホルスターを一つ腰に着けて部屋の外に出た。廊下を真っ直ぐに進みガレージを通過し、裏手から外に出る。外は肌寒く、ディルクは身震いした。

 ディルクは落ちていた錆び付いた空き缶を、適当な高さの瓦礫の上に置いて距離をとった。ホルスターから拳銃を抜き、コルスカンドでみたテレビなどの記憶の見様見真似で構える。

 引き金を引くと、予想以上の反動と爆音と同時に、弾が遙か彼方に飛んでいった。

「ダメダメだね」

 ディルクの後ろから街の浮浪者らしき男が声を掛けた。男は見た目、童顔で背が低く幼い感じがする。しかし,周りの空気からしてディルクと同い年、下手したらそれ以上の感じだ。それ以外の特徴と言えば、地面につくほどの長さの垂れを持つバンダナを首に巻いている事ぐらいだ。

「銃は玩具じゃないんだよね」

 男はディルクから銃を取り上げ、それを少しいじってから、缶の中心を射抜いた。銃のたしなみは明らかにディルクより上だ。

「まともに扱えないなら撃たないほうがいいよ。それと、夜明け前から消音器(サイレンサー)も付けないで、近所迷惑というものも考えたほうがいいよ」

 そしてディルクに銃を返した。

「誰だ?」

 ディルクは銃をホルスターにしまいながら聞いた。

「ぼく? そうだな……インシエルトでいいや」

「いいやって、お前。……どうしてここにいるんだ?」

「朝からウルサくされたら誰でも起きるよ。流れ弾がぼくらみたいなのに当たったらどうする気?」

 インシエルトと名乗った男はディルクに背を向け歩き始めた。

「ついておいで。そこじゃ練習するには不向きだよ」

 ディルクはインシエルトについて行って岩場に到着した。岩には幾つもの(サークル)が描かれていて、それにはたくさんの弾痕があった。

「ここは?」

「イリヤって人の事知ってる? その人がここでよく練習してるんだ。

 あの円を撃ってみてよ」

 ディルクはホルスターから銃を抜き、目の前の円に向けて片手で構えた。トリガーが引かれ、弾が円のかなり右に新しい窪みを作った。

「初めてでももっと円に寄るよ。銃を使うのは止めたほうがいいんじゃない?」

「そういえば、何でこれ一発しか出ないんだ? さっきより反動も小さい気が……」

「三点バーストの機能をオフにしたって言ってわかる? 的に当たらないなら三点バーストは弾の無駄使い機能にしかならないし、いくら弾が安く作れるからって無尽蔵な訳じゃないよ」

 ディルクはそれを聞いて再び的に狙いを定めた。

「撃つのは待ってよ。それじゃ、さっきと同じだし。まず、片手で撃とうとしちゃだめ。それに足も肩幅に開いて、重心も下げる。まずは安定した体制で撃つことだけを考えて」

 ディルクは言われた通りに構え、次の指示を待った。

「……何してるの? 撃たないとどこが悪いか解らないよ?」

 ディルクは再び円の右側を穿った。

「本当によく狙ってる? 銃に付いてる凹凸は飾りじゃないよ」

 ディルクは銃を眺め、前方の凸型と後方の凹型の溝に目を向けた。

 飾りじゃなかったんだ。

「いい? まずは前の出っ張りを円の中心に合わせて。それで、後ろの溝の間に出っ張りが見えるようにして、狙う」

 ディルクは言われた通りに射出し、円の外郭に命中させた。

「あとは……トリガーを引くときの手のブレを修正するだけだね。とりあえずは」

 インシエルトはディルクから離れた位置の手頃な岩に腰掛けた。ディルクは円に狙いを定めた。



   ▽   



 ディルクが弾を撃ち尽くした頃には、人々が活動を開始する時間になっていた。例にもれずイリヤ達も活動を開始するわけで、イリヤが火器のケースを持ってやって来た。

「何でここにいる?」

 イリヤがディルクの姿を見て、驚いていた。

「いや、インシエルトっていう長いバンダナをした奴にここで銃の練習をするといいって言われたから……あれ?」

 ディルクは周りを見渡すもインシエルトの姿はどこにもない。

「インシエルト? そんな奴聞いた事ないぞ?」

 その時、イリヤは連絡が入ったようで耳を押さえた。

「ハンスから連絡が入った、船長が目を覚ましたらしい。俺は戻るが、お前はどうする?」

 イリヤはディルクの返事を待たずにケースを持ち、来た道を引き返した。ディルクはその後に続いて行った。


 家に戻るとハンスとレアが船長の周りにいた。

「昨日は大変お世話になりました。空賊に襲われた所を助けていただいただけでなく、他の乗員の介抱までしていただいたそうで……」

「そうなのかイリヤ?」

 ディルクの驚いた顔を無視して、イリヤは話し始めた。

「気にしなくてもいい。オレはこのヴァルカースの自警団のイリヤ・アーベルだ。お前達は?」

 イリヤの名前を聞いた船長は、眉をひそめ口を歪めた。

「私はサウスバデータの国選の貿易の任を承った、ステーン・アスペルと申します。私達はコルスカンドからの物資を受け取りに行く途中だったんです」

 その表情がなかったかのように船長は話した。

「コイツを巫女様って呼んだのは何故だ?」

 イリヤはレアの頭の上に手を乗せた。

「巫女様は巫女様です。私の国では三年前、巫女様が行方不明になったのです。巫女様は失踪なさる前は(まつりごと)に助言をして下さってました。巫女様のおかげで我々の国が今まで保てていたのです」

「だから近頃は、国が傾いて来たってわけか」

「そうです」

 イリヤはレアを連れて部屋から出て行った。ハンスも部屋から出て行き、ディルクと船長だけが部屋に残された。

「君も昨日私を運んでくれてありがとう」

 船長が居心地の悪い静けさを破った。ディルクは一瞬反応に遅れるも、小さく肯いた。

「さて、君をどこかで見た気がするんだが、会ったことはあるかね?」

「いや、俺は会ったことはない……と思う」

「自分の事なのに曖昧な答えだね」

「……昔結構でかい事故に遭ったらしくて、その事故から前の記憶がないんです。事故の事も靄がかかったみたいでよく思い出せないし。事故の傷跡はあるので見ますか?」

「いや、遠慮させてもらうよ。それよりも一つ訊きたいことがある」

 船長が質問しようとした所で、イリヤとレアが戻って来た。

「訊きたいことって?」

「いや……後にしよう」

 イリヤはディルクを一瞥してから、話を再開した。

「さっき、ハンス、うちの技術者が船を直せると言っていた。数日もすれば帰れるようになるだろう」

「何から何まで、すみません」

 船長は立ち上がり、深く頭を下げた。

「それと、巫女様の件だがコイツは何も覚えてないと言ってる。残念だが、人違いだ」

「そんなはずは……そうだ! 我々の国に来てみてはいかがでしょう? きっと思い出すはずです」

 イリヤは少し考えてから口を開いた。

「せっかくだが、断らせてもらう」

「エーッ!」

 レアが大声で異を唱えた。

「何で? せっかく、空に連れてってくれるっていうのに。どうしてわたしが空に行きたいって知ってて反対するの? こんなチャンス二度と無いかもしれないんだよ?」

 レアは涙目になって抗議する。

「隣で大声を、うるさい。空中都市は危険だ、最近は反空ゲリラのデュスノミアの活動が活発になってる。いつ、攻撃されるかも解らないんだぞ。それに、お前一人で行かせられるわけないだろ。」

「ディルクがいるもん」

「この役立たずがか? ……フッ」

 イリヤに鼻で笑われ、レアは俯き黙ってしまった。

「何で反対するんだ? イリヤが行けばいいじゃないか?」

 ディルクがレアとイリヤの間に入った。

「オレは有名人だから、目立つんだ。空中都市に顔を出した日なんか大騒ぎだ。お分かり?」

「有名って俺はイリヤの事知らなかったぞ?」

「自分の無知を公言して楽しいか? コルスカンドでも知られてたら、その真下にあるヴァルカースになんかいられるか? 俺が有名なのはここより南方だ」

「でも、子供の憧れを潰して何が楽しいんだ?」

 イリヤはしばし黙り込み、口を開いた。

「……好きにしろ」

 その言葉を聞いた途端にレアは目を爛々と輝かせ、何を着てこうだの、何を持って行こうだのと呟き始めた。

「では、我々の国に来るということでよろしいですか?」

「ああ」

 イリヤはディルクに付いて来るように言って、廊下に出た。向かいにあるイリヤの部屋を通って武器庫へと入る。

 そこは他のどの部屋よりも広かった。棚には丁寧に磨かれた銃が鈍く輝き、研ぎ澄まされた刃は、所狭しと箱に詰められている。

 イリヤはナイフの詰められた箱を横にずらし、その下の古ぼけた木箱の蓋を開けた。

「これを情報表示端末(インパース)に付けろ」

 イリヤは木箱から通信機を取り出した。

「付けたら、音声入力でコード1982」

 ディルクは言われた通りに腕の情報表示端末に接続した。

「これで緊急時に連絡が取れる。緊急時以外は使うな、鬱陶しいから」

 イリヤは更に小さな巾着袋を取り出した。

「これは?」

「昨日使った球が幾つか入ってる。黒い方が催涙効果を持つ煙幕。黄色の方は音と光で三半規管を攻撃する。その中でも角張ってる物は、電磁パルスも放出して、機械を使用不能にするものだ」

 ディルクはそれをベルトに結い付けた。

「それと、銃弾」

 イリヤはディルクの手のひらに直方体の箱を三つ置いた。

「さっき、使ってただろ」

 そう言ってイリヤは、ディルクを部屋から追い出した。ディルクはとりあえず、自分の部屋に戻った。そして手の上の箱を床に置いた。弾を銃に詰めるために、一番上の箱の蓋を開けると、中にはゴーグルが入っていた。

 イリヤの物に形はそっくりだが、レンズに色が入っていない。早速それを装着すると、内蔵されたディスプレーが正常に作動し、周囲の状況を細部までハッキリと映し出す。さらに、視線を辿り、その部分をマクロで表示した。

「あいつ結構良い奴じゃん」

 ディルクが周りをキョロキョロと見回すと、棚の上に置いてある、緑色の気色悪い目玉がアップになった。とっさにゴーグルを頭に押し上げた。残りの二つの箱の中には、正真正銘、銃弾が入っていた。ディルクはそれをホルスターから取り出したマガジンに込めた。そして、箱の蓋を閉じた。


 一週間後。

 商船員達が目まぐるしく動き回り、船とイリヤの家とを行き来し、荷物を積んでいく。大体の荷物を積み込んだ所で、船長がディルク達、三人の前に出て来た。

「巫女様、乗船の準備が出来ました。どうぞ、乗って下さい」

 船長が船の入口に立ち、入るように促した。レアが走って船の中に入り、それに続いてディルクとイリヤが乗り込んだ。

 船が浮かび上がり、サウスバデータへの航路を進み始めた。


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