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プレイフォー  作者: 長滝凌埜
プロローグ
4/19

時に流るる都市(3)


 イリヤはガレージへ愛車を取りに向かった。

 そこには大型のバイク型と大型の搬送用の車両が置いてあった。イリヤは全体的に赤褐色で統一されているサイドカーが取り付けられているバイク型のものを作動させた。ガレージ内に独特の高音を響かせ浮かび上がる。

 それは十年程前に拾ったバイクをハンスが改良したもので、空ではなく地上を走るために磁性ユニットを取り付け、磁力の斥力で浮遊し走行する。空を飛べない代わりに、地面と一定の距離を保ち続ける事が出来るので、悪路が多い地上では磁性ユニットが主流となっている。

 イリヤはサイドカーに三つのケースを積み込んだ。そして、バイクに跨ると玄関へとバイクをまわし、レアを呼びに行った。

「レア、準備が出来たから行くぞ」

 レアはハーイと返事をし、奥から走ってやって来た。続いてハンスもやって来た。

「イリヤ、ついでにディルクも連れてってやってくれ」

「何で?」

「命の保障さえしてくれれば、好きにしてくれて構わん。駄目か?」

「……分かった」

「じゃあ、よろしく頼むよ」

「ああ」

 ハンスは姿を消し、その後からディルクが現れた。

「レア、先に乗っててくれ。お前は付いて来い」

 イリヤはガレージへと戻った。

「……どこにしまっといたかな?」

 イリヤは頭を掻き、乱雑に積まれている荷物の山に頭から突っ込んだ。

 しばらくガサガサと埃を巻き上げていたが、ついに頭を出し、一枚の板を手に持っていた。

「ホバーボードに乗ったことはあるか?」

「ホバーボードって、遊ぶアレ?」

「そうだ、そのアレ」

 ホバーボードは一見ただの板切れだが、反重力装置もしくは、磁力で宙に浮いており、地面を蹴ると進み、一定の周期でブームになる、空中都市の遊び道具である。更に推進装置を付けることで、空中の移動を自由にする事が出来る。

「乗ったことはあるけど、トリックは出来ない」

「誰も、お前にトリックを披露してもらおうなんて考えてない」

 イリヤはホバーボードと黒い紐を持ちガレージをあとにした。

 家の前に戻ると、バイクに跨がったレアが退屈そうに欠伸をしていた。

「イリヤ、その人、誰?」

「こいつは昨日落ちてきた奴だ」

「本当に!? わたしはレア。よろしくね」

「ディルクだ。こっちこそよろしく」

「挨拶なんていいから行くぞ」

「ハーイ」

 イリヤはサイドカーに先程の黒い紐を結び付けると、ディルクの脚をホバーボードに固定するように言った。

「いいか?この紐を絶対に放すなよ。放したら死ぬぞ」

「え?」

 困惑するディルクに紐を押し付け、ディルクはバイクに跨った。バイクが推進装置特有の高音を奏で始めた。イリヤはゴーグルをレアに着けるように促し、ゆっくりと発進させた。バイクはどんどん速度を上げ、時速百五十キロでスピードを維持した。

「イ、イリヤッ、速すぎーっ!」

 ディルクが目を開けていることが出来ず、悲痛な叫びを上げたがイリヤ達の耳には届かなかった。ディルクは紐をギュッと握り直した。



   ▽   



 ヴァルカースの北に位置するグリフェンスバーク山脈の麓でバイクは停止した。バイクから降りたイリヤにディルクが噛み付いた。

「オイ、イリヤ! 死ぬとこだったじゃないか」

「死んでたな、手を放してたら」

「法定速度って言葉知ってるか?」

「知ってはいるが、地上(ココ)にはそんなものない。地上は秩序の無い世界だからな」

 ディルクは歯軋りをして唸り始めた。

「レア、ケースを全部下ろしてくれ」

 イリヤはレアに運ばせたケースを全て開き、中からナップサックを取り出し、必要な物を適当に詰め込み、ディルクに投げた。

「ここからはお前と俺達は別行動だ。必要になりそうなものは粗方入れておいた。それと……」

 イリヤは腰に付けていたホルスターを外し、ディルクに渡した。

「何かあったら使え。弾は入ってるだけしか無いから、無駄撃ちはするな」

 それだけ言い残し、イリヤはケースを持ちレアを連れて山の中へと入っていった。

「たく、滅茶苦茶な奴だな」

 こんな所に置き去りにするなんて信じられない。ディルクはホルスターを腰に付けナップサックを担ぎ、山の中に入っていく。

 木が鬱蒼と生い茂り、ぬかるんだ地面にはたくさんの大小様々な動物の足跡が残されていて、陽光が注ぐ所には我先にと植物達が葉を伸ばし、貴重な光を浴びようとする。ディルクは近くにある木から小さな赤い実をもぎ、口の中に放り込んだ。が、すぐに吐き出した。

「これも酸っぱいな」

 ディルクはこれも必要な食糧だと思い、ナップサックから取り出した折り畳み式の籠に幾つか投げ入れた。そしてまた奥へ奥へと、歩みを進めていった。

 その後を茂みを揺らしながら、何かがついていったのを彼は知らない。



   ▽   



「ねぇイリヤ、さっきの子、一人にしちゃって良いの? あの子、噂の堕ち人でしょ。まだ地上の事、何も知らないんじゃないの?」

 レアがイリヤのポケットから顔を出している小さな翼の生えているオナガトビネズミを見ながら尋ねた。

「大丈夫だろ。食べられるものは麓の方にしか無い。いくら無知でも、獰猛な奴らがいる山頂の方は、危ない雰囲気を出してるから流石に行かないだろ」

「それもそうだね。あれ、タクトがいない」

 レアは両手に一匹ずつ、オナガトビネズミのショウとリオンを握りながら、二匹の子どものタクトを探し始めた。

「そこら辺にいるだろ? アイツは寂しがり屋だから親から離れたがらない。

 ショウ、ディルクの様子を見てきてくれ」

 イリヤはショウをレアから取り上げ、空へと放った。

 空へと二、三度はばたき姿を消したのを確認して、荷物を持ち上げ歩き始めた。その後をレアがついて行った。



   ▽   



 射し込む光がわずかに傾き、背中の籠の中も色とりどりの木の実に満たされてきた。ディルクはナップサックから鉈を取り出し、手近な細い木を切り倒しそれに腰掛ける。

 ナップサックから小さな箱に入れられたサンドイッチを取り出し口に運ぶ。

「……ん、まだましな味だな」

 あっという間に平らげた一片のサンドイッチは空っぽのお腹には十分だった。デザートとして、収穫した中でも比較的甘めの果実をかじった時に、葉がざわめく音を聞いた。

 音のした方へ振り向くとそこには、二足で立つ熊がいた。普通の熊とは違う熊。大きさは目測で二・五メートル、左右で非対称な不格好な長い腕に大きな鋭き爪。

 焦げ茶色の毛で覆われた大きな体躯どおり、通ってきたであろう道は、木の枝が折れ爪跡が残っていた。

 ディルクは数歩後ずさりし、ホルスターの留め具を外しリボルバータイプの銃を覚束ない手で構える。銃身が震え、照準もままならない内に引き金を引く。

 カチッ。…………カチッカチッ。

「えっ、何で……弾が、あれ?」

 右手の向きを変え、銃を上から下から全体を無意味に観察する隙に、熊は体躯の三分の一程もある右の爪を振り下ろす。とっさに身を伏せ、軌道から急所を逃すと、空を裂いた爪は触れた木は勿論、僅かに触れなかった木にまで傷を付けた。

 ディルクは血の気が引いたのを感じ、ナップサックを引ったくり、無我夢中に来た道を引き返した。熊は自らの爪を前盾とし障害をものともせずに、その体躯では想像できない速さで追ってくる。ディルクはナップサックを漁り身を守る方法を模索しながら逃げ続けた。



   ▽   



「……反応した」

 イリヤがそう小さく呟いたのを、レアがすかさず疑問符付きで繰り返した。

「ショウに付けてるレーダーに飛行物が幾つか反応した。五、いや六機か」

 イリヤがゴーグルの中に映し出された分布図を見て言った。

「見たところ空賊。貿易船狙いだから物資調達の良い機会だ」

 イリヤはレアの手を引きレーダーの示した山頂の方へと向かった。

「イリヤ、ケースがブルブルしてる」

 レアは突然の振動をイリヤへと伝え、ケースを投げつけた。

「投げるな、ばか」

 イリヤ投げつけられたケースを片手で軽々と受け止め、地面へ置き中身を漁った。そして目的の銀色の小さな丸い物体を手に取り振動を止めた。

「何、今の?」

第一摧滅群ファースト・クラスターが始動した合図。要するに、危ないから離れろって事」

 頭に疑問符が浮かんでいる少女に分かり易い説明を付け加える。

「危ないの?」

「此処じゃないから大丈夫だ」

「じゃあ、おこぼれを貰いに行こっ!」

 レアは爛々と輝かせた目で先へと進んでいった。

「……アイツに何かあったな」



   ▽   



 ディルクが無我夢中で走っているその前から、迷彩色の小さな蠢く集団が迫ってきた。それらは小さな楕円形に六本の足を生やし、その体の上に上に細長い筒が付けられている。大袈裟に例えるなら、迷彩色のゴキブリが群を成しこちらに向かっている、といった感じである。

「保護対象を確認。攻撃対象を確認するまで待機」

 突然の機械的な音声に体をビクリと硬直させた隙に、周りを迷彩ゴキブリに囲まれてしまった。数秒の後に熊が木を薙ぎ倒し、その巨体を現した。

「攻撃対象を確認。両翼を展開し動きを制限」

 その瞬間に、周りを囲んでいた迷彩ゴキブリは熊の前方を塞ぐ壁となり、上部の筒より弾丸を射出し攻撃を開始した。

 いきなりの弾幕にも熊のスピードは僅かに衰えただけで、血しぶきを上げながら迫り来る。熊がそのままゴキブリの壁に突っ込んだ。するとその体躯に触れた迷彩ゴキブリは爆発した。

 炎を伴わない衝撃だけの爆発。爆発というよりは周囲を巻き込む威力の破裂。それが熊の毛が触れた全ての迷彩ゴキブリで起こり、熊を後退させ、更には巨躯を宙に浮かしたのだ。

 周囲のゴキブリは衝撃で隊列を崩すも、壊れてはおらず、直ぐに後方のゴキブリと合流し先ほどの壁を再形成した。

 体中に穴を開け周囲を赤く染めながら、迷彩色の壁を崩そうと突進するのを繰り返し早数十回、ディルクの顔は先ほどの緊張した面持ちではなくなり、不安と安堵が混じった顔をしていた。

 一回一回の間隔は一定だが、壁の被接触面積はだんだんと小さくなっている。一方、弾幕は衰えを知らず、遂には熊の動きを止めた。

「……や、やった?」

 ディルクは迷彩の壁から顔を覗かせ、熊の様子を確認した。すると突然、ナップサックから一匹の翼の生えたネズミが飛び出し熊の方へとフラフラと飛んでいった。

「えっ……お前危ないって、おい。こっち戻って来いってば」

 ディルクは壁から離れ、ネズミを両手で包み込んだ。

「お前、いきなり出てきて危ないだろ」

 ディルクが壁の後ろに戻るために踵を返すと、死んだはずの熊が大爪を振り上げた。

「攻撃対象が作動。保護を優先、攻撃不可」

 ゴキブリの声を聞き振り返ると空を裂く音が耳に届いた。



 そして肉塊が宙を舞った。




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