セカンドプロローグ
空が黄色く染まり、太陽を完全に覆い隠してしまっているこの時節。地上都市のヴァルカース周辺は乾期を迎えていた。基本的に貧しい地上都市の中でもヴァルカースは群を抜いている。それは、ヴァルカースの上空に空中都市コルスカンドが存在しているからだ。 コルスカンドは時代の最先端をい行く都市であり、多くの製品は地方空中都市に新製品として輸出されるために廃品が少なくなり、地上の技術、資材収集の要である廃品回収が不作に終わってしまうからである。
そのヴァルカースから北西の方角に少し離れた荒野を、二台のバイクが南東の方に向かって並走していた。二台とも地上で主流とされている、タイヤの代わりに磁性ユニットを取り付け、その斥力で浮遊し一定の高さを維持し走行するバイクに砂漠迷彩のカラーリングを施したものだ。二台の違いは大きな箱が乗ったサイドカーが付いているかいないかだけだ。
突如そのバイクの進行方向の地面が盛り上がり、その土が地面に落ちたのと同時に、四つの爪を持つ茶褐色の甲殻に覆われた巨大な蟹が姿を現した。そいつは巨大な爪で地面を抉り土を巻き上げた。
サイドカーが付いている方のバイクが落ちてくる砂壁の前に停止し、他方は速度を上げ砂壁を潜り抜けた。砂壁を通り抜けたバイクに狙いを定めた蟹はそれを目掛けて、二つの爪を振り下ろした。
猛攻を回避したバイクは蟹の周りを走行し、動き回る脚の一つに狙いを定めた。携えた鞘から抜いた反りの小さな刃で斬りつけ、そのまま蟹の体の下を走り抜ける。その軌跡を蟹がなぞるように四つの爪で穴を開けていった。
一度も攻撃を当てられなかった蟹は動き回る方を追うのを諦め、停止している方に狙いを定め直し、四つの爪を威嚇するように大きく上に掲げた。蟹が停止している方のバイクに向かって、土埃を巻き上げながら走っていった。
「ちょっと、あと少し時間を稼いでください!」
「分かってる!」
刀を手にした男は蟹に向かって走り、蟹の脚の一つを切断した。蟹はバランスを崩し、砂上に大きな音を立てて倒れた。そこに砲口が向けられる。停車していたバイクの前にいつの間にか設置されていた砲台の前にいる者が点火した。
「即席だから何の保証もできません」
直後爆音が響いた。射出された砲弾が蟹の爪に命中し、粉々に破砕した。爪と脚を一つずつ失った蟹は戦意を喪失し、地面の中へと潜っていった。
「一体これで何体目だよ」
刀を携えた男が砲台を撤去している所へと移動した。
「もっと早く組み立てろよ」
「これで精一杯です。もっと早くするなら構造自体一新しないと」
男はヘルメットを外し、テンガロンハットを代わりにかぶった。体に付着した蟹の甲羅の残骸を取り除きながら、男は腰を下ろした。
「ここで、すこし休憩してから行こう。ヴァルカースまでまだ少し距離もある」
男は黙々と解体作業を続ける者にそう言って、ヴァルカースの方を向いた。
「いまはあそこにいるんだよな」
「どうせ力は貸してもらえません」
隠れている太陽は空の頂上へと移動していた。