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プレイフォー  作者: 長滝凌埜
巫女編
15/19

エピローグ

 ディルク達は最初に案内された宿に逃げ込んでいた。レアは顔を伏せたまま嗚咽を漏らし、ディルクはレアにどう接しようかと迷い、結果何も出来ずに立ったまま、レアの震える背中を見ていた。イリヤはエリクをレアから離すように、建物の奥へと運び、ソフィーと老婆へと横たわらせた。

「エリクがこんな事になって申し訳ないが、俺にはどうすることもできなかった」

 イリヤはソフィーと老婆に向かい、深く頭を下げた。ソフィーはエリクに寄り添い、涙をこらえながら声を殺し、老婆は目に涙を湛えながら、イリヤに頭を上げるように促したが、それでもなお、イリヤは頭を上げようとはしなかった。

「あんたはよくやってくれたよ。レアを無事に連れてきてくれたじゃないか。それに、エリクにも尽くしてくれた」

 事実、ソフィーの上体がのしかかっており、隠れて確認することはできないが、エリクの腹部には幾重にも包帯が巻かれている。イリヤが逃走する最中に、応急処置を施したものだ。ただ、その処置でエリクが目を覚ますことはなかった。

「本当にすまない」

 イリヤの言葉に老婆がとんでもない、と返した。

「元々この子は三年前に、命を失うと予言された。それでも、その予言から三年も生き存えてくれた。私にとってのこの三年間は、いわばラグみたいなもんさ。いつ終わっても仕方がないことだったんだよ……」

 老婆はイリヤの頭を両手で掴み無理矢理前を向かせると、ポケットから一通の封筒を取り出しイリヤに握らせた。

「これを、レアに渡しておくれ。エリクが書いたものだ」

 イリヤはそれを確認すると、部屋から出て扉を閉めた。扉越しに二人分の泣き声が聞こえてきたが、イリヤはそれを無視した。

 レアが赤くなった目でイリヤを見つけると、立ち上がってイリヤの服につかみかかった。

「お兄ちゃんは……お兄ちゃんは死んじゃったの?」

 イリヤはレアの目を見つめ返し、封筒を渡した。レアが封筒にエリクの名前が書かれているのを見つけると、それを乱暴に開封し中の手紙を取り出した。三つ折りにされた手紙を広げるとレアは熱心に読み始めた。


 僕の唯一の肉親であり最愛のレアへ。

 レア、君がこの手紙を読んでいる頃には、僕はもう君を抱きしめることはできないと思う。だから、君が一人にならないように、君の義姉になっているかは分からないけど、ソフィーとソフィーの母親に君の面倒を見てくれるように頼んでおいた。二人とも優しくていい人だから、君にもきっとよくしてくれるはずだ。

 僕がレアに泣き付かれた時は、一体何事かと思った。いきなり僕が死ぬと言ったときは、悪い夢でも見たんじゃないかと、全く信じなかった。でもそれから先に、レアの言ったことが次々に実現していくのを目の当たりにして、君に恐れを抱いた。今でもそれは悪かったと思っている。そのことを許してもらおうなんて考えていない。だって、家族に怖がられることは何よりも怖いことだと思うから。

 僕は君が召喚されたときに、初めて左目のことを知った。それを埋め込まれた日のことを。

君のその目は相変わらず怖かったけれど、僕の為にその目を使ってくれていたのは感謝している。現にそのおかげで僕は君といられる時間が増えたのだから。

 僕はこれから君の記憶と左目を封印して、君をこの都市から逃がす。この都市は君にふさわしくない。これが最期になるかもしれないから、僕の最期をレアに覚えておいて欲しい。

 君を守ってくれる人がどこかに必ずいる。だから君はその人に出会ったら、離れたらいけない。君の左目が神格連鎖機構である限り、いろんな所から狙われる。僕はいつまでも君の幸せを願っている。

いつまでも見守っているよ、レア。


 レアはその場にへたり込み、箍が外れたように泣き出した。レアの後ろから手紙をのぞき込んでいたディルクをイリヤが連れだって外に出た。

「ここから脱出するための飛行艇を、あいつらから奪ってきた。レアが落ち着いたら帰るぞ。それから、城を燃やしたのはなかなかに良い判断だった」

「あれは、意図したわけじゃないんだけど。なんであそこまで必死になってるのかも分からないし」

「空中都市はその力を誇示し続けなければならない。そうでなければ、地上都市の本当の悪が入り込んだ時に対処しきれない。そのために、力を誇示できなくなったときに、標的になる。

 この場合は、象徴としての城が炎上させられた事によって、都市間会議によって不適合の烙印を押され、世代交代をさせられる事を怖れたのだろうな」

「そうなんだ」

 ディルクはよく分からないといった顔をして閉口した。二人の間をしばらくの間沈黙が包んだ。ふとディルクが、ドアにもたれかかり空を見上げているイリヤに、声を掛けた。

「……何でこんな事になるんだよ」

「余計なことは考えるな。お前も休め。疲れてるから変なことを考えるんだ」

「オレがレアに左目を使うなって言わなければ、エリクは死ななくてすんだかもしれないのに」

「お前がエリクが撃たれる瞬間に間にでも入るのか? 先が見えても行動は変わらない。俺にはレアがどうやってて三年もの間、エリクを生かすことができたのか不思議なぐらいだ」

「それでも何かできたはずなんだ」

 イリヤはディルクの前に移動し、胸ぐらを掴んだ。

「過ぎたことをいつまでも悩んでる暇があったら、どうやって生きるか考えろ。どうすれば生きられるか考えろ。お前はもうのうのうと生きていける場所から堕とされたんだ。今を考えろ。他のことを考える余裕は今のお前にはないはずだ」

 ディルクはイリヤの言うことをおとなしく聞き入れ、下を向いた。

「……イリヤ、オレを鍛えて欲しい。少しでも長く地上で生きられるように、少しでも足を引っ張らなくてすむように」

 イリヤはその言葉に対して何も言わなかった。



      ▽



 いまだに燃える城の敷地内から出た男は、外壁に手をついて歩き始めた。男は侵入者についての悪態を吐きながら、自身を守ろうとしていた。この都市を見捨て他の都市へと移住する。現在の立場は失うが、それでもこの都市にいるままよりも遙かにましだ。

 男はとある一軒の家に入った。そこに隠しておいた一人乗りの飛行艇を目に入れた時に、男の表情が引きつった。その機体の上に一人の男が寝そべっていたからだ。

「お前は誰だ? どうやってここに入った」

 寝そべっていた男は、機体から飛び降りると同時に男に向かって、声を掛けた。

「それはこちらの質問です。どうしてこんな所にいるんですか。世代交代を見届けることにしましょうよ、都王様」

「世代交代が起こるとは決まってない」

 世代交代。文字通り世代が交代することである。空中都市に今いるものを全て処分し、他の空中都市から新しいものを配置する。もちろん人間も含まれている。たいていの人は地上に堕とされ、一部の国へ直接関与した者は、その不手際の責任を取って、クビを飛ばされる。

「そうですね。まだ確定事項ではない。世代交代ですまないかもしれませんし。でも、それならどうして、こんな非常時に逃げようとしてるんですか」

 都王は懐から拳銃を取り出し、引き金を引いた。男のしていた異常に長い首巻きの垂れの部分に穴を開けた。男は首巻きに空いた穴を見て、都王を見据えた。

 次の瞬間には都王が腹を押さえてうずくまっていた。首巻きの男は都王を近くで見下している。都王が右手に握っている銃を男に向けると、男は都王の手を踏みつけ、そのまま都王の手の骨を砕いた。

 男におびえた都王は使い物にならなくなった手をかばいながら、這って壁際へと逃げた。しかし男はそんな都王の背中踏みつけ、動きを封じた。

「こ、殺さないでくれ、頼む、金ならいくらでも払う。だから……」

「今のあなたには何もないでしょうに」

 そういって男は都王を背中から貫いた。炎の影に移った男は、まるで、背中の翼で王を貫いているかのように見えた。男はその翼についたものを振り払うかのようにはためかせた。

 

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