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欺き、そして策を弄する (セオノア視点)

メンテ後がよくわかんない。゜(゜´ω`゜)゜。

「はい。なので事前にお知らせしていたように、予定通り私は婚姻を機に男爵家を辞めて故郷に帰ります。ですからお嬢様の専属執事となり、一生お側で仕える……というお話は辞退させて頂きます。《《今度こそ》》ご了承くださいますね?」


「っ……わかったわ……ずっと私の側にいて欲しかったのだけど……仕方ないわねっ……」


「ご理解頂き、誠にありがとうございます」


「ミナリラ様、《《もちろん、そのお言葉通り》》私たちを祝福してくださいますわよね?」


「も、もちろんですわっ……」


よし。言質は取った。

ルディア、ナイスフォロー。さすがは次期女男爵だ。

内密に動いて貰っていた従姉のルディアの父親である義伯父から借り受けた騎士からも

俺の周りに付けられていた監視が解かれたという報告を受ける。

ようやくあのしつこいご令嬢()を諦めさせる事が出来たのだ。


「いずれはロダン男爵家で召し抱えるにしても、外で修行して見識を広げて来い」

昔から俺に目を掛けてくれている義伯父にそう言われ、ロダン男爵家の紹介で勤めていたブノア家だったが、そこのお嬢様に気に入られしつこく付きまとわれた。

ミナリラお嬢様も平民の俺をさすがに結婚相手にとは望めない……それくらいの分別はあるらしく、せいぜい恋に恋する乙女ごっこ程度で好意を向けられていたのだが……それが急に変わったのはお嬢様の婚約が内定してからだった。


“セオノアを自分専属の執事にして婚家に連れて行きたい”


お嬢様がそんな事を父親であるブノア男爵(旦那様)にお強請りしたのだ。


「私専属(だけ)の執事になって一生側にいて欲しいの」


面と向かってそれを言われた時、お嬢様は《《女の顔》》をしていた。


その時俺は、お嬢様(この女)が本気で俺に惚れていて、結婚後は専属執事と都合のいい銘を打った愛人にしたいと考えている事を悟った。


冗談じゃない。

貴族たちが婚姻後、後継問題をクリアした後に愛人を作る事は知っているが俺には関わりのない事だ。

愛人?ふざけるな。

俺にはとっくに妻にと望む最愛の女性がいるんだ。


アリッサ・リルトン。

古書店で熱心に本を探す姿を何度も見かけた。

その度に本棚に頭をぶつける姿も何度も見かけ、書架の高い位置にあった本を代わりに取ってあげた事から会話を交わすようになった。


アリッサとの会話は面白くて楽しいのだ。

ころころとよく笑い、くるくると表情を変える彼女は本当に愛らしい。


そんな彼女に会いたくて、いつしか彼女に会うために古書店に通うようになっていた。


そんな自分に気付き、それが恋情である事を知るのにそう時間はかからなかった。


古書店以外でもアリッサに会いたい。

そう思い、食事や映画に誘う。

そして彼女に想いを伝えて交際を申し込んだ。

彼女も俺と同じ気持ちを抱いてくれていて、恥ずかしそうにこくんと頷いてくれた時は本当に嬉しかった。


可愛い。大好きだ。大切にしたい。

誰よりも。


その想いはどれだけ月日が経とうと色褪せる事なく、それどころかどんどん強くなる。

週に四日しか会えないなんて辛い……。毎日会いたい。毎日顔が見たい。

……これはもう結婚だな。同棲なんてもどかしい。結婚して妻にして、もっともっと大切にして甘やかす。


だなら俺はアリッサにプロポーズをする前に、ロダン男爵家で正式な執事補佐として務められるように義伯父に話を付けた。

丁度義伯父もそろそろ俺を呼び戻そうと思っていてくれたらしく、アリッサにプロポーズを受けて貰えた時点でブノア男爵家を辞する事となったのだ。


それなのに突然降って湧いたミナリラお嬢様の我儘発言。


当然、即答で丁重にお断り申し上げた。


「申し訳ありませんが、結婚して故郷に帰ろうと思っていたところなのです。専属執事の件は辞退させて頂きたく存じます」


「……結婚!?あなた、そんなお相手がいるなんてひと言も言ってなかったじゃない」


「使用人のプライベートな事をわざわざお話したりはいたしませんよ」


「……本当にそんな相手がいるの?」


なんだその疑り深い目は。


半信半疑な反応を示され苛立ちを感じたが、プライベートな事を……ましてや最愛の人の事を聞かせてやる必要はない。

そう思った俺は「いますよ。人生を共にしたいと思える、かけがえのない人が」とだけ答えておいた。


しかしまさか、疑心暗鬼なミナリラお嬢様……もう呼び捨てでいいか。

ミナリラが人を雇ってまで俺の身辺を探るとは……。


「あのね、この前ね、アパートまでずっと私の後ろを歩いている足音が聞こえたの。まるで尾行みたいだったわ。気味が悪かったけど、でも考えてみれば私を尾行する意味なんてないものね」


アリッサの口からそれを聞いた時、俺は血の気が引いた。

尾行?アリッサを?

大通りでたまたま会って、仕事中だった事もありその時は少しだけ当たり障りない事を会話して別れた。

それだけだったのにアリッサの後を付け回したのか……?


どうやらミナリラは俺の結婚相手を探すために手当り次第、接触した女性を探らせているようだ。


ゾっとする。

そこまでやるのか?そこまでして俺を側に置くつもりなのか。

そしてそれほどまでして俺を愛人にしたいのか。


奴らの目を、アリッサから逸らさせなければ。

俺の結婚相手(まだプロポーズも出来ていないのに!)が力のない平民女性だと知れば貴族の特権を利用して圧力を掛けられるかもしれない。

俺と別れろと。身を引けと脅しをかけるくらいの事はやりそうだ。


俺の知らない所で、俺の知らないうちにアリッサに。

そんな事はさせない。

とにかく彼女を守らなくては。

形振り構っている場合ではない。

俺は直ぐさま、義伯父に相談した。

話を聞きつけた伯母も参加し、皆で思案して策を練る。


「まずはセオノアのお嫁ちゃんを守るのが先決ね!」


お嫁ちゃんて……まだプロポーズも出来ていないのだが?


「敵からその存在を隠すほかあるまい。接触を控え、奴らにアリッサちゃんがセオノアとは無関係な人間だと思わせるんだ」


なんで義伯父(おじ)さんがアリッサを名前呼で呼ぶんだよ。

しかもアリッサちゃんて……。


二人とも、アリッサとは面識がないのだが。



義伯父・「敵の目を欺いている間にこちらに戻る算段をつけるか」


伯母・「ただブノア男爵家を辞めるだけじゃ、ストーカー令嬢が未練を残すんじゃない?」


ストーカー令嬢、言い得て妙だな。


「そうですね、後に遺恨を残さずキッパリと諦めて頂きたいです」


義伯父・「そうだな。じゃあいっその事アリッサちゃんを隠すんじゃなくて堂々と紹介して諦めさせる方がいいのか?」


伯母・「あらダメよ。相手が平民だと知ったら、ストーカー令嬢が何をするかわからないわ」


「俺もそれを懸念してるんです。それにアリッサには余計心配な不安な思いはさせたくない」


義伯父・「ではアリッサちゃんに知られずに事を進めるか」


伯母・「そうだ!ルディアにも協力してもらいましょうよ!ルディアならストーカー令嬢と同格……いえ、次期当主と決まっている分、ルディアの方が格上よ。向こうもおいそれと下手に手は出せないわ。あの子をセオノアの婚約者としてストーカー令嬢に引き合わせて諦めさせましょう!」


「ルディアを俺の偽の婚約者として?しかし、後々バレるのでは?」


伯母・「ブノア家を辞めてしまって、アリッサちゃんを連れてロダン領に帰ってきてしまえばこちらのものよ」


「なるほど。そうなれば既に他家の使用人となった俺に、向こうはもう手出しは出来ないですからね」


伯母・「そうよ。だけどその前にまずはストーカー令嬢を黙らせないと!」


義伯父・「ルディアか……それは名案だ。あの子には後継として武芸も身につけさせているし、何より物事に動じない度胸もある……少々気も口調も強いがな……」


「ルディアは協力してくれるでしょうか?」


伯母・「大丈夫よ。他ならぬ従弟の幸せのためなんだし。それに結婚して爵位を継ぐルディア(あの子)と旦那様を支える将来の右腕候補を、我儘令嬢にくれてやるなんて絶対に許さないと思うもの……ぶつくさ文句は言いそうだけど」


文句……言いそうだな。

二つ年上の従姉のルディアはとにかく気が強い。


しかしミナリラを諦めさせるにはこれがもっとも手っ取り早い方法ではあるのは確かだ。

そして現状では他に良い策は見当たらない。

そう判断した俺はルディアにも助力を願い、伯母夫婦と立てた策を弄する事となった。


その矢先、こちらが動く前に向こうからこう告げられた。


「セオノア。貴方、本当は結婚する相手なんていないのでしょう?」


ミナリラが勝ち誇るような顔を俺に向ける。


このひと月ほど、俺を監視していた者から女の影無しとでも報告を受けたのだろう。

当たり前だ。もうひと月以上、監視が強化されたのを知り身を切る思いでアリッサとの接触を控えていたのだ。

しかしこれ見よがしにドヤ顔をするのがムカつくな。

女でなければ殴りたい。

俺は感情を押し殺して平然として答えた。


「いえ?居りますよ、俺には勿体ないくらいの素晴らしい女性が」


「まぁ……まだ虚勢を張るのね。そこまでして私の関心を引きたいのかしら?それとも自分の値を上げているの?……ふふ、まぁいいわ。それならその素晴らしい女性とやらを私の前に連れてらっしゃいよ」


──キタ。


「いいですよ。いつがよろしいですか?」


「今度の休日に。最近出来た評判のカフェがあるでしょう?顔より大きなパンケーキを出すとか。私、前々からそこに行ってみたかったのよ。そこに連れてらっしゃいな」


なんだと?今度の休日のそのカフェに、他ならぬアリッサと行く予定にしていたのに!

ロダン男爵家の騎士の手を借りて、監視の目を欺いて久しぶりにアリッサに会えるはずだったのに!


「……別の日に別の店ではいけませんか?」


「あらどうして?ふふ、怖気付かなくてもいいじゃない。そんな相手が居なくても大丈夫よパンケーキをご馳走してあげるから。カフェには必ず来てね」


「……必ず、彼女を連れて伺いますよ」


「あらまぁ、楽しみだわ(下手な女を連れてきたら容赦しないわよ)」


「……私も楽しみです」


「ふふふ」


「ふふふふ……」


そうして、泣く泣くアリッサに休日に会えなくなったと断りの連絡を秘密裏にして、(くだん)のカフェへとルディアを連れて行ったのだ。


同じ貴族令嬢であり、見た目も所作も申し分ないルディアを婚約者として紹介した時のミナリラの顔は見ものだった。


あの様子じゃ本当に俺に特別な相手はいないと思い込んでいたようだし、連れて来ても大した事の無い女だと思っていたのだろう。


……本当ならば、俺のアリッサを胸を張って紹介したかった。


アリッサは素晴らしい女性だ。

俺は彼女の恋人である事を誇りに思っている。


だが選民思考の強いミナリラの事だ。

身分だけでアリッサを下と見て、圧力をかけてくるだろう。


だからこうするより他なかった。


おかげで策が功を奏し、ミナリラを納得させる事が出来た。


俺はその足でブノア男爵家へと行き辞表を出した。

元々が執事見習いだ。

引き継ぎ業務等もとくに無かったので、辞表が受理されたその日の内にブノア男爵家を辞する事が出来た。


そしてそのままロダン男爵領である故郷へと一旦戻り、義伯父と伯母にルディアと共に報告をした。


それから二日後に、諸々の用事を済ませて俺はようやく自宅アパートへと帰る事が出来たのだった。


「はぁ……疲れた……二日ぶりの我が家だ」


「ふーん、こんなアパートに住んでいるのね、平民の暮らしも楽しそうだわ」


貴族令嬢ルディアが興味深そうにアパートの外観を眺めている。

俺は目を眇めながらルディアに言う。


「……もう一度聞くが、なぜルディアまでまた王都に?」


「あらいいじゃない。だってセオノアの可愛いアリッサちゃんに会ってみたかったのだもの。……婚約者のフリまでして協力したのだから、お父様たちよりも早く紹介してくれてもいいでしょう?」


「そりゃまぁ……いいけど」


ルディアには借りが出来てしまった以上、無下には追い返せない。

とりあえず荷物を置くためにアパートに戻った俺は、玄関の鍵を開けて部屋へと入った。







───────────────────




今日は時間切れ~( ߹꒳ ߹ )ウッ…


二日ぶりに家に帰ったセオノアがとうとうその異変に気付く?


次回……策士、策に溺れるの巻。


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