表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/11

面白い客が来たわね(ギルド職員Aの見解)

ワタシは長年、商業ギルドの職業斡旋や新規組合員登録を担当している。


この職に就いて三十ウン年、これまで様々な人間を見てきたわ。

だけど今日、王都で在していたギルドの紹介状を持って組合員登録に訪れたアリッサ・リルトンという娘……彼女のように窓口(ここ)で身の上話をする者は初めて。

まぁ?若い娘が王都を捨てて…と知ったワタシが興味を示して聞きたいと言ったのも、こうなった要因ではあるのだけれど?


それにしてもなんと運が悪く、そして哀れな娘だろう。

信じていた男が他の女を婚約者として紹介しているのを目の当たりにしてしまうのだから。


このアリッサという娘の話からして、その男とはセフレであった可能性も無くは無いけどやはり恋人と呼べる存在だったのだと思う。


だけど気になる点が幾つかある。

なのでワタシは目の前で遠い目をして佇んでいるアリッサ・リルトンに質問したわ。


一つはその男の部屋に娘の私物が沢山置いてあったこと。

そしてその私物の内容ね。


セフレや本命ではない相手の持ち物を部屋に数多く置く事を許可するかしら?


何事も頓着しないタイプの人間なのかもしれないけど、スキンケア用品や歯ブラシはともかく専用の食器やサボテン?そして二人の写真を部屋に置いたりする?


少なくとも、ワタシが過去に付き合った男はワタシの私物を家には置かせてはくれなかったわ。

(のち)にそれは他の女がその男の部屋に出入りしていた所為だったとわかったのだけれども、そいつと別れてから恋人となった別の男もワタシの私物が部屋に増えると「なんだか侵食されているようで重く感じる」とか言って嫌な顔をされたのを覚えている。

(そいつともすぐに別れたけど)


その点から見て、そのセオノアという男はアナタの私物が部屋にある事を快く容認していたのではないかと思うの。


その事から何がわかるか、それはアナタ以外の女を部屋に入れていない可能性が高いという事。


女というのは妙に勘が働き、鼻が利く。

部屋にある物ひとつですぐに他の女の気配に気付いてしまう。

(※あくまでも経験に基く個人の見解です)

タチの悪い女だったりしたら、他の女の私物を勝手に捨てたりわざと壊したりするのよ。


え?今まで私物が失くなったり壊れていたことはない?


微妙に置き場所が変わっていたりは?


それもない?いつも変わらず定位置にあった?

じゃあ突然見覚えのない物が増えていたり彼のベッドのシーツ交換がいつもより頻繁だったことは?

アラそれもないの?

ワタシの過去の男ではあったわよ。それでソイツの浮気がわかって別れたんだから。


ふ~む、それはやはり、そのセオノアという男の部屋に他の女の影は無いということだと思うなぁ……。


それともう一点。

会う回数が減る前は週四で会っていたというけどそれは結構多い方だと思うのよね。

しかも付き合ってそれなりの年数が経ってるんでしょ?


互いに仕事を持っているのに平日も会ってそれに休日もべったりだったなんて……ワタシの歴代の恋人となら有り得ない話だわよ。

そのセオノアさんは絶倫だったのかしら?


あら?そう、会う度にエッチしていたわけじゃないのね。

どちらかというとエッチは休日にしてた?

何を言わせるんですか~なんて顔を真っ赤にして言われても、ワタシはそこまでは訊いてないわよ。

アナタが勝手に喋ったんでしょ。


それにしてもそう。そうなのね……。

それじゃあやっぱりセフレ説は否定出来るんじゃないかしら。


じゃあさ、セオノアさんと会う回数が減りだした時、何かきっかけになるような事はなかった?

喧嘩したとかアナタが何か仕出かしたとか。


とくにない?

そう……え?そういえば昼間、偶然街中で仕事中の彼と会って少しだけ立ち話をした?

それでその後、なぜか誰かが一定の距離を空けて付いて来ているような足音が聞こえた?

え、ナニそれそんなものって耳にしてわかるものなの?

あぁそういえば凄く耳がいいって言ってたわね。


足音から男性だということまでわかったって?

それがアパートに帰り着くまで聞こえてきたって?

……アナタ、翻訳業より隠密とかになった方が能力を活かせたんじゃないの?


まぁそれはさておき。気味が悪くなってそれを彼に話してから、会う回数が減ったのね?

……なんなのかしら?なんだか妙よね……?

それから彼との逢瀬が少なくなったってのが引っかかるのよね~。


え?尾行されたかもしれない事と何か関係があるのかって?

関係あるのかもしれないし、ないのかもしれない。

ねぇ、アナタ別れ話を聞きたくなくて逃げて来たって言ったけど、やっぱりちゃんと彼と向き合った方が良かったんじゃない?


……うーん?そりゃあね、話し合ったところで、アナタがカフェで見た事が全てで、他の女と結婚するから別れて欲しいと言われて終わっただけかもしれないけどさぁ?


ヤダもう半泣きにならないでよ。


でもね、アナタより少し長く生きてる女から言わせて貰えばそのセオノアって男、そんなに悪いヤツじゃないような気がするのよ。

ワタシが今まで付き合った男なんてもっと最低なクズばかりだったわよ?

少なくともアナタの事をとても大切に扱っていた、そうじゃない?


え?それはわかってる?

彼は浮気をするような人じゃないって、だから浮気ではなく本気なんだって?

その本気になった相手と結婚を決めたんだって?

あぁなるほど……そういう考え方もあるのかぁ。

かつてのワタシにはない思考だったわ~。


そっか、彼はアナタよりも本気になった相手と出会っちゃったのね。

そうね、それはもうどうしようもないわね。

あらとうとうマジ泣きしちゃった。

あのね、ここギルドの中なんだけどなぁ……まぁワタシが泣かしたようなもんだしねぇ……。

わかった、もうとことん泣きなさいよ。

側にいて付き合ってあげるから。

え?そんなことして怒られないかって?ふふ、大丈夫よ。

ワタシの旦那サマはここのギルマスなの。

ダメンズホイホイだったアタシが見つけた安住の地……♡

ひと回り年上だけどいぶし銀でとっても素敵なのよ~。

旦那サマはワタシに激甘だからね、ワタシのする事はなんでも許してくれちゃうの。


だから安心してお泣きなさい。

そして泣き止んだらまた一からやり直すの。


明けない夜はない。

やまない雨はない。

やり直せない人生なんてないのよ?それになんたってアナタは若いんだから、すぐにもっといい男が見つかるわよ。

ね!次いきましょ次!



……………でもね、ちょっといい?


気持ちよく泣いているところ申し訳ないんだけどね、

アナタの後ろ、少し離れたところからアナタの事を凝視している若い男性がいるんだけどさ。

あれってもしかして……


やだアナタ、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で振り向いていいの?


え?今、なんて言った?


“セオノア……”って、アナタ今そう言った?


セオノアってアナタの()彼の名前よね?


アラ、じゃああの人がセオノアさん?アナタの元彼の?


ほら、アナタが狼狽えてしどろもどろになっているうちにどんどん近付いて来るわよ。

やけに必死な形相で。

やだアハハ、これは面白い展開になりそうね。


と言っている間に、ワタシの目の前でアリッサ・リルトンは悲痛な表情をしたセオノアという青年に抱きしめられた。





───────────────────






次回、セオノアsideです。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ