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恋人が私の前で違う女性を婚約者だと紹介していたお話、聞きたいですか?  作者: キムラましゅろう


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落ち込んでる場合じゃねえ!

落ち込んでる場合じゃねぇ!

私はそう思いましたよ。


ウジウジしている間にもセオノアとあのルディアという人の挙式が日毎迫っているに違いないのですから!


私がメソメソしていても陽はまた昇りそして沈む。

そんな事してる間にセオノアにこの世で最も聞きたくない言葉を言われてしまうんです。

それは嫌。絶対に嫌。

もう充分に現実を突きつけられて傷付いたんだから、これ以上傷口に塩を擦り込まれてたまるもんですか!


と、思い……私はすぐに行動に移しましたよ。

寝不足で“⊗⊗”なお目目を抱えながらもテキパキと。


ええ、私、思い込んだら一直線の人なんです。

でもこれ以上なく自分に甘い人間なので、セオノアを巡ってわざわざ修羅場を繰り広げるなんてしません。

だって負けとわかっている(いくさ)なんですから戦うだけ無益ですよ……。クスン

試練の道を行く必要なんてないです。

負けが決まっているならこれ以上被害を増やさないためにさっさと撤退です。クスン


というわけでまずはさっそくセオノアのアパートへと私物を取りに行きました。


平日の午前中。

彼は間違いなく仕事に出ていて家には不在です。

一方私は在宅ワークの職種なので好きに動けるわけですよ。

彼の留守中に後片付けするのに丁度いい。

……貰っていた合鍵も返さないといけませんからね。


そして私は主人が留守の部屋に合鍵を使って堂々と不法侵入をし、彼の部屋に置いてある私物の仕分けをしました。


持って帰るもの、破棄するもの。


愛用のマグカップ……持って帰ろう。

歯ブラシに化粧品……廃棄。

お気に入りのネグリジェ……思い出が生々しいので廃棄。

二人で写った写真……廃棄。

私が彼に贈ったプレゼントは……本人に一任しよう。(まぁ全捨てされるんだろうけど!クスン)

可愛いからと私が勝手に部屋に置いた東方の国から来たサボテン(名をサ梵天丸(ボンテンマル)とつけて愛でていた)……愛着があるので連れて帰ろう。


これで……よし。

私はぐるりと部屋を見回して忘れ物がないかをチェックしました。


思い出がいっぱい詰まった恋人の部屋。

そのひとつひとつの思い出が溢れて、また私の涙も溢れ出ました。


だけど泣いていても仕方ない。

これも人生。

私は自分にそう言い聞かせて、彼の部屋を出ました。

持参した封筒に合鍵を入れて郵便受けの中へと入れました。

すとん、と郵便受けの中に封筒が落ちていく音を聞くと虚しさが込み上げてきます。


その気持ちを振りきるように、私は次に籍を置いている商業ギルドへと向かい、登録抹消と紹介状の手続きを行いました。


それから不動産屋へと行って自分の部屋の解約手続きを。

急ぎ王都を離れたいので不要な家具の引き取りもお願いしました。

とはいってもベッドと小さなテーブルと本棚しかない部屋だったので、大家さんが買取ってくれたので大助かりです。

あとはこれまた数少ない私服や生活用品だけを荷造りして運べばいいのですから。

キャリーを使用すれば箱詰めしたものを自分で運べることでしょう。


ここまでの作業を、私はたったの二日で仕上げたんですよ。

凄いでしょ?

やれば出来る子。そう、私ってば行動力にだけは長けているのです。


そして逃げるよう住み慣れた家もさっさと出て、そのまま王都もさっさと出ました。


さらば住み慣れた王都よ。

何年かして、心の傷が癒えたらまた戻ってこよう。


探されるなんて事はないだろうけどセオノアに居場所を知られたくないので、親や友人にはしばらく転居の事は伏せておくことにしました。


両親は離婚してそれぞれ再婚したり仕事で他国に住んでいるからわりと没交渉だし、友人たちも仕事や育児で忙しく近頃会えていない。

ので、半年くらいは誰にも何も知らせなくていいだろう……と思ったんです。


こうして私はこのギルドにあるこちらの地方都市に移り住んだわけなんです。

その間ざっとまぁほぼ一週間。

はい、失恋パワーで頑張りました。


やだ職員さんたら、

そんな哀れなものを見るような目でこちらを見ないでくださいよ!


まぁ実際哀れなんですけどね……クスン。





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