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水底より足掻く (セオノア視点)

今日は二話投稿。

こちらは二話目です。アレ?と思った方は一話お戻りください。






そして俺は、急ぎアリッサのアパートへと向かった。


が、


「……引越した……?大家さん、それは本当ですか……?」


「ええ本当よ。それも急に。まるで何かから逃げるように大慌てで。家具の処分まで任されるくらいだったのよ……ねぇ、あなた彼女の恋人よね?何かあったの……?」


「アリッサが……居ない……あのっ、次の転居先はご存知ないですかっ?」


「それが、聞いてないのよ。もし何かあったらお父様の方に連絡して欲しいって言われて……」


「そう、ですか……」



時すでに遅し。

アリッサはさっさとアパートも引き払い、姿を消していた。


俺はその場に頽れる。

大家さんが驚いていたがそんな事に構っている気力はない。


失った……?

俺は、一番大切なものを失ってしまったのか……?


アリッサ……一体どこへ……?


こんなにも潔く、立つ鳥跡を濁さずといわんばかりに痕跡一つ残さずに居なくなるなんて……。


彼女が感情の赴くままに行動するタイプであるとはわかっていたが、まさかここまで思い立って直ぐ行動に移すとは……。


なんて事だ。

アリッサとの…彼女の将来を守りたくて、彼女を守りたくて秘密裏に事を進めた事がこんな結果になるとは……!


余計な心配をさせたくはなかった。

勤め先のお嬢様に横恋慕されて、ましてや愛人に望まれていたなんて、そんな不快な事をアリッサの耳には入れたくなかったのだ。


心配は要らない、俺の心はアリッサのものだと正直に打ち明けて説明しても彼女は不安を抱いたかもしれない。

そして接触を控えて会えない日々の中でその不安が大きく膨れあがり、辛い思いをさせるかもしれない。

それを懸念してアリッサには何も話さなかった。


ひと月、ひと月でケリを付ける。


そう決めて、策を弄して行動に移したというのに、まさかよりによってミナリラにルディアを婚約者と紹介したところを見られていたなんて……!


一緒に行こうと約束したカフェ。

楽しみだからこそ、初めては絶対に俺と行くんだとアリッサが言っていたので油断しきっていた。


アリッサの性格を理解しているという慢心が招いた結果だ。


“食べたい”と思った彼女が、次にいつ行けるか分からない状態でただ大人しく待っているはずがないという可能性があると気付くべきだった。


完全に俺の落ち度。

策士、策に溺れるとルディアに罵られても反論の余地がない。


アリッサを傷付けまいとした行動が返って彼女を傷付けてしまったのだから。


……きっと、きっと沢山泣いたんだろうな。

ひとりきりで泣いている彼女の姿を思い浮かべるだけで胸が痛くて張り裂けそうになる。


ごめん、ごめんアリッサ。

俺が馬鹿だった、俺が悪かった。

彼女に謝りたい。許しを乞い、そしてもう二度と辛い思いはさせないと忠誠を誓う。


好きなんだ。アリッサが、彼女の事を本当に愛してる。

だからどうしても諦められない。

これで終わりなんて、諦められるわけがない。


俺は自分の策に溺れた愚かな男だが、それでもその沈んだ水底から手を伸ばす。

藻掻き、足掻き、這い上がり、アリッサを必ず探し出す。何がなんでも。


考えろ、何か、何か痕跡があるはずだ。

アリッサの行き先に繋がる痕跡が。

どんなわずかな痕跡でもいい、それを必ず見つけ出す。


アリッサの事だ。

きっともう王都にはいないはずだ。

俺との関係を潔く断つために(泣)生活圏を移すはずだ。

彼女の仕事は翻訳業。

仕事を仲介してくれる商業ギルドに登録すれば、何処へ行っても仕事が出来る。


……そうだ。


ギルドだ。


転居するにあたり、これまで籍をおいていたギルドの登録を抹消し、移り住む街のギルドへの紹介状を出して貰う必要がある。


それを調べれば、アリッサの行く先がわかるはずだ……!



そうして俺はアリッサが登録していたギルドへ赴き、言葉巧みにどこの街の商業ギルドに紹介状を書いたのかを聞き出した。


……口が羽のように軽い職員で助かった。


すまない、ギルド職員よ。

姑息だとわかってはいるが俺は本当に余裕がない。

今はとにかく藁をもすがる思いなんだ。

あんたの口が軽かった事は決して他言はしないから許してくれ。

……職員としての先が心配ではあるが。



そうして俺は聞き出した街へとすぐに向かった。


それから二日間、ギルドに通い寝食を忘れてアリッサを探した。


そしてとうとう、ギルドのカウンターでアリッサを見つけたのだった。


アリッサは泣いていた。

ギルドの女性職員に促されて俺を見た彼女の頬は涙でしとどに濡れていた。


そしてその唇が俺の名を形取る。


“セオノア……”と。


「アリッサ……」


見つけた、アリッサだ。

彼女が目の前にいる……!

気付けば俺の目からも涙が溢れ出していた。


そして気付けば彼女を抱きしめていた。






次回、最終話です!


話数がどれだけになるのかわからなかったけど短編設定にしてましたが、

当初の予定通りショートショートで終われそうです。


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