092 神殿調査 魔王登場
目の前に居るのは、人、か?
いや、でもどうしてこんな所に人が?
30歳くらいのその男は、執事のような身なりをしているので、一瞬ロイさんかと思ってしまった。
思わずディーノさんに聞いてしまう。
「あれって魔王かな?」
「分からんが、そうじゃないか。」
「もっとこう、如何にも魔物って感じのが出てくるかと思ったんだけど。」
「こんな魔力放ってるのが、人なわけないだろう。」
あー、ごめん。その瘴気とか魔力っての、俺はわかんないんだよ。
鑑定アプリを起動して見てみる。
◆ステータス◆
【名前】ヴァーユ
【種族】ドラゴニュート
【称号】魔王
【魔力】測定不可
あ、あれ?これだけ?
でも確かに称号が魔王となっている。
〔コグニー、アイツの情報はこれだけ?〕
〘鑑定アプリで接続直後に遮断されたので、取得情報が限定されました。〙
うーん、鑑定のことは伏せときたい。
だが、魔王だということは共有する必要があるな。
「……なあ、あの石像に絡んで現れた、ということは、お前、魔王か?」
相手は何も答えない。
ただその沈黙が肯定を意味しているように思える。
「魔王ということは、この魔力も見せかけってことだな。」
そう言って険しい表情をするディーノさんの背後で、ギョペックさんが何やらブツブツと呟いている。
「……マーキュリーの神殿……風の精霊……」
ギョペックさんの声が、次第に掠れていく。
「封印……風……魔王……」
一瞬の沈黙。そして息を呑む気配。
「……ヴァーユ。……まさか、いや……」
ギョペックさんの表情が次第に恐怖に変わっていく。
「アレは、多分ヴァーユ。」
「ヴァーユ?」
「古い神話に出てくる、風を統べる魔王。……地上を、一度、消し去った……と。」
魔王は、何も言わない。
ただ、その視線が一瞬だけ、ギョペックさんに向けられ、ニヤリとした。
いや、微笑んだ?
次の瞬間、物凄い重圧が襲い掛かった。
ヤツは何もしていない、ただ立っているだけ。なのに踏ん張っていないと押し戻されてしまう。
「くっ……何だこれ……い、息ができない。」
足に力を込めたつもりなのに、膝が笑い、勝手に震え出す。
怖い。
だが、それだけじゃない。
この存在を前にしていること自体が、許されていない。
近づいてはいけない。
見上げてはいけない。
逆らってはいけない。
理由もなく、ただそう思わされる。
畏怖。
ただの恐怖ではない。
生き物としての序列を、魂の奥に直接叩き込まれるような感覚だ。
仲間達も皆俺と同じ様に耐えている。
後ろに転がって顔面蒼白になっているギョペックさんだけは、何とかしてあげないとダメかもしれない。
「鍵を欲するなら、吾を倒してみよ。」
魔王がそう言うと、ふっと重圧が切れた。
倒せと言うことは、捕縛は無意味と言うことだろうな。
「だったら私が!」
フィオナが魔王に向けて弓を放つ。
バシュ!
魔王がそれを左手で弾いた。
「なんだあの手は。」
驚いたのはディーノさんだけではない。
俺もだ。
魔王は武器を持っていない。
代わりに、肘から先の腕が異様だった。皮膚の代わりに硬質な鱗が幾重にも重なり、指先は鋭く反り返った爪へと変じている。
あれは、ヤバいかも。
「ギョペックさん、バングルをディーノさんに投げて!」
「え!私を生贄にするつもりですか?」
「アホなこと言ってないで早く!ディーノさんはそれをつけて!」
俺は、ギョペックさんがディーノさんにバングルを投げ渡したのを確認して、ギョペックさんを捕縛した。
これでディーノさんもバングルの防御結界で護られるから、攻撃に専念できるだろう。
魔王が弓矢を弾いた格好から、そのまま左腕を一振りすると、俺達全員がふっ飛ばされた。
「何だ今の?」
「風刃らしい。壁を見てみろ。」
ディーノさんに促されて見た背後の壁には、一筋の鋭い傷が深く刻まれていた。
「バングルを渡してくれて助かった。」
ディーノさんだけでなく全員、護衛のバングルの防御結界が風刃を防いで助かったらしい。
俺、グッジョブ。
「固まらない方が良さそうだな。」
「ディーノに賛成。取り囲んで攻めるのが良さそうだ。」
兄妹の判断で、戦略が決まる。
「二人とフィオナが攻撃する。俺とアスモラは魔法でヤツの気をそぐ、でどうだ?」
「私、支援魔法をいくつか使えます。」
「流石は元聖姫様。それも任せた。」
「ケンゴ、お前は剣も使えるだろ。」
「分かりましたよ、ディーノさん。剣を振りつつ魔法も使います。」
散開し魔王を取り囲むと、すぐにアスモラがライトニングを放つ。
それを払って体が開いた魔王の懐に向かってミネルヴァさんが飛び込み、フィオナが弓で援護する。
それを飛び退いて避けた魔王のすぐ横にディーノさんが待ち受けていた。
俺も遅れまいと魔王を挟み撃ちにすべく踏み込み、魔王の脇腹へ剣を振るう。
バシュッ
バシュッ
見事、二人の剣が魔王を斬り裂いた。
はずだった。
「なかなかやるではないか。」
体の埃を払う仕草で、俺をチラリと見た後にディーノさんへ向き直る魔王の姿がそこにあった。
「くっそ、なんて硬さだ。」
岩に斬りつけたような感覚に、手が痺れる。
「私の番ですね。」
ガシュッ
ディーノさんを殴り飛ばした魔王が、ふっと消えた。
ガシュッ
目の前に魔王が突然現れ、今度は俺が蹴り飛ばされた。
そして同じ様に、仲間が次々と攻撃された。
「縮地か?」
「のろまの鼬ごときに手こずるあなた達には、そう見えるんですね。ただ移動しているだけですよ。」
その速さに目が追いつかないまま、2巡3巡と俺達は弄ばれる。
俺達は幾手も応戦するも、剣が空を切るか、良くて弾かれる。
バングルの防御結界のおかげで俺達は致命傷を避けられているが、瞬時に眼前へ迫る魔王の姿に、成すすべがない。
「なかなか厄介な防御壁ですね。ならば……」
魔王を中心に風が巻き、砂埃が舞い上がる。一瞬視界を遮った砂埃が収まると、そこに居るのは、
ドラゴンだった。
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