091 神殿調査 砂漠のダンジョン マーキュリー神殿
「……思ったより暗いな。」
俺が呟くと、ギョペックさんがすぐに首を巡らせ、壁の上部にある細長い窓を指さした。
「本来は、かなり明るかったはずです。ああいう位置の窓は、時間帯ごとに光を取り込むためのものですから。」
「地下ではあれも意味がないわね。」
ミネルヴァさんも天井を見上げる。
「ええ。沈んだ後も、構造自体はそのまま残っているようですな……風が通っているのが、その証拠です。」
「古いのに、放置された感じがしないな。」
周囲を見回していたディーノさんが言うように、確かに古臭さを感じない。
匂いが無いせいかな?
「定期的に“使われていた”か、あるいは……」
ギョペックさんは言いかけて、言葉を切った。
「いえ。今も機能している、と言った方が正確ですかな。」
誰も、それ以上は追及せず、俺たちは、更に奥へと歩を進めた。
「……ラツィオの神殿では、大広間の地下室に例の石像が有ったんです。」
「なるほど」
俺の言葉に、ギョペックさんは壁や天井を一度見回してから言った。
「神殿建築というのは、時代や用途が同じなら、基礎構造を流用することが多い。ここも例外ではなさそうですな。」
「じゃあ、地下室への通路を探してみようか。」
地下にある廃墟なのに、それの地下室っていう言い方も変だね、とか言いながら皆で広間の壁や床を調べて回ると、壁の陰に隠れるようにして、下へと続く通路が見つかった。
「やはり、ありましたな。」
ギョペックさんが小さく頷く。
石段を下りた先には、重厚な扉が立ちはだかっていた。ラツィオの神殿で見たものと、造りはよく似ている。
扉の両脇の壁には、左右対称に窪みが二つ。
見覚えがありすぎて、嫌でも記憶が蘇る。
無意識にアスモラの方を見ると、彼女もまた、微妙に視線を逸らしていた。
「……ちょっと。」
何かを感じたのか、フィオナが俺達二人を交互に見比べる。
「二人とも、さっきから何をソワソワしてるのよ。」
「い、いや……」
「むー……怪しい。」
「怪しくない怪しくない。」
「アスモラ、ちょっとこっちにいい?」
「な、何ですか?」
アスモラのライト魔法で明かりが灯ってるとはいえ、地下室の隅っこでヒソヒソ話す二人の姿こそ怪しいが。
フィオナが、え!と言って、そのまま顔を真っ赤にして黙ってしまった。
アスモラ、何をどう話したのか気になるぞ。
「……これは」
ギョペックさんが、興味深そうに扉に近づく。
「この窪み、用途は分かりませんな。装飾にしては、位置が意味深です。」
「あ、用途は分かってます。」
「え、そうなんですか?」
俺はスマホを、アスモラは瘴気玉を、それぞれ手に取る。
目を合わせるのは、なんとなく避けた。
二つの窪みにそれらを収めると、低く響く音とともに、重厚な扉がゆっくりと動き出した。
「おお……っ!」
ギョペックさんが、思わず身を乗り出す。
「動く……! 本当に、動いていますぞ……!」
まるで子供のような表情で、彼は開いていく扉から目を離さなかった。
扉の向こうは、思ったよりも狭い空間だった。
円形の部屋で、数歩動けば反対側の壁に手が届くくらいの広さだ。
天井も剣を振り上げられるほど高くない。
「俺達6人が入っていっぱいだな。」
「こんな所に出てくる魔王って、ひょっとしてコボルト位の大きさなのかな?」
フィオナの冗談も間違ってないような気がする。
中央には、ひときわ目を引く石像が立っている。
人の形をしているが、顔の部分は前回と同じくアレだ。
石像は、両腕を胸の高さまで上げ、顔の横で、掌が天を仰ぐように伸ばしている。
祈りにも、何かを捧げているようにも見える、不思議な姿勢だ。
「祈ってる、って感じでもないわね。」
ミネルヴァさんがぽつりと言う。
「捧げている、というより……待っている、ですかな。」
俺的には、ほら、あれ……あの漫画の元○玉を連想してしまうんだけど、言ってもみんな分かんないだろうから黙っとく。
その足元の台座には、金属製のプレートが嵌め込まれている。
そこに刻まれている言葉は、ラツィオの神殿で見たのと同じ、あの謎の言葉だ。
ギョペックさんは興味津々に石像のスケッチを取っている。
俺はスマホを構え、石像の顔に向ける。
以前は、読み取った瞬間に、アラートが表示された。
だが、今回は違った。
画面が、淡く光る。
同時に、石像の足元からグレーの光が床に広がった。
「……魔法陣?」
幾何学的な線と、見覚えのある魔法文字。
神殿で見た転送用のものと、同じ系統のものだ。
魔法陣は音もなく回転を始め、淡い光が部屋を満たしていく。
「ちょ、ちょっと待て、心の準備が――」
ギョペックさんの言葉は、途中で途切れた。
視界が、白く反転する。
浮遊感も、衝撃も無い。
ただ、一瞬、足元が抜けたような感覚があっただけだ。
次の瞬間。
俺たちは、別の空間に立っていた。
空は無く、壁も天井も判然としない。
だが、確かに「広間」と呼べるだけの広さがある。
その中心に……
“それ”は、いた。
人の姿に近い。
だが、纏う気配が、決定的に違う。
敵意は無いように感じる。
威圧も、殺気も無い。
それなのに、息が詰まる。
理解してしまうからだ。
ああ、その姿は。
間違いない。
そこにいるのは、
魔王だ。
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