086 神殿調査 砂漠のダンジョン 第一階層1
「随分とヒンヤリするな。」
「外の暑さが嘘みたい。」
ディーノ&ミネルヴァ兄妹が言う通り、足を踏み入れた遺跡の中は、砂漠にある遺跡の中とは思えない、森の中の洞穴のような空気に満ちた石造りの廊下だった。
「僅かに風が流れているからですかな。旧王都神殿の祀っているのが風の精霊マーキュリーだからですかな。」
ギョペックさんのもっともな解説に、なるほどと納得してしまった。流石は学者さんだ。おしゃべりなだけではない。
隊列は、ディーノさんの提案で前から
ディーノ、アスモラ、ギョペックさん、フィオナ、俺、ミネルヴァ
という並びだ。
一般人のギョペックさんを挟んで守るのと、薄暗くて視界が悪いため、魔力探知に長けたアスモラが前寄りの陣形だ。
石造りの通路を進んでいくが、自分達の足音しか聞こえない、あまりの静けさが逆に気持ち悪い。
途中、何処からともなく青いスライムがぽつぽつと現れた。見ていると、床の隙間や壁際からぬるりと現れる。なるほど。
スライム達はメンバーが軽く切り払い、特に苦戦することもなく進めた。
「第一階層だし、こんなものか。」
「いや、ケンゴ。気を付けた方がいい。」
「きゃっ!」
ディーノさんが注意を促した矢先に、アスモラが、何もない床でつんのめる。
直後、すぐ後ろを歩いていたギョペックさんが、
「うわっ!」
勢いそのまま、アスモラの上に倒れ込んだ。
「ひゃあっ!? ちょっ!どこ触ってんですか!」
反射的だったのだろう。
抱きついたギョペックさんに、アスモラが電撃を放った。
バチバチバチィッ!
「がベベベべべ!!」
床に転がり痙攣しているギョペックさん。
まるで漫画のような完璧さだ。
「アスモラ、大丈夫?!孕んでない?!」
「だ、大丈夫。急に抱きつかれたので驚いただけ。」
声をかけるフィオナに、顔を真っ赤にしながら真面目に答えるアスモラ。
フィオナの発言に謎なところが有るが、ひとまず置いておこう。
ミネルヴァさんが無表情で、転がっているギョペックさんを見下ろした。
「説明してもらおうか。」
「……柔らかかっ……あ、いや、その……アスモラさんに躓いて……」
「わざわざアスモラに覆い被さったと。」
「いや、ホントに……」
全員の視線が、冷ややかに突き刺さる。
「仕方ない、並びを変えよう」
ディーノさんが即断すると、ミネルヴァさんが手を挙げた。
「私がアスモラと交代します。」
「……いや、それはやめとこう。」
ディーノさんは、ギョペックさんの視線を一瞬だけ確認して、首を振った。
「……お前を孕まされるわけにはいかん。」
「そんなんで孕むかぁ!」
「私もまだ孕んでません!」
即突っ込みのギョペックさんとアスモラ。
結果、隊列はこうなった。
ミネルヴァ → ディーノ → ギョペック → 俺 → フィオナ → アスモラ
タンク役が居ないので、俺があげた護衛のバングルを盾代わりにしたミネルヴァさんを先頭にして、ギョペックさんをディーノさんと俺で挟む並びだ。
「これで文句はありませんね」
ディーノさんの声に、女性陣が頷くと、再び歩き出した。
と、通路の奥からヒタヒタと音がする。
「大声で騒ぐから、集まってきちゃったじゃない。」
「来るぞ。」
「??……何も来ないな?」
「空耳か?」
「私にも聞こえたわ、わぁ!」
フィオナがすってーん!とすっ転んだ。
「???」
「フィオナが転ぶなんて珍しいな。」
「いま、何かに足を掬われたの。」
「何をギョペックさんみたいな、うわっ!」
今度は俺がすっ転んだ。
確かに足に何かが何かした。
「っ!?」
今度は俺を助け起こそうとしていたミネルヴァさんまで、足を取られて俺の上に倒れ込んだ。
はぁ、いい匂い。
ハッ!ギョペックさんの目が。
「人のこと言えませんなぁぉっ!」
ギョペックさんが、またもや何もない平坦な場所でつんのめった。
「……今の、何?」
フィオナが眉をひそめた次の瞬間――
キンッ!
甲高い金属音が鳴り、ディーノさんが片膝をついた。
「ディーノさん!?……うわっ!」
駆け寄ろうとした俺の足が、ふいに宙を切る。
その瞬間。
足元がキラリとかすかに光ったのを俺は見逃さなかった。
見えない何かが、弾かれた感触。
……今のって、防御結界……だよな?
以前、バングルを捕縛した際に取得した機能だ。どうやら、攻撃を防いだらしい。
顔を上げると、ディーノさんの足元に、奇妙な光景があった。
鎧姿のディーノさんの脛に向かって、
「このっ、このっ!」
小さな鼬型の魔物が、鎌のような爪を何度も振り下ろしている。
だが、刃は鎧に阻まれ、火花を散らすだけだ。
そのすぐ隣には、ポーションの小瓶を抱えた鼬と、何も持たず、そわそわしている鼬が一匹。
「ねぇ、まだ?」
「ねぇまだ?」
「ポーション、いつ塗ればいいの!?」
……何だこいつら。
ディーノさんも状況を理解したらしい。
「エアリエルか?でも転ばせるだけじゃなく、切って、治す……ってのは違うな。」
あ、それって鎌鼬じゃん。
どうしてこんな所に日本の妖怪が。
なるほど、転ばしたものの、フィオナたちが持つ護衛のバングルに攻撃を防御されたってところか。
「兄ちゃん、切れてないよ?」
「切れてない!」
「切れてないから出番ない!!」
三匹目が地団駄を踏み始めた。
「おい、やめろ、今は……」
「だって仕事ないもん!ポーション持ってる意味ないもん!ポーション使いたいもん!」
あ、喧嘩が始まったぞ。
「なにこの子たち、かわいい〜。」
フィオナが手を差し出して鎌鼬に近づくと、3匹はハッと我に返り、後ずさる。
更に一歩、フィオナが近づくと、3匹は踵を返して、テテテとダンジョンの奥へ走り出した。
「追うぞ。」
ディーノさんの指示で、追いかける俺達を見て3匹が泣き出した。
「と~ちゃーん!!」
「アイツラが〜!」
「イジメる~!!」
「イジメてねえし!」
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作者が小躍りして喜びます。




