085 神殿調査 砂漠の都
王都を出て三日。
俺たちは今砂漠の真ん中を歩いている。
何かの罰ゲームかと思うほど、視界の彼方まで灼熱の砂丘が続き、時折巻き上がる砂柱がまるで獣のように唸っている。
いや、異世界に来てる時点で何かしら罰ゲームのようなもんなんだけどさ。
途中、サンドワームとやらに襲われた時は肝が冷えた。
規則的な歩調を頼りに獲物を襲うので歩調は静かに且つ不規則にするように、と注意されていたけど、暑さと疲労でどうしても注意が疎かになってしまう。
地鳴りと共にいきなり砂の中から現れたサンドワームに、アスモラ(リメアとバレるのはまずいので、普段からそう呼ぶことにした)がライトニングを放って怯んだところへ、ディーノさんが斬撃で頭を切り落として討伐し、事なきを得た。
そんな砂漠を俺たちは歩いているのだ。
「ふぅ……本当に、こんな所に昔の神殿があるのかしら。」
フィオナが額の汗を拭い、ため息をこぼす。
彼女だけじゃなく、メンバー全員汗だくだ。
みんな、砂漠の住人がよく着ている、軽くてゆったりとした、風通しの良いマントを羽織っているので、直射日光は避けられているのだが、それでもやっぱり暑い。
「地図上では間違っておらんはずですぞ!」
陽気な声を張り上げたのは、同行している考古学者、 ギョペック・ハルマン氏 だ。
砂漠の住人が着ているようなゆったりとした服装の彼は、砂漠の旅に慣れているようだ。
丸眼鏡の奥の瞳は常に輝き、常人なら日差しに辟易する砂漠でもめちゃくちゃ元気。
アルシナ嬢の家庭教師で、歴史と考古学を担当しているという人物だが、第一印象は「大学の研究室にいそうな、気さくでちょっとおしゃべりな教授」
……ただし、少し問題がある。
「古文献によりますと、この旧王都アルザリアはですね、約七百年前に――」
そう、遺跡の話になると長いのだ。
しかも歩きながらでも延々と話し続けるスタミナがある。
フィオナとアスモラは「始まったわね」と目配せで苦笑いしながら聞き流し、ディーノさんは前方警戒に集中している。
そして、会話の合間にギョペックさんの視線がミネルヴァさんを狙う。
が、
無表情のまま、鋭く睨み返され、ギョペックさんはすぐに視線を逸らした。
「それにしても暑いですな。」
今度は人当たりの良いフィオナの方へと話題を振り、話しながら距離を詰めていくギョペックさん。
「その辺にしときましょうか、ギョペックさん。フィオナちゃんに近すぎです。」
ディーノさんに叱られて、今度はアスモラに視線を移したギョペックさんだったが、俺が見ていることに気が付いて、素知らぬ顔で歩き続けた。
……この人、話好きというより、ただの女好きなんじゃないのか。
俺は内心、少し呆れていた。
俺はというと、砂漠の熱気に耐えつつ、別のことが気になっていた。
(マーシャ……大丈夫かな)
王都を出る前、マーシャのことが頭をよぎり、俺は急いで 手紙を書いて、ギルドに出しておいてもらえるようトリバー伯爵別邸の執事・ロイさんにお願いしておいた。
さらに、ロイさんが購入してくれたマジックバッグに、俺が大量生産した 腹痛薬・風邪薬・石鹸 を詰めて、マーシャ宛てに送付済みだ。
これで少なくとも在庫問題は解決だろう。
さすがに“ほったらかし”は良くない。色々あったし。
「ケンゴ殿! 見てくだされ!」
ギョペックさんの声で意識が戻る。
「……え?」
思わず足が止まった。
彼が指差す先には巨大な焦茶色の壁があった。
「砂嵐……?」
「でもおかしいですぞ。」
砂漠の真ん中、突然現れたとした砂嵐。
ただ、普通の砂嵐と違い、移動していないのがおかしいらしい。
確かに、その場で大きくぐるぐると渦巻いているように見える。
◇◇◇
砂嵐の巨大さに距離感が狂ったのか、砂嵐に到着したのは見つけてから丸一日かかった頃だった。
目の前には、轟々と物凄い勢いで砂と風が流れている。
「位置的には、旧王都にあたりますな……しかし、こんな砂嵐、前に来たときは全く無かったですぞ。」
「ギョペックさん、いつ来たんですか?」
「十年ほど前ですかな。調査隊の一員として訪れた時は、完全に砂の大地でしたぞ。嵐どころかそよ風も無かった。」
旧王都にわざわざ砂嵐の巣が…?
そんな自然現象、ありえるわけがない。
俺とフィオナが顔を見合わせていると、アスモラが眉を顰めて低い声で呟いた。
「ギョペックさん。旧王都の神殿って、この奥……ですよね?」
「ええ、地図では確かにこの辺りですね。石造りの門があったはずですが……」
「……どうする?」
「行くしかないだろう。」
俺の問いにディーノさんも頷く。
なんか嫌な予感しかしないんですけど。
素のまま突入するには無防備なので、護衛のバングルをフィオナとアスモラに渡す。ミネルヴァさんにあげたのと同じ物だ。二人に渡しそびれて、ずっとカバンに入ったままだった。
そんなに嬉しいか?
もう一つ有るから、ギョペックさんにも貸し出しておくか。
あれ?どうして不機嫌になったの?ミネルヴァさん。
俺たちは慎重に砂嵐の中へと入っていった。
砂嵐の中は轟音が響き、メンバーの声が全く聞こえない、砂の混じった風が物凄い勢いで吹き付けてくる。
バングルの障壁が常時展開し続けるほどで、これが無かったら風の中の砂で体中が削られて死んでたかもしれない。
突然、スパッと砂嵐から出た。
台風で言えば目に当たる場所かな。
「あの二人は仲睦まじいですな。」
ギョペックさんが、お互いの砂を払っているディーノ&ミネルヴァ兄妹を見てコソコソと俺に言ってきた。
あ、砂嵐の中、ミネルヴァさんがディーノさんに寄り添い、自分の障壁内にディーノさんを入れていたのを何か勘違いしてるな。ほっとこう。
視界には巨大な石門
ただし――
「……歪んでる?」
石門は半ば砂で侵食され、周りの装飾は削り取られてしまい、内部から妙な威圧感が感じられた。
「これは……ダンジョンね。間違いないわ。」
「これは凄い!ダンジョン化した遺跡の最新事例です!ぜひ調査を進めましょう!」
フィオナが眉を顰めている横で、ギョペックさんが眼鏡を押し上げ独り興奮している。
「魔素がすごいですが、瘴気もかなり濃いので、魔物が出そうです。」
アスモラの言葉にフィオナが腰の剣に手を添える。
ディーノさんがギョペックさんの前に立ち、短く告げる。
「ギョペック先生を列の中央にして護衛体制にしよう。」
「あ、……たのんますぞ!」
俺は進入に備えてマップアプリを起動すると、画面に表示されるマップは見事に真っ黒だ。
「……もう遺跡じゃなくて完全にダンジョン扱いだな。」
深呼吸し、仲間の顔を見る。
「じゃあ皆、行こう。たぶん魔物相手の戦闘になると思うけど・・」
俺たちは頷き合い、ダンジョン化した旧王都アルザリア遺跡へと足を踏み入れた。
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