083 捧げる女と盛られる男
控え室の扉が静かに開き、フィオナが戻ってきた。
その表情には、安堵と緊張が入り混じっている。
「フィオナ、后は何の話をされたんだ?」
俺が声をかけると、彼女は小さく頷き、みんなを見回してから言葉を紡いだ。
「……国王陛下が、わたくしをずっと待っていらしたのは事実でしたわ。」
「なっ……やっぱりか。」
ミネルヴァさんが険しい顔になる。
「ですが、決して如何わしい目的ではございませんの。」
フィオナは胸に手を当てて、真剣な眼差しをこちらに向けてきた。
「陛下は特殊なスキルをお持ちで、人の本質を見抜けるそうです。わたくしが国に必要だと確信なさっていた、と。……ただ、わたくしのこととなると少々無邪気になられてしまうため、説明不足で誤解を招いてしまったのだと、后妃様が代わりに謝ってくださったのです。」
「なるほどな……」
俺は腕を組んでうなずく。
「それで、貴様は誰だ?」
ディーノさんが剣の柄に手を掛けながらフィオナに質問すると、ミネルヴァさんも剣に手をかけ、リメアが杖に魔力を流し始めた。
「え?え?私よ私!フィオナ!」
「フィオナはそんな喋り方はせん。偽物か、または何かが憑依したか?」
「違うって!」
「では、証明してみせろ。」
「証明って、どうすれば・・・」
本人の証明ってなかなか難しいよね。
「んー、脱ぐとか?」
「脱いでも分からんだろ!」
横から俺がぼそっと言ったら、フィオナが即座に反応した。
リメアが肩を揺らして笑いながら追い打ちをかける。
「確かに、身体的特徴なら証明になるかもしれませんわね。」
「リメアまで何を言い出すのよ!」
「ケンゴ様、コレの刑って何ですか?」
リメアが手の指をワキワキさせながら問うてくる。なるほど、その手があったか、とフィオナを見ると、ひぃ!と一歩下がっていた。
「ごめんなさいごめんなさい、悪乗りしました!」
「あ、いつものフィオナだ。」
「ですね。」
ミネルヴァさんの言葉に、リメアがクスクスと笑う。
それを聞いたディーノさんは、呆れたような溜息とともにゆっくりと剣から手を離した。
「ギルドカード見せればよかったのに。」
俺の言葉に、能面になるフィオナだった。
「それで、后妃様はなんと?」
「ええと……もし私が望むなら、第2王妃として迎えたいって。」
「そこは変わらないのか。」
俺が問い直すと、フィオナは気恥ずかしそうに頬を掻きながら答え、皆が一斉に渋い顔になる。
「ただ、嫌なら断っても構わないって。勇者様を支える仲間として活動するのも、国のためになるからって。」
一通り話を終えると、控え室は静まり返った。
やがてミネルヴァさんが身を乗り出すようにフィオナに質問した。
「で? フィオナ自身はどうしたい?」
リメアも細めた目で「まさか承諾するつもりじゃないでしょうね」と探るように言った。
そしてディーノさんも、真剣な眼差しで問いかける。
「フィオナちゃん……」
皆の視線を浴びて、フィオナは一呼吸置き、胸に手を当てて宣言した。
「勿論、ケンゴにこの身を捧げるわよ!」
・・・一瞬、時が止まった。
「……はああ!?」
ミネルヴァさんが叫ぶ。
「ふふ……大胆ね。」
リメアが口元を押さえて笑う。
「何を言ってる?」
今度は俺が能面になるわ!
だが一番衝撃を受けていたのは、ディーノさんだった。
目をうるませ、唇を震わせながら小さくつぶやく。
「フィオナちゃん……俺は?……」
「えっ!?」
フィオナは慌てて皆の顔を見回し、ようやく自分の言葉の重大さに気づいた。
顔を真っ赤にして、両手をぶんぶん振る。
「い、いや! あの! その……勇者に“力”を捧げるという意味で! 決して……やましい意味では……!」
「お前まで勇者とか呼ぶな!」
俺は思わず突っ込んだ。
耳まで真っ赤にして混乱するフィオナ。
ミネルヴァは額に手を当て、リメアは肩を揺らして笑い、ディーノは半泣きで天を仰ぐ。
◇◇◇
「ケンゴ様、皆様、食事の用意が整いましたので、ご案内いたします。」
控え室の扉がノックされ、年配の侍従が顔を覗かせた。姿勢はきっちりしているのに、どこか親しみやすい雰囲気をまとっている。
俺たちは一斉に立ち上がった。……が、空気はどうしても硬くなる。国王と会食なんて、普通に考えたら人生で一度あるかないかの経験だ。
「うぅ……緊張で足が震えてきたわ……」
「さっき国王を“あんた”呼ばわりしてた人が、今さら何を言ってんの。」
リメアに突っ込まれて、フィオナは真っ赤になって口をつぐむ。
そんなやり取りを聞いていた侍従が、廊下を先導しながらにこやかに振り返った。
「ご安心ください。陛下は難しい作法などお求めではありません。ただ、皆様の旅のお話を、ぜひ直接お聞きになりたいと楽しみにされております」
「……冒険話?」
「はい。道中の珍しい出来事や魔物退治のことなど。勇者様がどのように過ごしてこられたのか、陛下はともかく、王子と王女が大変関心を寄せておられます」
「冒険話って言われても……ほとんど道中のトラブルと食事の話くらいですよ。」
「その試練を乗り越えてこその勇者様です。」
「いや、そんな立派なものじゃなくて。ちょっと依頼されて、動かない魔植物を引っこ抜いたり、熊やアイアン・ボーンを倒した程度ですし。」
「悪徳業者を根こそぎにされたとか。」
「……なんか話が盛られてないですか?」
その言葉に、フィオナとリメアは少し肩の力を抜いたように見えた。
俺自身も、さっきまで胃がひっくり返りそうだったのが、少しはマシになる。
ま、成るように成れだ。
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