080 落ち着けフィオナ
「次はそちらのお嬢さんを紹介してもらおうか。」
リメアを名残惜しそうに見た後、国王が静かに俺を促した。
いよいよフィオナの番だ。
「彼女はフィオナ。私が今回始めた旅の、序盤から一緒にいる仲間です。」
名前を聞いた国王は、玉座から降りてフィオナに近づく。その視線が、彼女を逃がさない。
「フィオナとやら、そちの顔をよく見せろ。」
フィオナは観念したように、頬被りのスカーフを取り、その顔を晒した。
「やはりそなたか!」
国王は徐ろにフィオナの手を取り、歓喜の声を上げた。余りに突然なのでびっくりしたな、もう!
「久しぶりだね、フィオナ!私を覚えているか?!」
いや、忘れねーだろ。国王だぞ、お前。
国王はフィオナの手を取り、ブンブン振りながら声を張り上げた。
「フィオナよ! よく戻ってくれた! この日をどれだけ待ち望んでいたことか! 今からでも遅くはない。ぜひ吾が后に──!」
「はあ?あんたまだそんな事言ってんの?!60年も経ってんのよ!」
フィオナが全力でツッコむと、謁見の間に緊張が走った。
フィオナ、口のきき方!
国王は急に胸に手を当て、天を仰ぐ。
「そう……60年! フィオナ、吾は60年間そなたのことを片時も忘れたことはなかった!」
あ、コイツ本物だ。
フィオナは慌てて国王の手を振り払うと叫ぶ。
「后ならもういるでしょ!」
「第2王妃の座は空けてある!」
「空けてあるって……何よそれ。」
真剣そのものの顔で言い放つ国王に、フィオナが助けを求めて俺を見る。
いや、そんな目で見られても、俺にも回避方法が思いつかん!
その時、扉が勢いよく開かれ、高貴な女性が現れた。
「……やっぱり。もしやと思って来てみれば、案の定ですね。」
「セ、セレナ……!」
「あなた、みっともないからいい加減になさい。」
その声音は柔らかいが、このカオスな場を難なく圧した。
国王をあなたと呼ぶからには、第一王妃セレナ様かな?
優雅な笑みを浮かべながらも、その眼差しは鋭い。
王妃は一歩進み出て、冷ややかに言い放った。
「まさかとは思うけれど、いつまでも若いエルフの身体目当てではないでしょうね?」
「ち、違う! 吾が惹かれたのは、彼女のその芯の強さだ! 決してそのような如何わしい思いでは──」
「言い訳は結構です。彼女が困っているではないですか。彼女はあなたを慕ってここに来たのではありませんよ。あなたが呼んだ勇者様の仲間としていらしてくれたんです。」
王妃は静かな語り口だ。しかし、その瞳には有無を言わせぬ圧が宿っていた。
国王は完全に押し黙ってしまったので、謁見の間は、何とも言えない沈黙に包まれた。
フィオナは救われた格好になり、王妃へ小さく頭を下げる。
王妃はフィオナに柔らかい微笑みを向けて
「ご苦労をかけましたわね」と声をかけた。
王妃、強えぇ〜。国王を瞬殺した。
王妃に一喝されて黙り込んだ国王だったが、なおも未練がましくこちらを見てくる。
というか……やたらと俺を睨んでないか?
「……」
まただ。さっきから視線が突き刺さる。
……ひぃぃ……これって、俺がフィオナを横取りしたことになってんじゃないの?
しかも、目が合うたびに頭の奥がギリッと締めつけられるような感覚が走る。
何だこれ……?ただ睨まれてるだけじゃない、もっと変な、何かを覗き込まれてるみたいな……。
と、ポケットのスマホがブルっと震えた。
何かの通知の震え方なので、画面を目に呼び出すと、通知を開く。
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警 告:外部からの不正アクセスを検知。
攻撃名:魔眼(推測)
対 応:悪意がないため、遮断はしませんでした。
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魔眼?
魔眼ってなに?
〔コグニー、今不正アクセスの警告が出たんだけど、魔眼って何?〕
〘魔眼は「人の本質・真実」を見通す特殊スキルです。使用者はアトラス・パシフィス国王です。〙
〔何、その素っ裸にされるようなスキル。だから俺のことを睨んでた?〕
〘はい。ケンゴ=勇者と聞いていた国王が、ケンゴの本質を見極めようとしているようです。〙
なるほど、だから何度も睨まれたのか。
けど、国王は何も掴めず、かえって苛立ちを募らせているように見えた。
〔それで、俺は国王にどう見えている?〕
〘……“なんの取り柄もない凡人”です。〙
〔おい待て、言い方!もっとこう、“正体不明”とか“謎の存在”とかあるだろ!〕
〘いえ、凡人です。〙
〔酷くない?〕
〘ケンゴはスマホの付属品だからです。〙
コグニー、いつか絞める。
しばらく無言の睨み合いが続いた後、国王はふいに息を吐き、フィオナへ視線を戻す。
「フィオナ……そなたが勇者殿を選んだのならば、吾は止めぬ。勇者殿」
「はい?」
しまった。
唐突に呼ばれて、思わず返事をしてしまった。
俺、勇者じゃないっす。
「そなたにフィオナ嬢を託そう。……よいな?」
「……は、はいっ。」
首を縦に振るしかなかった。だって王様だし!
「よい返事だ。万が一何かあれば、この国が後ろ盾となろう。」
そう言った国王の横顔は、さっきまでの暴走ぶりが嘘のように威厳を帯びていた。
……いやほんと、頼りになるんだかならないんだか。
「託すも何も、そもそも私はあなたのものではないから!」
落ち着け、フィオナ!
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