007 初ギルド
アップ予定日を間違えてたのと、多忙によりアップが遅れました。すみません。
「着いたぞ。ここが冒険者ギルドだ。」
「あの、ここで合ってます?なんか看板に居酒屋って書いてあるんですけど。」
着いた建物は、看板通り少し立派な家を改造した居酒屋としか見えない建物だった。
しかも看板には「居酒屋 モリバス」とある。
「あー、この村は町に比べたら小っせえからな。町にあるような立派なもんじゃねえ。居酒屋がギルドの出張所も兼ねてるんだ。さ、入った入った。」
バンスさんの後ろについて中に入ると場末の居酒屋的作りだ。入ってすぐ右側に丸テーブル席が幾つか。壁には依頼票が貼ってあるボード。左側から奥にかけてL字型にカウンターがある。
テーブルやカウンターには冒険者らしき人が数人いて、バンスさんとお互い手を上げて挨拶している。
「あら、バンス。久しぶりね。」
奥のカウンターの向こう側からニコニコしてる美人のおばさんが声をかけてきた。
「おう、ステラ。久しぶり。今日は買い取ってもらいたいものがあってな。」
「それじゃこっちで受け付けますよ。」
「モノはこれだよ。」
エドと俺がカウンターに荷物を2包置く。
居酒屋だからかなのか、接客がアニメで見るより少しラフに感じる。
「ボアの皮だね。2匹分で40ポル、それと綺麗に処理されてるので、その分10ポル追加で、合計50ポルです。」
「もうちょっと何とかなんないかい。元がデカイからさ。こっちなんか子ボアの柄でこのデカさだぜ。」
「なんないです。」
「ちぇっ、しょうがねぇ、分かったそれでいいぜ。」
あら、随分と諦めが良いな。
こっちの通貨はポルってのは入村料払う時に分かったけど、言われた金額の価値が分かんねえ。
「はい、では50ポル、大銅貨5枚でいいよね。成果を記録するのでここへギルドカードを。」
「あ、仕留めたのはエドだから、こいつのカードに記録してくれ。」
「あら、エド君が仕留めたの?2匹とも?凄いじゃない。ではエド君のカードをこちらに。」
「はい、これです。」
カウンター上の分厚い円盤状の板の上にカードを置くと板が少し光った。
「はい、記録しましたよ。あと少しで5級になれそうだね。」
「ありがとう。へへ。」
嬉しそうなエド。
へ〜、その年で立派な冒険者じゃないか。
「あと、こいつの冒険者登録をしたい。それと、」
と声のトーンを落とすバンス。
「森で死体発見の報告だ。」
「分かりました。先に報告を聞きましょうか。」
「ああ、いいぜ。」
「ではまずこれに、発見者の名前と発見日、あと、おおよそで良いので発見場所を書いてください。」
「ケンゴ、発見者はお前さんだから、お前さんが書いた方がいい。」
「分かりました。」
ちょっとビビっていたのだが、名前と日付は多言語対応スキルのお陰で、こちらの文字で難なく書くことができたのには、我ながら驚いた。
ただ、苗字持ちは貴族だけらしいので、面倒回避のために名前だけにしておく。
「場所については、まだ森に詳しくないので、地図があれば大体の場所は示せると思います。」
「地図ならここにあるよ。」
ステラさんが背後の書棚から地図を出してくれた。前世(でいいのか?まだ死んでないけど)の地図に比べると、岩、大木、崖といった大きな目印がメインのかなり大雑把な地図だけど。
「エド、お前の罠を仕掛けていた場所は何処になる?」
「えーっと、ここだぜ。」
「なら、発見場所はそれより少し南の方に行った、あ、これが川だからその間のこの辺りかな。」
「おいおい、随分と深い所に行ってたんだな。」
脇で覗き込んでいたバンスが驚いていた。
「水を探して森に入ってこの川まで辿り着いたは良かったんですが、その後街道に戻れなくなって迷ってたんですよ。」
「それで、その亡骸の状態や個人を特定出来そうな物は現場に有りましたか?」
「亡骸は既に白骨化してました。衣服は付けたままです。お腹のあたりはシャツに穴が開いていて、血の跡が付いていました。」
俺の説明をステラさんが書類に記述してくれる。
「あ、故人には失礼と思いながらも、自分に使うためにこれとこれ、あと財布を持ってきました。お金は入村料で少し使ってしまいました。」
カウンターにマントと刀、財布を置く。
ステラさんの表情が硬くなった。
あ、お金使ったのまずかったかな。
「あ、あと認識票を付けていたので、それも持ってきました。」
認識票を手渡すと、確信したような声でステラさんが答える。
「ありがとう。剣を見て見当ついてましたが、認識票があれば確実です。」
「やっぱあいつか?」
「ええ、あの・・・多分マネ村のゲトーさんだと思う。」
「回収に行くかい?」
「はい、ギルドで手配でき次第回収人を行かせます。提出頂いた遺留品はギルドで預りますね。」
「ステラ、大丈夫か?」
「ええ、大丈夫。ありがとう。」
バンスさんとステラさんの会話が少し気になる。
預けた遺留品をステラさんが愛おしそうに撫でていたのも。
そして、随分と重そうにしていた。
「よし、じゃあ次はケンゴの冒険者登録だな。」
「はい。登録料は10ポルです。」
「切り替え早っ!」
あ、しまった。さっき財布を遺留品で渡したから文無しだ。
「あ、それはこっちで出すぜ。」
「え?バンスさん、それは悪いです。」
「なに、さっきのボアの皮の買取金から出すさ。ケンゴも一緒にボア捕まえてくれたからその分だ。」
バンスさんがさっさと払ってしまった。
「それではこちらの書類に名前など必要事項を記入ください。」
ステラさんに手渡されたのは登録書。
必要事項は、氏名、年齢、出身地、特技、となっている。
うーん、名前以外書きづらい。
「どうした、さっきはスラスラ書いてたから字が書けないわけじゃないだろう?」
固まってるとバンスさんが突っ込んできた。
「いやあ、年齢どうしようかと。」
「ケンゴは25だぜ。昨日言ってた。」
「馬鹿言え、どう見たってマーシャとかわらない15・6じゃねえか。」
そう見えるのなら、面倒回避のため合わせとくか。出身地は日本国、特技はさっきアプリに有った捕縛にしておこう。
「これでお願いします。」
「はい、ケンゴさんですね。年齢は15歳、出身地は…ニホンコク?で良いですか?」
「はい、それで合ってます。」
「ケンゴの国の名前初めて聞いたぞ。」
「おう、初めて聞く国だな。随分と遠くから来たんだな。」
「あはは、まあ・・・」
「特技は捕縛ですか?採取や罠ではなく?」
「捕縛で良いです。」
「分かりました、ではカードを作るので、こちらに血を一滴垂らしてください。」
と、一番下に茶色のカードを差し込んだ、置物のような装置をこちらに差し出した。
中程に丸くて白い拳大の石が嵌め込まれている。
「この上の小皿みたいな所にですか?」
「はい、針はこれを使ってください。」
渡された針で指をチクッとやって血を垂らすと、差し込んだカードに白い石から出たレーザーみたいな光で名前などが刻まれていく。どんな仕組みなんだろう。
「はい、出来ました。登録したばかりなので7級からになります。ひとつ上のランクの依頼まで受けられるので、まずは7級と6級の依頼から始めてください。今認識票も作るので、もうちょっと待っててください。」
銅で出来ている手元のカードには、俺の名前と認識番号、7級の表記が刻まれている。
「おお〜、これで冒険者だあ。」
「ケンゴ、俺が登録した時と同じ事言ってるし。」
「みんな同じだぜ。俺も同じ事言ってた。」
「え?父ちゃんも?」
「皆さん同じ反応ですね。こう言ってはなんですけど、此方側から見てると面白いです。
はい、これが認識票です。」
「ありがとうございます。あの、魔力測定やレベル確認とかはしないんですか?」
「普通、人族は魔力が殆ど無いので魔力測定は意味がないんです。レベル確認というのはよく分かりませんが、冒険者登録には必要無いものだと思います。」
そうなのか。
ラノベやアニメでよくある、冒険者登録でのチート発覚を期待していたんだが、不発か。
「ケンゴが受けられそうな依頼が無いか見てみようぜ。」
エドに言われて依頼票が貼ってあるボードを眺めると、ランク別に分けて貼ってある。7級の依頼を見ると薬草採取、農作業補助というのが多い。
「農作業補助って何するか知ってるか?」
「父ちゃんが前によくやってたけど、農作業補助は力仕事が多いからケンゴ向きじゃないぜ。」
「どうして力仕事が多いんだ?収穫作業なら力仕事でもないだろ。」
「依頼主は老夫婦が多いんだよ。収穫したら運ばなきゃならないだろ。子供が独立して冒険者になったりで村を出ちまったら、農作物や伐採した材木を運ぶやつが居ねぇんだって。」
「なるほど。どこも同じだな。」
前世で有った地方都市の過疎化が思い起こされる。
「ケンゴ、これなんかどうだ?薬草採取だから、俺が罠を仕掛けるのに一緒に来れば、森の中で採取できるぜ。」
確かに、慣れるまで森に行くのはエドと一緒の方が良い。
エドが指差す依頼票にはスズナリ草の採取とある。
「エド、このスズナリ草ってどんな植物なんだ。」
「白くて鈴みたいな花が沢山付く草だぜ。花をすり潰して薬にするらしいけど、何の薬になるのかは知らねえ。俺が罠を仕掛ける場所へ行く途中によく生えてるぜ。」
あ、スズランのことかな?
見た目が想像できるし、すぐに見つかりそうなのでこれにしよう。
ぺっと依頼票を剥がして受付へ持っていく。
「ステラさ〜ん、これお願いします。」
オフの日用のジーンズを履いて出社していることに、さっきトイレに行った時に気が付きました。
朝じゃなくてさっき、というのがもうヤバいです。