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003 イロイロ遭遇

 う~

 怪しい宿屋と別れたのは失敗だったかも。

 ピクニック気分で数時間歩いた所で後悔し始めている。

 思えば、こっちに召喚されたのって、元の世界で3日間帰らずに仕事した日の深夜だったんだよな。

 こっちの世界ではまだ日が高いが、身体的には貫徹状態で歩いてることになるので、ふらついて当然だ。

 持ってたお茶も少なくなったから水を確保したい。

 

 この世界には自販機みたいなのは無いんだろうなぁ、と馬鹿なこと考えながら歩いていたら、丁度森に入る獣道を見つけたので、川か何か無いかと思い、今歩いている街道をそれて獣道から森に入ってみた。

 お腹も空いたし、何か果物みたいな食べられる物も手に入るといいな。

 

 森の中は陽が遮られてるせいか、涼しくて気持ち良い。

 ずっと仕事詰めだったので、こんなに自然豊かな場所を歩くのは新鮮で良い。

 感覚的に30分ほど歩いた所で水の流れる音が聞こえてきた。近くに川があるらしい。

 音のする方向へ歩いて行くと森がどんどん深く暗くなってくる。辿り着けるかな? でもだんだん音が近くなってきた。と思ったら、沢は突然現れた崖の下だった。。

 ここからは降りられないので、降りられそうな所を探すと、少し上流に岩が階段状に露出している場所があった。あそこならなんとか降りられそうだ。

 子供の頃は実家の近くにこんな場所があって、友達とこうやってよく遊んだなあと懐かしみながら降りていき、沢に辿り着いた。。

 岩場で流れが速いせいか、思ってたより綺麗な水が流れてる。でも魚は居ないっぽいな。

 持ってたペットボトルに水を汲んでみても濁りはなく、大丈夫っぽい。

 少し飲んでみると、水だ。当たり前だけど。塩素臭さもないピュアな天然水。

 

 足場の悪い森の中をかなり歩いて疲れたので、ここで少し休むことにした。

 近場の岩に腰掛けて足を揉む。

 疲れたのは歩いたせいだけではないと思う。まさか会社帰りに森の中でサバイバルすることになるとは思わなかった。

 沢の音を聞いていると心が落ち着く。

 というか眠気が来る・・・


 カサッ


「!」 

 ウトウトしてたところで、落ち葉を踏む音に、はっと目が覚める。

 

『魔物に襲われても知らないからな!』

 

 さっきのおじさんが言っていた言葉を思い出し、身構えつつ恐る恐る木の向こうを覗いてみると、そこには額に小さな角が生えたウサギが何かもぐもぐしてた。

 この世界にもウサギいるんだね。

 カワイイ。癒やされる。


 あ、ウサギ肉って確か美味いんだよな。食べたことないけど。捕まえられないかな。

 何か武器か罠に使えるものがないかと周りを見回すが、葉っぱと細い枝くらいしか落ちてない。

 ならばとリュックの中を漁る。

 水の入ったペットボトル

 スマホ(充電済み)

 ソーラー充電器&充電ケーブル

 財布

 100均のライター

 おやつのグミが少し


 はい、残念でした。

 まぁ、デザイン制作会社のプロデューサーが持ってるものって、サバイバル向けじゃあないわな。

 タバコ吸わないのになんでライターが入ってるんだろう?

 あ、会社主催のBBQに行った時に、片付け終わったテーブルにあった忘れ物を持って帰ってたんだった。

 

 考えてみれば、ウサギ捕まえたところでどうやって捌くんだよ。ナイフなんて持ってないよ。

 ウサギ捕獲は諦めよう。

 でも角の生えたウサギは珍しいし可愛いので、写真を撮っておこう。

 スマホ取り出してカメラを起動しようとしたら、いつものカメラアプリの名前が違う。

 「捕縛?」

 魔法陣通った時におかしくなっちゃったかもしれない。後で他のアプリの名前も調べてまとめて直しておこう。

 ウサギを撮影して、ちゃんと撮れてることを画面で確認している間に、ウサギは何処かへ行ってしまったようだ。

 

 この時、カメラのアイコン周辺に見知らぬアプリが並んでいるのに気付いてなかった。

 

「さて、行きますか。」

 おやつのグミを1つもぐもぐしながら、元の街道に戻るために反対側の崖を登ってみる。

 あ、、、

 こっちで合ってる?

 ヤバい、方向が分からん。


 崖のあっち側から来たから、こっち方向に行けば村寄りの街道に出られるはず。たぶん。

 歩きながら食べられそうな木の実も探そう。


 で、迷った。

 いくら歩いても街道らしき所に出ない。

  

 1時間ほど歩いた所で、木にもたれて座って休んでいる人影を見つけた。

 良かった、助かった。方向だけでも教えてもらえれば随分と違う。


 「すみませ〜ん、ちょっと道を聞きたいんですけど〜」

  

 寝てるところ邪魔しちゃ悪いかと思いつつ、何か情報が貰えることを期待して声を掛ける。

 起きる気配がない。

 後から近づいたら驚いて攻撃されるかも、と警戒して前に回り込んで、、、

 死体だった。

 もう白骨化しているので、随分経っているようだ。

 身に付けているものから判断するに、冒険者かな。アニメの知識だけど。

 魔物が何かにやられて力尽きたんだろうか。シャツの前にナイフで刺されたような穴が開いていて、血の跡と思われる黒いシミが付いている。

 こんな道もない森の中で一人で死んでしまったなんて、可哀想だなあ。

 とは思いつつ、

 故人には申し訳ないが、俺に使えそうな物を持ってないかな?

 ちょっと失礼しますよっと。

 ・フード付きのマント(ローブ?)

 ・剣

 ・お金の入った小袋

 他にも幾つか使えそうな物はあったが、ひとまずこの世界に合わない俺の服装を隠せるマントは良さそうだ。汚れもなく、素材も良いものらしくて、シンプルながら結構しっかりした作りをしている。

 剣は、あれ?これは日本刀?

 アニメでよく見る、いかにも冒険者ですって感じの剣ではなく、刀身が銀色に輝く日本刀だ。

 紫の石が柄の部分にはめ込まれてる以外は華美な装飾はない、こちらもシンプルな物だ。素材のことは分からないけど、持った感じは軽くて俺でも振りやすい。

 以前に仕事の取材先で本物の日本刀を持たせてもらったことがあったけど、ずっしりとして、昔の人はこんなの振り回してたのかと関心したものだ。

 でも、これなら俺にも扱えそうだな。

 この人はデザインより機能重視で物を選ぶ人だったのかな?

 もちろん刀なんか使ったこと無いのでただの飾りになるけど、何か動物や魔物と遭遇した時の護身用に役立つかもしれない。

 お金は故人には不要な物だし、今俺は文無しなので少しでもあると心強い。

 

 あと、故人が首に付けていたネックレス。

 アニメなんかだと、冒険者は認識票みたいな物を付けていたので、多分そういうものでは無いかと思い、これも持って行くことにする。

 村かどこかでこの人を特定できるかも知れない。家族が待っているかも知れないし。


 死体を埋葬してあげたかったけど、穴を掘る道具がないので諦め、合掌だけしてその場を後にした。

 この世界で仏教的合掌が通じるのか分からないけど、気持ちが大事。

 貰ったものは大事に使わせてもらいます。


 周りが薄暗くなってきた。日が落ちかけてるのかもしれない。マズイな。

 沢でウトウトしたり冒険者の死体から装備を取ったりして、余計な時間かかってたからな。

 少し急ぐが、慣れない森の中なので思ったほど速く歩けないのがもどかしい。


「あ、ウリ坊」


 いきなり10m程前にイノシシが居た。

 背中の模様から子供なんだろう。

 それでもでかいけど。

 何かもがいてるのでよく見たら罠に掛かってる。罠はそばの木に鎖で繋がれてるので、イノシシはそこから動けないでいる。


 良かった。

 目が合ったからこっちに向かって来たらどうしようと焦ったんだ。

 罠は猟師が仕掛けたんだろう。

 勝手なことして獲物を逃してしまったら悪いので、罠とイノシシには近づかず、通り過ぎる。

 はずが!

 罠が繋がっている木の後ろにもう一匹イノシシが居るじゃないか!

 油断してたので、何かいる!と見たら目が合っちゃったじゃないか!

 罠に掛かっているのよりふたまわりくらい大きいところを見ると、あれの母イノシシなのかな?


 「ブモッ、ブモッ」 


 「待て待て待て待て!。

 あれは俺が仕掛けた罠じゃないから。

 俺は関係ないから。」


「ブヒャア!」

 

 ってこっちに突進してきたぁ!

 違うって言ってるのに!!

 咄嗟に全速力で逃げる俺!


「だあ!俺は関係ねえー!来るなあ!」


 森の中でこんなに速く走れるのなら、もっと早くから走っておけば良かったとか思うほどの速さ!

 傍から見たらギャグ漫画で有りそうな疾走感なんだろう。


「ブフォ!ブフォ!」


 あの図体でなんでそんなに速いんだ!


「ひー!誰か助けて!@#$%※¥¿✥✪❖!」


 もう言葉とも悲鳴ともつかない声しか出せない!


「!」


 眼の前に男の子がいる。

 なんでこんな所にいるんだ!

 マズい、男の子が巻き込まれる!


「橫に飛べ!」

 男の子が叫ぶ。

「え?」

「何してる!早く飛べ!」

 言われた通りに左橫にジャンプ!

 茂みの中に転がり込む。

「バシュッ!」

 何かがへしゃげる音とズシャーと土の上を滑る音がした。


 ああ、男の子が跳ね飛ばされちゃった。

 あまり見たくない光景を想像しながら、茂みから這い出して音のした方へ行くと、そこには倒れて動かないイノシシと、その傍らでこっちを見てニカッと笑う男の子の姿が。


 何? どうなったの?  

 

今回も読んでいただきありがとうございます。

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