097 王都へ帰るぞ
「じゃぁ、そろそろ帰ろうか。」
精霊の恩寵の付与を受けて、頬が緩んでいる仲間達を引き連れ、神殿の大広間の出口に歩き出す。
「ケンゴ、忘れものだ。」
背中に、マーキュリーの声がかかった。
「え? 何を?」
「ヴァーユを。」
一瞬、意味が理解できなかった。
「倒したんだし、もう自由だろ?」
そう言う俺に、マーキュリーは首を横に振った。
「勝利者が力を持ち帰る。それが、この世界の理だ。」
「持ち帰るって、物みたいに言うなよ。」
「そうだな。ただ連れ帰るのではなく、調伏してください、と言う意味だ。」
「は?」
調伏って俺の中では、悪さをしているやつを懲らしめて服従させるイメージなんだが。
と、ボンテージ姿のフィオナが高笑いしながらヴァーユを鞭打つ図、が頭に浮かぶ。
「まあ、言葉通り取るなら大体そのイメージで合ってるけど、今回は素直に負けを認めて従うことにしているから、テイムに近いな。」
「わぁ!頭ん中覗くなよ!」
「何考えたの?」
「おおぅ!フィオナは関係ない関係ない。」
「怪しい……」
ジト目のフィオナは置いといて、マーキュリーに向き直る。
「俺の封印にテイムってのは無いぞ。」
「君の持つ封印機能には、その区別がないから、全て調伏になっちゃうみたいだね。そういう仕様だから仕方ない。」
「分かった。じゃあヴァーユ、やるよ。」
「あ、ああ、その、い、痛くないよな。」
おいおい、さっきまでガチ戦闘してたくせに何言ってんだか。
「アスモラ、その辺どうだったの?」
「私は、恐怖でそれどころではなかったから、覚えてないわ。」
「だってさ。痛かったら痛いって言ってくれ。」
「言ったら止めてくれるのか?」
「いや、痛いんだなって分かるだけ。」
「そんな・・・」
まるで歯医者と患者の会話だな。
「ではいきます。封印」
ヴァーユにそれっぽく手をかざして、それっぽく詠唱のマネをして、封印アプリを起動すると、いつものように白く輝く魔法陣が現れ、ヴァーユが吸い込まれていく。
《魔王ヴァーユを調伏しました。》
ピロっときたメッセージを確認して、みんなに向き直る。
「はい、おしまい。さ、王都に帰ろう。マーキュリーは一緒に来なくていいのか。」
「私は神が解放されるまで、ここを離れる訳にはいかない。」
「ラツィオに来てたくせに。」
「ゴホゴホ……そ、それはヴァーユが居たからだ。これからはここに私一人だ。」
「分かった。そういうことにしとこう。加護をありがとう。じゃあまた。」
「ああ、また。」
そう言ってマーキュリーが指をパチンと鳴らすと、視界がふわっとブレる。
ふと、砂を踏みしめる感触と、乾いた風を感じる。
背後には、ダンジョンに続く崩れかけた石の入り口。
俺たちは旧王都の外――地上へと戻っていた。
この場所を覆っていた砂嵐は、跡形もなく消えている。
視界は開け、遠くまで砂丘が続いていた。
「あー!」
ディーノさんの声に、俺だけじゃなくみんなが警戒する。
「なんてこった・・・」
「なに?どした、ディーノさん?」
「魔石を拾い損ねた。」
「魔石?」
「第三階層の街のアンデッド達の魔石だよ。広場では少し拾ったけど、まだ街中に結構残ってたはずなのに・・・」
あーアスモラが残滅したアンデッド達な。
「少しって、持ってきた袋が全部パンパンになってたじゃない。」
ナイスツッコミだ、フィオナ。
「それの何倍もまだ残ってたんだぜ。一度にそれだけ取れるこんな機会、そうそう無いじゃないか。」
「欲をかいたら自滅する。冒険者になった時に教わらなかった?」
「それは聞いてるけどよ・・」
「フィオナの言う通りだと思います。私も、もう一度あの規模の浄化魔法が出来るかどうかは分かりません。」
「そうよ、アスモラのあの魔法が無かったら、私達今こうしてないんだから。」
「魔石集めしてよかったのなら、マーキュリーがそれを勧めてたと思いますよ。」
「……分かったよ。どうせ今から戻ることも出来ねえし。」
フィオナとアスモラに宥められ、断念するディーノさん。物凄く残念そうだけど仕方ないね。
「砂嵐が無いと、この辺りはこうも静かなんだな。」
「だよな。風と砂が擦れる音しか聞こえない。」
不甲斐ない兄を見かねたのか、ミネルヴァさんが話を変えてきたから乗っておく。
「よし、帰ろう。」
さくさくと砂を踏み締めながら歩くこと数時間。暑さもあってみんな黙々と歩いてたが、腹の虫が騒ぎ出したディーノさんが口を開いた。
「そろそろ昼にするか?ケンゴ、タープを出してくれないか。」
「そうだな。ほれ。」
マジックバッグから日除のタープを引っ張り出して、ディーノさんに渡す横で、ミネルヴァさんが空を見上げているのに気がついた。
「どうかした?」
「さっきより日が高くなってる。」
「そりゃそうだろ、昼だもの。」
「ということは、私達はダンジョンに一晩居たということか。」
「あー、そういうことになるね。」
「それにしては疲れが少ない、と思わないか?」
む、確かに。
みんな一睡もしてないのを忘れてる。
しかも魔王との戦闘を経てるのに、だ。
「マーキュリーが何かしたのかな?」
「かもしれん。もしかしたら加護や恩寵のせいかもしれない。」
「あー、それはあり得る。」
「ところでケンゴ……」
「ん?何?」
「あのバングル……」
「お~いケンゴ、ちょっと手伝ってくれ。」
ミネルヴァさんが何か言いかけたが、ディーノさんの声にかき消された。
「あ、いい。ディーノの所に行ってくれ。」
「いいのか?」
「またにする。」
「分かった。……は~い、今行く!」




