096 ご褒美
「ところで」
マーキュリーが、ぽんと手を打ちながら話を変えた。
「この床を見て何か気付かないかい?」
床?
大理石と黒曜石が使われ、磨き上げられた床を眺めながら皆首をひねる。
「ケンゴなら気付くと思ったんだがな。」
そう言われても、全然分からん。
むー。
「高い所から見てみよ。」
高い所と言われても、ラツィオの神殿みたいなテラスが無いからどうしたものか。
ならば。
俺は、天井に向かってスマホを放り上げると、取寄せ機能を使って空中に移動した。
「あは。そういうことか。」
見下ろした先には、二次元コードが有った。
そう、大広間の床は、全体が二次元コードだったのだ。
「分かったか?」
着地した俺にマーキュリーが声を掛けてきた。
「分かったよ。まさかこんな隠し方するとはね。」
「別に隠してはいないぞ。足元ばかり見ていては気付けんこともある、ということだ。そもそも、その魔導具を持つ者にしか、理解できんしな。」
「確かに。」
俺は、もう一度飛び上がると、その二次元コードを読み込んだ。
スマホの画面には
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風の精霊の加護を得られます
・風属性魔法の効率上昇
・詠唱短縮/省略
・風精霊との親和性上昇
・風の支援
獲得しますか?
YES NO
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おお、すげー!
もちろんYES
さあ……
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こちらも一緒にいかがですか?
勇者の剣
YES NO
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ハンバーガーのサイドメニューかよ!
もちろんNO!
そんなの持ったらバカがうつりそうだ。
風の精霊の加護をインストールした、と通知が来た。
あと、風魔法がアップデートされてる。
「何を貰えたの?」
俺の様子を見てフィオナが聞いてきた。
「風の精霊の加護、だってさ。」
「え゛」
「風魔法もアップグレードしたみたい。」
「え゛」
「勇者の剣は貰わなかった。」
「それはいらない。ていうかさ、エルフの私でさえ精霊の加護なんて貰ってないのに〜。ずるくない?」
いや、ずるくはないぞ。
なにせ魔王を倒したんだからな。
そこにいるけど。
「ケンゴ、ちょっと風魔法を試してみようか。」
「どうすればいい?」
「これを唱えてみろ。」
マーキュリーが、楽しそうに革紙を俺に手渡した。
って、長っ!
「この長ったらしいのを唱えるの?」
「初使用だからな。正式な詠唱でやると良い。」
「わ、わかりました。じゃ、いきます。『天を巡り、雲を導き、砂の一粒すら迷わせぬ、理の守護者であるマーキュリーよ。
四方八方に吹き渡る風の・・』
「あ、そこ、『偉大なる』を入れて。」
「え?書いて無いですよ。詠唱内容変えちゃっていいんですか?」
「いいのいいの、ほら。」
ヴァーユがなんかジト目になっているのは気のせいだろうか。
『天を巡り、雲を導き、砂の一粒すら迷わせぬ
理の守護者である偉大なるマーキュリーよ。
四方八方に吹き渡る風の流れを束ね、
世界の均衡を乱さぬよう、
ただ静かに、しかし確かに支え続けし存在。
神々の御座に連なり、
精霊の頂に立ち、
その名を呼ばれるだけで大気が応える、
偉大なる風の管理者よ。
その御威光の、
ほんの一端を、
この身に許したまえ。
我、今ここに請い願う。
風よ、我を軽くせよ。
लघिमा』
言い終わると同時に、体が淡く光り、ふわりとその場に浮いた。
「おお!浮遊魔法ですか?」
「うんうん、いいね。」
マーキュリーはとてもご満悦だ。
「よし、じゃぁ一度切ってもう一度。今度は浮いたら進みたい方向をイメージしてみよう。」
「はい、それじゃ、・・・・」
「待て待て待て待て!!もう十分だろうがマーキュリー!!」
詠唱を始めたところで、突然ヴァーユが割り込んできた。
「マーキュリー、お前楽しんでるだろう。」
「最近、人に讃えられる機会が減っていてね。」
「だからってケンゴが可哀想だろうよ。何を無駄なことさせてるんだ。लघिमाだけで済むだろうが。」
え?そうなの?
マーキュリーを見ると目を逸らされた。
コイツ・・・
「ケンゴ、魔力を込めて『लघिमा』とだけ唱えてみろ。」
「लघिमा」
ヴァーユに言われるまま唱えると、ふわりと体が浮いた。
「そのまま進みたい方向をイメージしてみろ。」
右へ意識を向けると、体がすい〜と移動した。
スクーバダイビングで、海中でドリフトしているあのイメージだ。
水の抵抗がない分、ダイビングより動きやすいかもしれない。
「よし。速さもイメージすれば高速で移動できるが、そのままだと窒息死したり焼け死んだりするから気をつけろ。高速移動の時は、体の周りの空気を一緒に移動させるか、結界を張ることを薦める。」
あー、それはいろんなラノベで知ってる。
狭い洞窟内で火炎魔法を使ったらダメなくらい常識だよね。
ヴァーユは移動の際の結界の張り方も教えてくれた。
結界の方が不意の攻撃にも対処できるから、魔力に余裕があるならこっちの方がお薦めらしい。
ヴァーユの方が親切だな。
「ケンゴ、その加護は、君が使役している者にも適用されているからな。」
「え、そうなの?」
マーキュリーに言われ、アスモラを鑑定してみると、本当だ。その他の欄に風の精霊の加護と書いてある。
「確かに、アスモラにも加護が付いてる。」
「え〜!やっぱりズルい!マーキュリーさん、私達も頑張ったんだよ!ミネルヴァもそう思わない?」
「え、ええ、まあ。」
「我々も加護を要求する!……ほらみんなも一緒に、要求するぞー!」
「「お、おー」」
おいおい、ディーノさん達も何やってんだよ。
「要求する必要は無い。神殿は、貢献者を取りこぼすほど無粋ではない。」
マーキュリーは、溢れんばかりの笑顔で続けた。
「ケンゴが加護を得た“瞬間”に、この場にいた者にも、既に“風の精霊の恩寵”が付いている。」
「え?そうなの?じゃぁ私達も飛べるのかしら。」
「あ、いや、恩寵だからな。加護と違って飛べはしない。だが、移動補助や落下衝撃緩和など、冒険者には都合の良い物だぞ。」
「あ、じゃあこれからは木から落ちても怪我しないのね。」
薄々分かってはいたけど・・エルフなのに意外とドジなんだな。
「ところでケンゴ、先の戦闘中にもう一匹の従魔をなぜ出さなかったのだ?」
「そうだぞ、出してればかなり戦況が変わっていたぞ。」
マーキュリーとヴァーユの質問で忘れていることに気が付いた。
あとでハヌマンに謝っておこう。
読んで頂きありがとうございます。
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作者が小躍りして喜びます。




